月刊 未詳24

2008年1月第10号
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こがね ゆくえ U
 木立 悟



舟に舟のかたちに溜まり
宙を照らしかがやくもの
とくりとくりと
輪を描くもの


風が散らす雪のまわりに
道を創る歩みのまわりに
かがやくこがねの波があり
涙を涙に打ち寄せている


何もないということもなく
何かがあるということもなく
ひびきは生まれひびきに抱かれ
器の内と外の色を得る


新しいものはしゃにむに分かれ
見る間に唱になってゆく
遠くへ遠くへ引き離される
そのかけらまでもがかがやいてゆく


まるいものがまるさを憎み
ほてりほてりと捨てゆくとき
灰のなかに消え去ろうとする
小さな炎の柱を見るとき


さみしくきれいなものたちが
さみしくうつろなものたちへ降る
さみしさもうつろさも
ただそのままにそのままに鳴る


しずくを紙にしみこませ
くちびるにくちびるを描くとき
行方なきこだま
こがねなるもの


唱の終わりとはじまりのほころび
目を閉じることで縫い合わせ
奈落の底へ流れる空が
枝になり火になり微笑むを見る















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ぼくを呪う
 しもつき、なな



聞き、焼き付いた、橙と青との群れなしで
ぼくを感じておくれよ
その海をもたすけるから

動じない太陽を、直視する
水平線は円だということもいまなら
おしえてあげられる
ぼくを二度も何度だって
知っておくれよ



ここで暮らし、
春を嫌い成長し使いすての耳で
忘れ……

融点にふれた
(とても、静かの)
その浅さが水



眠りの街で
よこたわって死体のようになり、浴びるうみ、を……
にぎり潰すように、人人、わらうのなら
ぼくをのろっておくれよ
正しい嫌いかたでもって呪文をかけ
(感化される、恐怖が、)





どうか
死んだら火で焼いてください
ぼくじゃ少し燃えづらいかも知れない
それでもきっとあとかたもなく
やっておくれよ
そうして土でも
かけておけばいい


呼吸、焼き付ける、橙と青との群れなしで

ぼくを感じておくれよ




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静かな氾濫をこえてー四つの断章
 前田ふむふむ


     1

逆光の眼に飛んでくる鳥を、
白い壁のなかに閉じ込めて、
朝食は、きょうも新しい家族を創造した。

晴れた日は、穏やかな口元をしているので、
なみなみと注がれた貯水池を、
空一杯に広げている。

流れる眼差しを追いかけて、
わたしは、カレンダーに横たわる遊歩道を歩く。
見慣れた紫陽花のうえで、
ひとりの女性の生い立ちを絞殺しながら、
やさしい言葉は、空を飛ぶこともあるのだと、
独り言を飲みこんで、
その香りあがる手土産を、母に自慢げに話した。
少しやつれた母は、わたしのために、一人の青年を
碧い海に旅出させた、美しい船の話をしたが、
このひかりを聴いたのは、何度目だろう。
母は子供のように笑っている。

眩しい食卓。五つの白い曲線の声、
              溢れて。

遠い記憶の片隅から、搾り出した破片。
その草々のなかで、溺れている影を、
抱きしめると、
空白の砂丘を埋めて、驟雨に霞む橋梁が動く。

  ・・・・・

見上げれば、鳥は見えない。

灌木のような春が裂けて、
汗ばんだ夕暮れ、
誰もいない部屋の静物が、起き上がると、
退屈だったひかりは、度々、そつなく計算をして、
わたしの置き場を支えるのだ。

      2

雨に濡れた寒々とした少女が、
絵本のような眼で、わたしを見ている。
傘では、精神病棟の原色の色紙を
切り分けることができないのだろうか。
後姿が、わたしの神話のなかに溶けてゆく。

仄暗い夢のなかの、
古いピアノの置かれた部屋で、
透きとおる唇が、翔ることがある。
水底のような落ち着きを、
少女は、あの音階の上にだけはみせる。
人形のように、瞬きもしない、わたしの眼のなかで、
少女が、手紙を書いている。
夥しい追伸の記憶。
そんなとき、遠い日の彼岸花が、いま、
燃えるように咲いている。

      3

思い出したことがある。
眼が眩むデザインのイルカが、空を飛んでいる。
それに、目線を合せず、眺めることが、
臆病者と陰口をたたかれる時代があった。
熱狂は、テレビゲームのように、
多様な遊び方の説明書が付いていた。
「メーカーにより、操作方法が異なります。」
象が墓場を目指すように、
あるいは、気取ったポーズをして、
わたしは、孤独な書架にもぐり、
うすい色の心臓の鼓動を聞いていたが、
深い海を泳いでいる魚のように、
顔は、黒い円を掬ぼうとしていたと思う。

そこで、手に付いた取れない血を、洗っている君も、
そうだっただろう。
あの夕立の頃は、
血を探すのに、懸命だった。
わたしも、君も、街角にこまめに足跡を付けている
犬も、猫も、からすも。

      4

月が、聡明なひかりを向けているときは、
到着駅の、ひとつ手前の駅で、
死者の笑い声を聞いて、
ともに笑いながら、オフ会をしよう。
死者の家の間取りには、砂の数ほどの席がある。
あの、なつかしい歌声も、
歪なざわめきも、
   みんな、わたしの空だ。





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うず
 ミゼット

そのこは
ちぇるしーでもどろしーでもなかったので
たつまきのなかからでられません

こうせいのうのぱそこんは
たくさんのびょうきにかかっていきもたえだえ

かかしもらいおんもみんなおもちゃ
とうぜん まじょにもあえません

らっかちてんは
けいじがくじょう、えいちのうえです
てんでむすんでほりっく
てんでむすんでふーる
せんをつけたらほーるがーる

あなはからだにくっついて
りょうあしがじゃまでぬけだせません

たとえしゅびよくはいれたとしても
まっくら ないぞう いきどまり
あしはそのままのこるので
たつまきのなかからはでられません

にちようびにはたつまきがおこる
おそれをなしてとりがとぶ
ちぇるしーでもどろしーでもないおんのこは
あさがくるまでたつまきのなか


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ツァオベライ
 嘉村奈緒


「 ツァオベラ  あの  真っ白い世界 」





 わたしはその日も一斤のパンと砂糖水を摂った
 目の前で食卓の隅が何枚もめくれているのを見ながら
 なにかを話そうとすると、その度に景色がぬかるんだ
 あれは葬式よ
 長い列に父も母も並んでいる
 わたしは末尾で鳥になるから、だいじょう ぶ


  じょうずに 羽を動かして 食卓につけるのよ!




                 「 一斤のパン、砂糖水、チチチ・・・









    すごい早さで食卓は進む
    あの魚は肉がうまいあの魚は霞むのがうまいと子どもたちは真っ白い顔で話している
    わたしは、明くる日のパン、明くる日のパン、を、摂りながら真っ白い世界に年輪をかけていった
    輪、広大な輪、曇りのない水面になり、列の一部がつぎつぎともぐる
    白い子どもたちは「オーオーオー」って野太く鳴くの
    わたしは困らないよ
    わたしはしたたかだし、産毛立った腕は元気よく成長している
    魚がするりと昇るので、わたしはそれを捕まえればいい
    
    鱗は箸でよけるから、ねえ、

                 ツァオベラ!

                      あなたはまあるい瞳の中でしずかに汽笛を鳴らす
                       行列はいっせいに空を見るから、わたしの産毛は総立ちになる

                      「 ツイイと言って警戒するの

                      「「 獣に気をつけながら水浴びをするの
                      
                      「「「 いいえ、食卓をするの。






                チ−−−チ−−−チ−−−チ−−−
               ( オニヤンマ は ムニエル で )







    鳴いて、めくれて、日がな一日
    あれは長い葬式よ
    年輪の遠心力に振り回されて 献花がほうぼうに散っていく
    わたしと食卓はそれらの頭上を旋回する
    ツァオベラ
    葬式の列を行く顔を知らなくてもいいの けれども彼らは言葉を持たないから
    かすかな囀りをも逃してはいけない
    正しいあなたの汽笛が
    ツイイとしずかな線のように響く








                         
                  ・ ・ ・
                  ぼ く た ち は あ こ が れ て い た
                  や さ し い も の や
                  あ た た か い も の や                         
                  ま っ す ぐ な も の に

                  背 中 を で き る だ け 丸 め て
                  ま ぶ た で は じ い た
                  光 の
                  ざ わ ざ わ と し た 感 覚 の 中 で
                  聞 こ え る べ き 音 が
                  聞 こ え る よ う に              


             




    ツァオベラ


    彼らの先はもう見えないほどに小さい
    末尾で食事を終えた わたしの内部とわたしの食べ残した屑を追って
    獣がどんどんやってくる
    わたしたちはとても憧れていたよ
    長い長い行列を作って







    真っ白な世界よ
    日がな、一日、めくれ続けていた
    それから 聞こえるべき音が
    聞こえるように
    ツイイと
    鳴くの
    
    
    
       






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さっきの道?それともどこか別のところ?
 ホロウ



見たこともない空を飛んでゆく鳥
涙の流れない道を駆けてゆく野良犬
どうしようもなく乾いたものには
硬っ苦しい名前がべたべたと貼り付けられているものさ
枯れた桜の枝で哀しみを潜める
12月に忘れられた淡い色味
太陽が死んだままの報われない雨上がりに
靴の先にまとわりつく汚らわしいものたち
狩を忘れたひもじい獣、柔らかそうな幹で爪を研ぎまくれ
偽者のソリッドでも光らせていないと
強奪される心が必ず在るぜ
水溜りに捨てたものを見られてはいけない
そこには死に等しい泣言が刻まれている
交差点を西に渡り大通りを避けて横道へ入るとき
誰かの視線が俺の背中に不恰好なシミを見つけたような気がする
不法駐車のマークツーのバック・ミラーを覗いてみても
俺に関心がありそうな奴らの姿はどこにも浮かばなかった
暗がりに転がったままの誰かのキャンディ、そんなものが
他のどんなものより怖いと思えるのならまだ狂っちゃいない
祭られることのない供物のアイデンティティ、羊歯の葉の裏に隠されている元素記号を
記憶出来るまで何度も反復してみるんだな
それはいつかきっと役に立つときが来る
それはいつかきっと役に立つときが来る
それはいつかきっと
役に立つときが必ずやってくるはずなのさ
どんな事実でも知らないよりは知っているにこしたことはない
人目につかないところで必ず
脚を大きく開いているヌーヴェル・バーグの筋書き
セクシーな空想に溺れすぎたら
帰ってくるまでの時間を読み違えてしまうぜ?
ハイドンをハミングしてる2羽のカラス
ライドンをこき下ろしている片目の子猫
ぽっかりと空いた眼窩には
アイス・バーの当りくじがコレクションされてやがるんだ

潰れた酒場の入り口の小さなカウベルが
明かりを点すことの出来る誰かを求めて風に鳴く
もうハッピーになれる時代じゃない、埃を被った年老いたホンキィ・トンクでは
一流のモルトと一緒に大人たちのメルヘンは消え失せてしまった
ごみを捨てるのに使っていたらしいスティールのバケツに
ハルク・ホーガンを三人まとめて絞め殺せそうな大蛇が巻きついていた
それが本当は丈夫なゴムのホースだったことが判ったあとでも
幻覚だったと気づいたあとでも痛みは残ったままだった
もう歌えないジュークボックスが静かにブルーズを流している
路地を抜け出した先のバス乗場横で
欠伸をしていたタクシーを捕まえた
『この辺りで一番美味いピザを食わせる店へ』それは冗談だったのだけど
まるで自分はそのためにずっとここにいたんだとでも言うような勢いで運転手は車を滑らせた
半時間近く走ったあと
一軒の小さな店の前で車は止まった
俺は金を払って店に入った、運転手のテクニックには―信ずるに値するだけのものがあったからだ
店の中で流れていたのはザ・バンドのファーストで
それがこの辺りで
最も美味いピザを食うために適した音楽なのかどうかは俺には判断がつかなかった
ツナとベーコンをグウの音が出るまで焼いた薄手の本場風のピザは確かに美味かった
おあつらえ向きに
バンドはアイ・シャル・ビー〜と歌っていた
すっかり満足して外へ出ると
さっきのタクシーの運転手に腕をつかまれた
「どうでしたか?」
最高だったと俺は答えた、そうでしょう、と彼は頷いた
「この辺りにゃこの店以上のピザ屋なんかありませんよ」
運転手はそう言いながら俺をタクシーまで誘導した、金は要らないというので甘えることにした
「さっきの道ですか?それとも、どこか別のところですか?」
その前に聞いておくことがある、と俺は彼に言った
「なんでしょう」
「あんた、この店の奴の身内じゃないよな?」
そして俺たちはひとしきり笑った、『さっきの道へ頼む』と俺は声を嗄らしながら言った

その後タクシーの中では別段会話らしいものはなかった、俺たちはピザ好きという以外に何の共通項も無いらしかった
「では」
俺を下ろすと運転手はばつが悪そうにそれだけ言って走り去っていった、まるで抱きたくもない女をしこたま抱いてしまった後みたいな感じだった
テールライトを見送って―俺は長い息を吐いた



この次、あの店で会うことがあったとしても、あいつはもう俺を送ってくれたりすることはないのだろう




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こがね ゆくえ
 木立 悟



陽は傾いて
粒の影たち
熱の在り処
闇のなかの
四角をまさぐる


目をさがしていた
水のなかにそれはあった
触れようとしたら
沈んでいった
今もそこにありつづける
ずっとそこに ありつづける


空には何もなく
風が飛ばすものだけが
水へ落ちつづけている
音でも色でもないものが震え
こがねにこがねを降らせている


光の傘が静かにうつむき
水の行方を見つめている
一方を得て 一方を失う
元にもどる術のない水
変わることの哀しみの水


目のかたちの火が
霧を昇る
こがねのなかに
かたちを残す
小さく 淡く
かたちは鳴る


空が空を両手ですくい
いくつかの器に入れてゆく
器は円を描いては並び
粒の影に触れては唱い
水底の目をこがねに揺らす












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「悲歌」imp.2
 丘 光平


鳥は告げる、
砂丘に散りばめられた名を

 あれらはかつて 親しいものたちの口元に
流れる季節を潤わせただろう
芳醇な果肉のように 育まれた孤独や再会の一ページを
風がめくるたびに


 しかし 降りつもる砂の窓辺で
椅子は倒れたまま― 

幼年のころ 割ってしまった皿の破片のように
その残響は
小さすぎることはないのだ 
この手のひらには



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Pic/北城椿貴

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