月刊 未詳24

2008年2月第11号
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ひとみ はなびら
 木立 悟



何もないものばかり響いて
ひとつ さくりと
離れゆく手
玩具とともに
しまわれる手


岩の鏡が音を集め
門のかたちに積み上げている
水音の色を見つめる目
かたちのむこうの陽に照らされる


死者を燃す火
切りはらわれた木
無音のまぶしさ
雨のぼる虹
雨のぼる指
無言の道


悲しい応えがひとつだけあり
辿りつくようには辿りつけない
右目の羽が左目に生え
しきりに胸のはざまへ移り
今はわからぬ応えにはばたく


とどこおるもの
ときほぐすもの
隔たりに満ちては隔たりをひろげ
明るくかがやき去るものたちの
小さく小さく唱う声を聴く
小さな小さな 弔いを聴く


ひとみ はなびら
ひとみ はなびら














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オリエ
 ミゼット
ずっと前の感情を思いながら
駅までの坂道を下っていく
腕に下げた缶詰が重い

オリエは坂を下る
西から電車がやってくる

電車に乗ったら海へ行ける
もっと大きな街へも行ける
街へ行ったら下着が買える

坂を下る

オリエは犬を飼っていて
犬がいるからどこへもいけない
餌をやらねば死んでしまうから
買い物に出る 坂を上って降りてくる
コートが痛むから 抱いてはやらない

駅に着く
電車は海へ行った
電車は街へ行った

オリエは駅を通り抜け
反対側の坂を上る

坂の上にはポストがある
いつか手紙を書いたなら
誰かに会える
ここに、いますと誰かに言える

オリエの家は坂の途中にある
ドアの向こうには犬がいて
腹をすかせた犬がいて
オリエの帰りを待っている
獣の匂いに閉口しているから
ただいまは言わない

オリエは犬に餌をやる
自分も食事を作って食べる

犬は不乱に餌を食べる
オリエも黙って食事にかかる

ずっと前の感情を思う
外はこんなに風が強い
犬は餌を食べている

「寒い、寒い、この手をご覧よ クリクーシカ」
そう言って
オリエは犬に触れた

毛、皮、骨、肉、こどう

犬がオリエを見た

私も同じ、無残なたましい


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境音
 木立 悟



声は途切れ まぎれる
指のように
熱を背に描きながら
髪の水を見あげる


まわる響き 枝のはざま
しなり したたり
森を燃す羽
ひとつまたひとつ 飛び去る


どこを歩いても
目を踏む
目には
空ばかりある


森のむこうの森が燃え
かすかに熱が打ち寄せる
陽の大きさに
重なる


路地の隅の銀
夜へ夜へと縮まり
唱にひろわれ
やがて点る


ついばんでいる
抱き上げている
霧の入った箱を振り
粗い光を鳴らしている


永い隔たりを巡り
ふたつの星の跡が出会う
何も揺らすことのないとどろきを
水に棲むものたちが見つめている


踏まれては咲く音
祈りが到き 到かない場所
見つめる先には
空ばかりある














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「悲歌」imp.10
 丘 光平


 打ちあげられたまま
戻ってこないまなざしを
探しもとめるまなざしは 玩具をまえに
泣きやまぬこどものように


 冬をおぼえたのはいつだったか

届くころには 過ぎさってしまう星のたよりを
よみかえすそのたびに
しまいわすれて


 わかれてゆく指とゆびの垣根で
咲きにおう砂の山茶花

つみとってしまう風のほむらは
音立てて


そして、
打ちたてられたまま
羽ばたきやまぬ悲しみを
 もてあますそのたびに しまいわすれて―




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火傷する日々
 しもつき、なな


犬の遠吠え一つ
かたちのよい横隔膜に反応する
やさしみのない子音が、はらはらとぼくを暴く

あ、ら、ゆ、る、悲鳴、

解剖される酸いも甘いも
あなたのだけはゆっくりしていて
しずかで、騒々しい

ただよう事象は
白昼のこと

少しずつ、ずらされてゆくのかもしれない
ぼくはたくさんのことに
おびえるが
それを伝えるために呼吸をするのだって
おそろしいが


(日々はよわく、雨のたびにさびしい人が群れる)
やさしくなでられたふるいピアノの
かすかの湿度の震えに
嫉妬を、している




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土にひらく
 木立 悟




ひとりのための会話を照らし
光は深く息をしていた
遠すぎる背の
土を信じた


熱はどこかへ
到くはずだった
ゆうるり巡る
直ぐに見える道
終わりのような緑だった


誰もいない巨きな家に
誰もいない空が乗り
家は見えなくなってゆく
家は 冬になってゆく


流れが
ほんのわずかだけ細くなり
あたたかくなりすべらかになり
揺れ動くものたちを
映しはじめた


花びらの毒
渇く指
雪なき冬の 炎の街の
土に臥して


たたかいは終わるだろう
奪うもの燃すもののはざまにくすぶる
渦のかたちを見るだろう
残された片方の目を閉じて
熱のはばたきを見るだろう


湿ったままの服があり
静かに手のひらを握っている
水たまりと水たまり以外を分けるように
兄妹たちのうたがつづいている


髪を梳く 雪がくる
髪を梳く 雪がくる
息にひらくもの
土にひらくもの
触れられては触れ 
かがやきゆくもの














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「悲歌」imp.9
 丘 光平

澄みわたる冬空で
輪を描くあなたは
どこかへ落としたのだろう
宛名のない告白を

風が雪になるまえに
傷めた羽をたばねて
あなたはひとり燃えてしまう―


 冬空をしずかに灯す
あなたの描いた輪のなかで
雪が春になるまえに 
たばねた羽をすて

そしてあなたは
あなたの内部にこだまする
大きな空になるのだろう




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空は手首に似ている
 しもつき、なな



川べりの町を
針のような金星があぶなげに
おちてゆく、

覚えている



好きだといわれた笑いかたが
あなたなしでもできるようになり
ぼくは少しずらされていって、いったけれど、だけれども、
秘密にしたかったことは
「もうハコのなか」


だれにも飼い馴らされたことがないのに
ぼくはたぶんかなしかった
あなたの曇りのうみ
なでつけられた髪

ぼくは背中ばかりみていたのかもしれないな


あなたの
背ぼねのあたりの
つよいぶぶんをしっかり
おし潰してしまえればよかったね

そんなことばかり復唱している




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Pic/北城椿貴

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