月刊 未詳24

2008年4月第13号
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ノート(夜とかわき)
 木立 悟



料理 塗料 におい
あとずさり あとずさり
ただ目に入るだけの曇
はじまりそうで終わる夕暮れ
水たまりも風もないまわり路


低いざわめきのあつまりが
ざわめき以外を持ち上げる
蒼と灰と鈍の足音
耳のうしろを
こそばゆくすぎる


灯火の光がはがれ落ち
土に平行に線を引く
線は何かが動くたびに鳴り
路は分かれ
山へ消える


白い服だから冷えるわけではない
言葉がひとつずつ去るのでもない
ときおりうなじに居る色が落ち
木の細工を
少しまた少しと揺らす


火に火をくべて
火は消える
あたりはあたりのままに踏み出し
闇の前の
線を鳴らす


いつのまにか器は満ちて
緑の水に
緑の刃が沈んでいて
呑み干すものの喉を映し
持ち去られ また沈められてゆく















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海を泳ぎきる
 ミゼット


テーブルの上に両手をついて
覗き込む私のスープ

混沌とした乳白色
きっとおいしい私の記録

真っ赤な女の企みで
泣き虫が
飛び込み台から突き落とされて
奥の奥まで沈んでいった

泣き虫の涙が3つ4つ浮いている
おみやげみたい
ぷかぷか

泣き虫は小さいけれど
鉛くらい重たいから
底にしずんでそれっきり

スプーンでかき混ぜたら
ああいるなって気がした



混沌のスープは占いもできる
カップの縁にみんなを並べて
テーブルを足でどんと蹴る

ぐらぐらした縁から
何人落ちたか
誰が落ちたか
カップが倒れたでも分かるのよ

今日は長い癖毛の女が落ちたけれど
沈まずスープを泳ぎきった

波は東から南

女は縁をよじ登り
テーブルから飛び降りて部屋の外へ出ていった

予言がでたわ
「忘れるということはおしまいではじまり」
混沌としたスープは予言も絡まっている



海を泳ぎきる
広げた腕の長さだけ岸が遠ざかる
岸の上にはいち・にい・さん・し、
私の身体が待っていて
辿りついたらそれらのうちの
私という私になる




浮いた涙を飲んだから
私も鉛になったみたい
電話をしなくちゃ

混沌のスープ
泳ぎきるの
混沌のスープ
縁に座る誰もの顔がぼやけてよく見えない
誰なの
わからなくちゃ占えない
スープ、私の澱み
順序良く並んだ誰か

スプーンでさぐると底が抜けた
壊れたカップを翳してみたら
出て行ったあの子が見えた

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ぽたぽた
 石畑由紀子
 
両腕でバランスをとりながら黒鍵を渡る。ちろちろとつま先から炎、揺らめくモディリアニ。白鍵
は床上浸水していて、溶けてしたたるたびにじゅう、って、しずくの結晶なんだ。映る、壁に体と
もうひとつのゆらゆらの影、踏み、鬼だよ、って口実で追いかけて。嗚呼、のぼせている。ちろち
ろと炎のつま先から異国のメロディみたいな。両腕でバランスをとりながら黒鍵の上。溶けてした
たるたびにじゅう、じゅう、って、床上浸水の白鍵を呼ぶ。



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算数の時間
 吉田群青

数字がびっしり並んだところは
小さい虫の標本みたいだ

わたしは答案用紙に名前を書いて
それ以上何も出来ることがないから
じっと問題を見つめている

]とYと=と
座標と集合とAとB
毛羽立ったセーターでうつむくと
おなもみみたいにくっついてきそうだ

冬の教室は石油のにおいで
四角く並んだ子供らは
胸像みたいにまっさおだ

やがて隣の男の子が
灰色になって動かなくなった
あんまりわからないので
石化してしまったのだろう
そっとつつくと椅子から落ちて
粉々に砕けてしまった

それがきっかけみたいになって
ある子は耳から水をこぼし
ある子はくるくる回り始める
XやYを飛ばす子もいれば
だんだんとろけてゆく子もいて
教室は夜のサーカスみたいに
色々な音で充満してゆく

やがて先生が戻ってきて
解答用紙を後ろから集める
床は水や石の破片で
びたびたがさがさ音がした
集め終わると先生は
ちりとりとほうきで砕けた子を集めて
教室のゴミ箱にがさっと捨てた

そのうち獣のあくびのように
のんびりとチャイムが鳴り響いて

すべてが終わったあと
わたしは夜のにおいをかぎながら
うすぼんやりと帰ってゆく
振り返ると
石化して砕けたはずの子が背後にいて
いつのまに貼りあわせてもらったのか
亀裂だらけの顔でこっちを見ている

家に帰ってセーターを脱いだら
小さいXがぽとんと落ちた
くしっと握りつぶしてみると
掌が真っ黒く汚れてしまって
石鹸で必死に洗っても
随分長い間落ちなかった





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ひとつ ざわめき
 木立 悟





空たどる枝に
三つの時間が実る
土になれない枯葉が
芽を見つめる


まばたきのたびに 曇は増える
午後を横切るかけら におい
どこまでが空か 応えは返らず
ただ風があり 声を運ぶ


雨と曇のはざま
動く鳥 動かない鳥
遠すぎて 大きすぎて
到かなかったものに到くそのとき


森の道が終わり
生きものは水を囲み
月と曇を手に抄い
くちずさみくちずさみ波を呑む


弦の音が布へ落ちる
布はずっと鳴りつづけている
うたも楽器も置いてゆく背へ
布はずっと鳴りつづけている


くりかえし痛む陽に
さらに痛み乗せ鳥は軋る
ふたつになれないざわめきが
雨を遠ざけ また引き寄せる

















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イン・ザ・プール
 しもつき、七



さびしさは
何十デシベルだろう





ぬけ落ちた日々
そのなかで、きみだけが水を掻き
ぼくはひたすら
ナイフを捨てつづけている



少しの手紙の束
その中になんとなくしまいこまれた
郵便屋の果物ナイフ
十四つめは今日
錆びていて
きたない



食器の上では魚が死に(ぶった切った鱗や背びれ)
きみはたぶん、
決意もないままクロールの姿勢へ
覚束なさを盾にして




肩甲骨からシャツが浮き上がり
そのときばらばらと、
ゆるやかな期待が泳ぎはじめたようだった
裸のままじゃ
あまりにかなしい動物なのだ
ひと





(水中では、たくさんの誰かの悲鳴がきこえる)
たっ、たっ、たっ、たっ、
それはその真っ青なからだに
斑点となって
結局、きみをつんざいてしまうだろう



全てが青みがかった
その中で肌だけがぼうっとふちどられ
やさしさ
と呼べるような線は
一つもなくなってしまう
少し切れば血がでるけれど





きみは両手でプールをだいて
ほとんど水になった
ぱしゃんと笑えば
溶けかかった塩素のにおいがする



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ゆきをんなとわたくし
 腰越広茂


かなしいふちに降る雪が、
しろくしろいねむりにつき
冷気をはりつめて
その肺にひびいている。
しぃん、とした熱が、
深淵から徐々にひろがり
焼けた声となって吐き出され
冬の空のもとを
しろくにじみながら わたっていった。

わたくしという形象は、無器用な月の刃である。
青白くやせ細りしかも虚空で
みちては欠けるを繰りかえす稜線。
みねはおし黙りけわしく
そびえている


恐ろしい。雪の白さに穢れは無くて
月光でしろがねいろに青ざめて
 ― 今日も終りますわ、と
君がつややかな黒髪に手をやった
白いくびすじは
亡霊のように透けており
みずからをおそれおののく月虹を斬罪に処する

   水月過日黒曜日

   おもい出の岸をはなれたこぶねが、
帰ることはなかった。
   あなたとわたしは時代の
共犯者であることにはかわりない。
続いていく歴史の中で
歩みを止めれば、おもかげのつめたぁい手に、
ひかれていざなわれてゆく 罪。
 ― (生きてくのだ、何があろうと)、と
その手を染めてくれたあなた。
熱い流れを抱きしめあい


何万年も
めぐりめぐって降ってくる雪
俗世界に落ちてもなおしろく
(しろいゆきはかなしいくらい うつくしい)
しかし同じ冬とは二度とあえない

うつくしい、とはなんなのか。
わたくしをかえりみず
その手をとれば
うつむいて 零れるばかり
約束された
死をもって かきいだく
みずからのみにくさ
みにくい、とはなんなのか。
かえりみなかった
みずからをあざわらうわたくしが、
ふちにしずむ鏡をすくうように目をふせてしまう。


雪国の一面は、銀世界
冬ごもりをする山脈や森と田園
しずけさにみちる冷気のほとりを
終らない季節の風紋が
雪明りとなって
夜道をうかびあがらせる

   新雪を わたるあしおとあつくなり
   くりかえされる 空の永逝








 その昔、すべてへ雪降る夜に、
をんなは月人と契りをむすび
とけていってしまった。

白鳥が、星星をむねに 高く鳴きつらねている


※(ふりがな)刃(やいば)、水月過日黒曜日(すいげつかじつこくようび)、月人(つきひと)

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喝采
 丘 光平


 喝采のあと
失われてゆく花の香と
うばわれてゆく追憶の
 影をふみつつ


 葉桜がすき
あるかなしかのひとときに
手をふさがれたまま
 葉桜がすきというひとの


 むすばれた口より
こぼれ落ちる喝采のあと
潮が引くように
 暮れなずむ道―



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Pic/北城椿貴

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