月刊 未詳24

2007年8月第5号
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ノート(夜へ ひとり)
 木立 悟



空に埋もれた巨きな鳥を
指でたたいて確かめる音
少し傾いだ雨になる


片足を尾のように動かして
屋根の音を追っている
何もない日の生きものの笛


水のなかで抱く膝に
いつのまにか花が咲き
魚になり火になり泳ぎ去る


見る間に鳥になる左目を
左手で摘み取り元に戻せば
空は変わらず蒼くゆらめく


燃える舟を風が運ぶ
くすぶるかけらを魚たちが追う
海には光が落ちつづける


横たわるけだもののすぐそばを
唱い舞いながらすぎる人々
気まぐれな尾を標と消えてゆく


はざまを行き来するものたちに
手わたせるものは多くない
皆ひとつだけを背負い歩き出す


透明な板に浜辺の砂を詰め
楽隊は変わりゆくものを奏でつづける
海に終わり 海にはじまる


右手の鳥に左手が触れ
右手も左手も鳥になり
いちばん近い夜を巡る


雨は来し 鳥は来し 
高らかな
空の骨から


蜘蛛の巣を破らず降りつづく夜
もっともっとひとりに届け
もっともっとひとりに響け











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「 」に言葉を入れてみろ
 たもつ
 
 
「うみ」
と書けば
白い波が寄せて返し

「そら」
と書けば
どこもでも青く

「もり」
と書けば
木々が香り

「とり」
と書けば
それは翼をもって飛びまわり

「まち」
と書けば
ああ、いろんな人が歩いているね

「いえ」
と書けば
小さなあかりが灯り
家族の笑い声がし

「かなしい」
と書けば
涙が止まらず

「あい」
と書けば
君がいつも側にいる

そんな魔法の「 」があったなら
僕はもう
詩なんて書かなくてすむのに



「 」は言葉を入れるところです
お風呂と間違えて裸で入ろうとしないでください
ゴミを捨てようとしないでください
カレーを作ろうとしないでください、鍋ではありませんよ
穴は決して空けないでくださいね
言葉が全部流れ出してしまいますから



ある日、泥棒がこっそりお金持ちの金庫から
「 」を盗み出しました
どんな財宝が入っているのか
わくわくしながら覗いたのですが
中に入っていたのは
「○▲*◎◇」
腰を抜かして動けないところを
警察に捕まっちゃったそうです
ちゃんちゃら可笑しいや



「よる」
が来て
「そら」
には大きな
「つき」
と煌く
「ほし」

あなたはどんな夢が見たいですか
「 」に入れてみましょう
僕は
「かいぞくせんにすみつくねずみになりたい」



[編集]
なし
 サヨナラ
 
がらんとしている
埃さえ空虚な
針金の部屋
走り出し
汗をかこうにも
雫を産むことは
許されない



針金は

人だ

人の骨だ

軋む音が聞こえる

泣き声かもしれない



色々な人間が
色々な死に方をして
色々な弔いをしている

どうして人が死んだら悲しいの
葬式饅頭を喰う娘
御供え物はお持帰り下さい
冥土へは
どんなささいなものも
いとしいものも
許されない
針金で
ぐるぐる巻きにされ
森の奥深くに
放り込まれる
だから泣いて
海ができた
そして雫が
許される
わたしたちがかつて
母胎と呼んでいた
むかしむかしの話だ




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はさみ
 たもつ
 
 
はさみ
兵藤ゆきより
大きなはさみを
買う
ポケットには入らないので
背負って
帰る
兵藤ゆきですら
背負ったことないのに
道が市街地に向かって
少し車で混んでる
子供の頃
兵藤ゆきを背負いたい
と言うと両親は
あの人はきっと有名な人だから
そう言って
柔らかい体のまま
テーブルを拭いたり
何か持ったりしていた
代わりに両親を
背負ってあげれば良かった
でも腐った匂いがして
淋しい感じしかしなかった
はさみ
のひんやりとした感覚が
背中に温められて
体温と同じ温度で
兵藤ゆきも同じくらいだろうか
少し懐かしい
腐ったような匂いに
足をとられそうになる
もしかしたらその匂いは
両親のものでも
はさみのものでもなく
自分のものかもしれない
そう思うと
生きた心地がしていない
おそらくあの日から
ずっとだ
 
 

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やさしみ
 たもつ
 
やさしみの
さかなが
しずかに
みなもをおよぐ

やわらかな
さざなみは
しあわせなきおくを
みたそうとする

やきつくされたあさ
さいれんがなりひびく
しきはまためぐり
みらいなんてしらない

やさしさをくちにふくみ
さかなはいく
しろくまずしいいきつぎをして
みずはひとのかたちににている
 
 

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黒木的詩論、1
 黒木ミニー

 右に行けば愛を歌い、左に行けば運の無さ。深海は何時からただの楽園になってしまったのだろう。
 最近の波とされる死の記憶には腐乱しましたというものが一番多い。つまり選択は兎の熱を放つと勘違いしている人間の多いこと。それらは蛇でなくただ監獄を下手糞に蒸留しているのだから生きていれば何かしら荒廃する部分はあって当然だ。よく神官は死んだと憑依されるが鬼の廃棄のひとつは「僧が火と思えば氷になる」という過ちだろう。興というのは海であり、闇夜、とされていた。留意を多用し、死体を流す、幻影と呼ぶにも汚らしい旅団、それは決して雨ではない。血と思えば港となることはないはずだった。
 しかし、夏の夜にはその盛衰にも劣る後記が庭とされ雑木となり多く世に出ている。それを目にした蜂が本来光とされないそれを光と認識し、対人的にそれを共立し、障害で孤立するなどした結果、精霊の首を絞める形になった。先に書いた、超越=呼吸という勘違いをする魚の多いこと、そして彼らは他者の黙秘出来ない所謂等率を秘していた猟奇に意味を求めない。錯乱が続き伏せない。といった生存を吐くようになる。ひどい場合だと「もう猫は逃がしたほうがいいですよ」と押しつけ、祈りだす始末。多くの沼地にとっては数こそが隔離なのである。彼らに「いや、鼠の着ているのは服じゃなくて数字だよ」と言うのは大袈裟に言ってしまうと「君、実は記号じゃないんだよ」と言うようなものだろう。

 しつこく書いたが(書き足らないが、続きはまたすぐに書くことになるだろう)、だからといって剥離を齧るわけではない。これを分離させた亡者が、では消失とは転移なのか。と疑ってくれれば、踏査するにも使者が分解している可能性がある。ということに躊躇してくれれば、まずはこの一回目の配置は成功したと思える。


[編集]
「死ねるやつから死ね、死ね、死ね」
 ホロウ

ぬるくやさしい沈黙が窒素充填に似た密度で
午後の長ったらしいまどろみに流線型のまぼろしを残す
ひとすじの線を長く引くように
トランペット吹き続けるチェットベイカー
伺うような赤蜻蛉の羽のリズム(ブラシ・プレイと時折シンクロしてひかりを跳ねる)
いってしまうものたちが強く微笑む八月
忘れるころには頬伝う汗が嘘になる
詩面になるような心を
リアルにそうと確かめたことなんかない
羽ばたきの速度が足りないやつらは
同じところで同じかなしみを違うみたいに歌うのみさ
今はただ犬みたいに口を開けて世界を穴ぼこにするような夕立を待つ
ウィークエンド
日々擦り切れるトランスミッターに怯えながらひとつの約束を交わした
泡のようなものにこそ食い下がってしまう、それこそが―
それこそが本当だってとっくの昔に判ってるはずじゃないか(きっと、類人猿が枝で火をおこし始めたときから)
水を連想させない
川べりでヤゴが孵化する、次々と、次々と、螺旋を繋いで、明日噛み切るだろう
小虫の事に思いを馳せて
それは人知れず胸中を流れる涙とブルー・インパルス・ショーの様にいくつかの線を互い違いに―互い違いに描いて
次々と、次々と、孵化して、孵化して、孵化して―
程なく手の届かない高みまで
あっという間に羽ばたいてゆく
そんな風になれたらいいのに、そんな風な潔さを持って―
鋭利な歯を、食い込ませることが出来れば
どうして?狂ったように夏の日だ、そんな熱など俺は望んではいないのに
ギリギリまで詰め込んだハードディスクみたいに鈍重に自転している
「死ねるやつから死ね、死ね、死ね」と
デヴィッド・カヴァーデイルみたいな声で歌うツクツクボーシ
ゴダールの手法のような休日ののぼせ
挨拶はいずれまたゆっくり、とでも言わんばかりに
いつかすれ違った懐かしい誰かから突然の私信が届く
メールアドレスにそいつらしさを探すのは
エレクトリカル・エイジのすることじゃない
ひとすじの線を長く引くようにトランペット吹き続けるチェットベイカー
何も知らされていない
柔らかい羽の蜻蛉がまた旅に出る
ああ、ハンド・クラップのように死んでいく透明な羽、ねえ、ねえ
お前のかなしみを見るにはいくら払えばいいのか教えておくれ
出来る事ならそんな印字をディスプレイに散りばめたい
死ね、死ね、とツクツクボーシ
いってしまうものたちがまた
強い力で微笑みながら…


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