月刊 未詳24

2007年10月第7号
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波とかたち
 木立 悟




夕暮れと同じ色をした
雀の群れを乱しては進む
道標を飾る白い花
いつの世も悲しい子らはいる


わずか数秒のねむりのつらなり
分かるはずもないくりかえしのわけ
ねむりのままただめざめては
めざめたままただねむりゆく


風のなかの呼び子
ふいに昼の夢からさめ
泣いている自身に気づく
ない者のかたちが残っている


小さな灯りか遠い灯りか
丸く角のない明るさのなか
裸で微笑みかける人の
手だけを握りしめる夢


降る声を浴びながら
降る声に泣いていた
水のように触れていいから
鉱のように 触れていいから


見知らぬ道で
見知らぬ部屋で
声はつづき
返ってはこない


おだやかに 苦しまずに
ねむるように それがどれだけ
どれだけつらいことか
何も言えぬまま 消えてゆくことが


煙と草に洗われて在る
今はないかたちのかわりのかたち
水のように揺れている
鉱のように揺れている










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雨は打っていた
 丘 光平


 雨は打っていた
尽きることのない雨は
血潮のように打っていた


 ブラウスの風下で
息を吹きかえす過去
語ることのない女のように
 すこし うつむいて


 触れたことがある
新たな傷口で
咲きやまない薔薇の皮膜に
 触れたことがある


 そして、血潮のように
打っていた雨と夢の晴れ間で
いま 秋が終わる―




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さみしい実験室
 しもつき、七


迷子の放送が
ぎしぎしにちぎれた唇で
わたしの名を、呼んでいます



番号がついたクローンたちは
ばらばらの速度でどこかに消えた
そだつことを知らなかった頃のゆめは
ももいろの膜をやぶれずにいる

雑草をつみなさい
あなたみたくみすぼらしい
すべての地球にメスをいれます
すべてのわたしを縫いあわせます


薬品の匂いの呼吸で
肩がふるえて、いるよ



つめたい聴診器を少しだけ舐めた、
あなたのまつ毛はなんどかまばたきをして
おそろしくしろい体が浮かぶ
電気はすでに消えています



なみだをながしたままで
だれかがこちらを、みたままで



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午後と火
 木立 悟



宙を覆う草木のすべてが
さかさまのかたちを描いている
雨は流れ
音は流れず
影は分かれ
影は流れる


短い煙の端々が
長い煙を折ってゆく
煙を生む火はなくならず
煙は渦を増してゆく
其処に 空に 在りつづける


臥した鏡は燃えあがり
後付けの枠は溶けてゆく
底まで至らぬ
みどり みどり
道のかたちに道に沿う
音のない海の手に触れる


風のなかのかたまりが
曇を唱い 曇を生む
四ッ足を知らずに道はのびる
かたわらにひとつの足跡が燃える


煙をさえぎるものの声が
渦の重なりに見えかくれする
日毎に異なるかたちと熱さ
煙へ沈む音たちの影
煙と共にくりかえす


あらゆる場所に浮かぶくぼみに
雨は静かに満ちてゆく
見える傘と見えぬ傘
すれちがうたびに生まれる声が
雨と雨のはざまをくぐり
空に刺さり 空に揺れる


呑みつづけるのか
吐きつづけるのか
足跡を燃す火は鳴り止まず
空が閉じる一瞬の
はざまに満ちる淡い柱
音のない海へ倒れる


曇に映る煙の影が
さかさまのかたちを描いている
くぼみからあふれた雨は流れ
土の上に光を残し
離れたふたつのさかさまを
ひとつの文字にかがやかせてゆく












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少年ファンタジー
 狩心

ガリガリ音がしたと思ったら、
空からカキ氷が降ってきた
シロップも流れてきた
あか、あお、きいろ、信号機みたい、
なんで降ってくるのか分からないまま
ボクは空を見上げていたんだ
あの頃の、戦争と同じように

この戦争がなんで起きているのか分からない、っておとうさんは言ってた、
分からないまま巻き込まれて、一部の人たちの思惑に利用されてるって言ってた、

おとうさんは今、工場のベルトコンベアーに従って、
何に使うか分からない部品を、言われた通りに作ってる、
最低の作業だって言ってた、
たしか、資本主義って言うんだって。

何も分からないまま、放課後
進路指導の先生に、校庭のトラックを何度も全力疾走させられた。
ボクは陸上部じゃないのに。全力疾走することに意味はあるの?
海に潜るダイバーとかいいな。

家に帰るといつも、
おとうさんは何も説明しないで、ボクに暴力を振るった。
それって、悲劇?
立派な人間に育つ為の教育だって言ってた、
たぶん、それって、ウソ、

死者が出なかったら、戦争してもいいのかな
自分の国に利益があれば、戦争してもいいのかな
たぶん違う、
嘘を吐いて、人を道具のように利用することがいけないんだ。
せんせい、人の命は尊くなんかない、
みんな平等だって、命も平等だって、せんせい言ってたけど、
げんじつはそうじゃない。

ボクは騙されない。
空からなんで、カキ氷が降ってくるのか、分からないままにしない、
今のボクは、昔よりも体が大きくなって、物事も自分で考えられるようになった。
だから、おとうさんが殴ってきたら、抵抗するんだ。
そんで、聞くんだ、
おとうさんのほんとうの闇を教えてって
家族だから、
それにボク、おとうさんのこと好きなんだ

ボクの住む国もいつか戦争するかもしれない、
その時ボクは、なにができるだろう、
上っ面の大義名分なんて、まっぴらだ
ボクたちは道具じゃない、
それにこの豊かな社会も望んじゃいない、
生まれた時からそうだったんだ、
もし、この豊かな社会を維持する為に、戦争が必要だと言うのなら、
ボクはそんな社会いらない

ボクたち若い人は、戦争を知らない
次に起こる戦争で、もし、死者が一人も出なくても、人の心はたくさん死ぬよ、きっと。

学校の帰り道、なんにも知らないボクら、
空からカキ氷が降ってくる、甘くて冷たい
まるで戦争みたいな味さ。
ボクの中に溶けて、なくなっちゃった・・・

人を殺したら、100億円あげると言われたら、ボクは人を殺すかな
友達に聞いてみたら、絶対殺すって言ってた、
喧嘩した、友達と初めて喧嘩した、
友達が鼻から血を流して
「なんでそんなにマジになってんだよ、かっこわりぃ、馬鹿みたい」って言って
どっか行っちゃった
次の日から、自分の欲望に嘘吐きな偽善者だって言われて、みんなにイジメられた
ボクが暴力を振るったから、ボクは今、殴られている、だからそれはさせていい、
でもボクは絶対、人を殺さない、
ボクが欲しいのはお金でも物でもない、正義でも、勝利でも、力でもない。
ボクが欲しいのは仲良しの家族、
ボクが欲しいのはほんとうに心から分かり合える友達
ボクはなんで自分が生きてるかも分からないような馬鹿だけど、
それだけは分かるんだ、

今までボクは、なにもやりたい事が見つからなかったけど、
決めたよ、
ボクは、ジャーナリストになる




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プルシアン。
 ちよこ
 
庭に残した結晶が慌ただしく収束する。それから頬と、雲の層とを等しく照らされ、むかう空、紅藍が立ち上がる。仰ぐさきにはまだなにも見いだすことができない。

振り向けば菫いろのガラス瓶から、吹きかけるように夜がおそう。めを閉じて受け入れる。虫たちのはねの震えと、少しの絹糸が降り注ぐ。結晶が矩形に育つ。誰か、とても近しいひとを連れ出した気がする。

うつくしく積みかさなりながれ落ちてゆく、碧の夜々。重なり合うのをそのままに、とっておくのだといったね。それが何事にもかえがたいのだと、いったね。柔らかな結晶の、漂いだすのを留めることができない。

とばりをめくり、顕れ駆けるものに、あおられ、浚われてしまいそうになる。そして結晶と、わたし、黒くなびくびろうどに広がり、はじけて跳んだ。完璧な弧をなぞって、

そしてまた、正しく朝がくる。



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水母
 腰越広茂

私は、私の影であり
影は、影の影である。

どこまでも
黒く透ける現し身を
冷たい風がなぞり
さみしい熱を奪い去っていく
だからといって みたされることはない
このささやきが、色づかない限り


   声の静止


青白い顔をした稜線のそよぎが
ひっそりとしたまなざしで
私の影を続いている

風のしじまが
声を
心の声を聴いて
一羽の黒いアゲハチョウとなり
窓辺から飛び立って舞う

いつかの国の
高くつみあげられた
石の塔の頂で
目を瞑らなければならなかった
声を生き血がさかのぼっていく

空っぽになるまで
うちあける声を放つ充足の
歩みはつきることはないが
うすいくちびるをそっと
とじるのが みえた

青白くそよぎ


ぬれた指先を黒髪でほどくと
つかんでいたことばが
声になってしまった
さようなら。
さよなら

別れの感触を探る
耳を熱くさかのぼる ふねの
ろのうでが
さやかな光沢を放ち
はねはゆぅらりゆらりと瞬いて
しろがねの小波をかきすすむ

絶滅危惧種の喘ぎを去る煤煙が
無法地帯へ旅立ち
起こされることのないねむりで
真空放電する静脈管をつらぬき
忘れずに手を振る
私の亡霊を
ひきずるな影よ

迷蝶が
林の中で息切れる
しずまりかえった
木々で
いちよういちよう息をしている
仄暗い目差が
はなうたをくちずさみ
みちたりた風にゆられて 発光を始める


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アプリコット
 ホロウ




真っ向降り注ぐ太陽の光、日付が嘘臭く思えるほど遠く無邪気な夏、俺と君のてのひらの中でルビーのようなアプリコット
どうしてそれがあったのかなんてもう知らない、君と俺がそのときどんな風だったかなんて、もう、覚えてないけれど
その一瞬、その一瞬がまるでサンシャインを迎え撃つようだった、まるでルビーのようだったふたつのアプリコット、俺たちはわけもなく大声で笑いながら
不親切な大地を海の見えるところまで走り抜けた
国境を越える列車が唸りを上げる線路をずっと横目で見ながら
君はここではない場所のことを考えるのに夢中だった、俺はまだほんの子供で
だけど俺たちはパートナーとしちゃ最高の部類だったさ
路上の果物屋でオレンジをふたつ買った、海を見下ろしながら激しい風に吹かれてそいつを齧ると
甘酸っぱさに宇宙まで飛んでいけたものさ
俺と君のてのひらの中でルビーのようなアプリコット、思えばそれは物質化した約束のようなもので、『きっとだよ』なんていうよりはずっとイカシてた
君がフレアスカートを翼のようにはためかせながら大国行きの列車に飛び乗ったとき
そいつが俺の夢まで連れて行くようなそんな気持ちになったものさ
あのころ小さなレターセットで俺たちは永遠を知ることが出来た、君からの手紙にはいつもあの
アプリコットのイラストがくっついていたっけ
『約束は続くんだ』というよりもずっとイカシてた、ひとつの手紙にふたつの返事を書いた
俺は言葉を並べるのがあんまり上手くなかったから
短い文章につまらないイラストを添えて…俺たちには距離など問題ではなかったんだ
いつか、忙しさにかまけてお互いがペンを取ることを忘れるなんて
あのときの俺たちには想像もつかない愚かさだった
数年ぶりに届いた手紙に添えられていたのは
ぼろぼろにくすんだ本物のアプリコット、まさかそいつが
あのころのやつだなんて思いもしなかったけれど
どうしていたんだい
上手くやれたのかい
想像していたよりも
現実は難しかったかい
永遠の約束は
君を辛い気持ちにさせたのかい
ウェディング・ドレスを着るんだと君は言った、新しい実がなるころ
こっちの街でウェディング・ドレスを着るんだと
それを裏切りだなんて
俺にももう思えなかった
あの時、俺と君のてのひらの中でルビーのようなアプリコット
あんな風に太陽を迎え撃てる日がいつか来るんだと思っていた
海から吹く風のことすら俺たちは忘れていたんだ、幼さを恥ずかしいと思うことも出来ず
俺たちは大人になってしまったんだ
ひとが住んでるなんて信じられないくらい馬鹿でかいアパートメントの前を通りすぎながら
君は少しだけ歩幅を狭くした
並んで歩く事が怖くなっていたんだ、俺には判るよ
俺は
そうしなかったってだけのことだから、真っ向降り注ぐ太陽の光、だけど
大きな街には、物陰が遮るものが多すぎたんだ…幼い夢が見えなくなってしまうくらい、ふたりの声が



喧騒に
隠れてしまうくらい






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Pic/北城椿貴

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