月刊 未詳24

2007年11月第8号
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雨後
 木立 悟




ひとつ静けさ 眠れずにいる
泣いてしまうほど やわらかなもの
放りなげた願いを数える
断崖 砂漠
わたり鳥の背


ひとつのなかに 異なる目がある
朝と夕が
水面を碧くすれちがう
折りたたまれた眠り
ひとりがひとりになるかたち


まぶたの上に 頬の上に
くちびるの上に 首すじに
雨の種があり ひとつずつ
こぼさぬように 混ざらぬように
舌で集める


鳥は来る
砂の傷を癒せずに
鳥は飛び去る
羽は残り
砂と話すうち
夜になる



種は鳴り
種は沈む
舌の渇きに
窓を見る
何もないところに
光源があり
その向こうの
何もないところへ
種は響き
種は沈む



羽は黙り
眠れずにいる
砂も黙り
曇を聴く
雨へ 雨へ
鳥は今も
去りつづけている













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手放せはしなかった
 丘 光平

手放せはしなかった
手放されたのはわたくしだった
粗末な絵筆のように
苦しみに握られた画家のように


 冬は
わたくしを思いうかべるたび
雪を降らせ
燦々と 雪を降らせ


失われた空を
いまだ巡りつづけることりたちよ
失われた羽を
いまだ傷めつづけることりたちよ


 生まれたことがある
始まりのないかなしみに
終止符を打たれた行者のように
なんども生まれたことがある


引きとめはしなかった
引きとめられたのは世界だった
繋がれた牛馬のように
しずかに鞭打たれる母のように


 そして冬は
わたくしを思いうかべるたび
雪を降らせ
燦々と 雪を降らせ―



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愛というちっ素に呼吸してしまった
 しもつき、七


笑いもせずただ手をつないで
海にいこう
ピンクのつめたい水がはねている
まばたきをすればフラスコの底辺
もうそこに
    
   
  
 
ねぇあの頃いいたかったのは
最初からぼくらやさしくなんてなくて、
こりずにきゅうきゅうとなれあったのは
もっと低い喉の使いかたを知りたかったから
                     
たぶんまだ感情のあいだにはさまっているのは
愛だとかさみしい、だとかいう呪いじゃなく
いつかあなたの心臓のあたたかい血肉に
おぼれたいというぼくのジレンマ
          
  
水族館で、プラネタリウムで、
かわいそうなめいおう星が泳いでいたり
水圧に死んだくじらが七光年で瞬いていたりしたのは
ただの夢だよ
さましてよ
   
   
   
ぼくらは標本みたい
名まえをつけられたがってただ奪われないようにある
(だけどもときどきうばわれたい)
あなたも人々も、そういう顔をしながら
わらっている子ども


ぐちゃぐちゃに愛し合えたなら
あなたの舌のぬるさも動物みたいになって
少し大人かな




笑いもせず、ただ手をつないで
フラスコの底辺へ
ピンクの




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銃のようなからだです
 しもつき、七


まっくらな水にとかすように
ゆうらゆらと
甘さばかりをついばんでは
少しずつ浮きあがって
はがれるもじも
あるいは唇も
こうして熟れてゆくのだろうか
わたしのなかから


きえたくて群れの育つ夜は
背中になぞる金属をあて
ふるい安全で膜をこれ以上
やぶらないようにするだけだ

手をあげろ




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route finding
 ユキムラハネヤ

すりぬけるような猫と
この街の青色を愛す
夕闇の向こうに翻るのは猫の影だ
あたしの祈りは
うずもれて
ぱらぱら乾いた砂になる
憂愁のロウラ、
あなたの
砂漠の薔薇(デザート・ローズ)に舞い降りる
やわらかい、埃


愛しくださいという歌声に
あなたの愛は短三度で
ふんわりと重なりました
あたしにも雨が降るでしょうか
優しい雨が
あたしの瞼にも
額にも
舌の先にも

永久に潤うのでしょうか
この大地は
そのために衝突し合うのでしょうか
形の異なる大陸は
刃物が擦れる音に似た
プレートの境目に
色とりどりの旗が翻って


君の臨界前核実験(トリニティ・テスト)
初めてだった、
という響き
睫の下で融解をはじめる

密やかな訪れと別れ
抑圧されたグレー
爆音と入道雲にふくらがる
涙と一緒に失ってしまえると、
何処かで教わったよ

そんなに
かなしい表情をしないで
そのうちに黒い灰は流れるから


あなたを愛する前にまず
言葉を乗り越えて
灰色の活字の海を乗り越えて
抱きしめてさせてください
もしくは
愛している、と動く
くちびるを見つめてください
何もいわないでただ、
人差し指で触れてください


潤うのでしょうか
この街は
海辺のロウラが泣いている、
遠い国からの、色あせた日報で
やっとその事件を知りました
あたし、急いで走り出さなきゃ
泣いているあの子に間に合わない
どの場所なら
今からでも届くのだろうか

臨界点をすぎたばかりの
地核の溜め息に安らいでいるの
ただの、この日のちいさな、
安息吐息をだきしめている


「いつ」を映写機にかけていた?
十字路の青い影
きみの猫は
街に抱かれて見上げている
笑い顔
泣き顔
無数の国旗がきらめいていて
それだけを、
瞬きして見つめている


ぼく、という響きから
あたし、という代名詞までの
ほんのわずかな、わずかな隙間



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降り来る言葉  XXXIII
 木立 悟



水に降る水
白を摘みとり
蒼を咲かせ
水に降る水
空から空へ
伝うまなざし
水に降る水
水に降る水


子の胸に
しっかりと抱かれた鏡から
にじみゆく色
ほどけ散る色
のぼり こぼれ
泣き追う指に くゆらせ
くゆらせ


菓子を陽から除ける仕草が
光の円に鳴りつづけている
手の甲に熱く染み込むかたち
やがて夕べを映すかたち
片目のさらに片隅に
うすい羽の塊があり
あちこちへあちこちへはばたいている


指が触れても 触れても 触れても
楽の器は指に満ちない
わからぬものに
器は満ちる
わからぬものに
楽はおりる


木は金 金は木
響かぬ場所まで色は伝わる
音を信じぬものによって
手のひらを透り 点される火
そのなかに燃される歪みを聴く


冬の塵 冬の芥
異なるようで同じおまえが
夏の虫を裁くとき
おまえを映す水はなくなる
水は招かず
水は拒む


抱いても抱いても
羽は飛び去り
鏡に描かれた絵もまた飛び去る
くちうつしのうた 限られたうた
常に不確かなよろこびから
離れることのできぬうた


誰も触れずに器は鳴り
誰も触れずに楽を奏でる
つむるまぶたに満ちてはこぼれ
羽は裁きと足跡を埋め
子は鏡と鏡のはざまに立ち
分かれ飛び去るうたと火を見る











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はるのよこがお
 腰越広茂

潮風にさびる
落日の夢幻
ゆく手には
茫洋の天

遠音の影を
ひびきつづける海岸が
涙できず知らぬ世で 立ち尽す
瞬息の流星

ほそぼそとあがる雲も あてどなく漂う雲も
うらさびしく暮色に暮れる
孤影の火影を帰らぬ 夕紅
( 黒い洋服の白い手で 種をまく娘

流光はとどまらず
深き青嵐の
永遠を亡くす
めぐるはる ) の
桜吹雪


※(ふりがな)夢幻(むげん)、天(そら)、火影(ほかげ)、洋服(ドレス)、青嵐(せいらん)


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Pic/北城椿貴

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