月刊 未詳24

2007年12月第9号
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鏡降る夜
 木立 悟



向こうの見えない硝子の向こうに
歩きつづける何ものかがおり
ふと振り返り こちらを見ている


ひとつをひとつに吐き出しながら
空が鏡を燃している
たもつものなく
いとうものなく
燃やしつづける


うなじの水にまたたいて
夜を越える鏡の群れから
炎はこぼれ落ちてゆく
淡く小さく落ちてゆく


曲がり角に面した家の
すべての窓を一瞬照らし
熱は土へ散ってゆく
川に呑まれ
泡に満ちる


星が在り
星を疑う
空を透した星なのか
鏡に映った星なのか


鏡に鏡をかざしたまま
帰ることのない波を見ている
干いてゆく
偽りも まことも
遠去かる


数の単位を砕いて生まれる
土に接する鏡の虹が
低くただ低く幾重にも
野の淵のようにゆうるりとはばたき
蒼と鉛を鳴らしつづける


あらゆるものを受け入れすぎて
見えなくなった片方の目が
自身以外を映してかがやく
弦の失い楽器のふくらみの
かたくやわらかなかたちにはねかえるもの
道であり水たまりである人の咽元の底に
燃えつづく鏡
燃えつづく鏡
燃えつづく鏡















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サンタさんだるそうでした
 とうどうせいら

今日ミ○ドに行ったらサンタさんがぐったりした顔でコーヒーをすすってたので、
「お疲れ様でした」
って声かけたら、
「お前んち行ったのにおらんかった。なにしとったんや」
とふてくされた顔で言われたので、
「すんません、今年のクリスマスは飲み会でオールしてました」
と言ったら、
「良い子はおとなしく寝とれや。お前の分のプレゼントはもうない。
来年は正月からうちに来て一年間トナカイの餌やりから始めて清く正しい良い子になれ」
と言われたので、
「いや、もう成人なんすよ」
と答えると、
「お前鏡見て客観的に自分を見つめろ。ったくこれだから子どもは」
とぶつくさぶつくさ言いながらサンタさんは空になった袋を引きずってレジに行って、
「すんませんクラムチャウダーひとつお持ち帰りで」
と言ってポイントカードに加算してもらって、
「まあ遅いけどメリクリってことで来年もがんばれや」
ってなにかわたしの方に投げつけてきたので、
びびってキャッチしてみたら、
遅めのクリスマスプレゼントだったけど、
中開けてみたらミス○の景品のスケジュールンだった。

びみょう
 




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滑走路
 狩心


今、線路の上に横たわっている
硬いレールの上に、手、足、背中、後頭部
知覚するには充分な、支える点の数々
小さな振動を感じている
少し浮き上がる体、そして着地する
少し浮き上がる体、そして着地する
発作が起きている、体中に革命
硬いレールから伝わってくる振動
何かが近付いて来る
耳が知覚する、汽笛の音を
先行された演説
そんなものでは私の体は動かない
反比例するように、二次関数のグラフ
私の中から小さな振動が伝わってくる
心臓の音、脈々と受け継がれてきた先祖達の匂い
遠くの列車が近付いて来る
その振動よりも遅く
内側からスタートした列車が脈打つ
どちらが先に
私の体、そして心に到達するだろう
両者共に振動は強くなり、爆音を上げる
私は感じた
内側の列車の方が速い事を
そして、様々な顔
すべてを背負って、この一点に向かって来る今
私の傍らで見守る主治医が
手、足、腹部、胸部、そして前頭葉に
極太の注射を何百本も打ち込む
注入されていく液体、人々の声
私の体は透明になっていく
外側で爆音を上げる列車は
私の体、十メートル手前で
永遠とも思えるような、静止の瞬間を見せた
その列車は演説している
私を轢き殺す許可を得ようと
その列車は歓喜している
私の体をバラバラにする興奮と快楽について

時間が動き出すと
既に私の体は完全に透明になっている
私の体を通り過ぎる列車
物理的な現象は
反比例する二次関数のグラフの前で
何の意味も持たない
内側の列車から降りて来る乗客たち
乗客たちは一様に皆
ホッとした安堵の表情を浮かべ
傍らに居た主治医の姿は消える
硬いレールの中に染み込んだ血

レールの中を、血が、人々の声が、無言の表情が、疾走していく
それと共に、世界中の列車が、脱線事故を起こす
乗客は皆、外の地面に投げ出され
自らの足で、歩く事を余儀なくされる
自らの手で、築いてしまった途方もなく長いレールと機械音
そして皆、内側の列車の振動を、音を、様々な乗客たちの顔を
確認する為に
線路の上に横たわり始める
無数の人々の体で出来た線路の上空を
最先端技術を駆使した車輪のない列車が
演説しながら大気圏に向かって上昇していく
このまま燃え尽きて、消滅する事を知っていても
高鳴る心臓は宇宙を求めて
小さな赤ん坊を抱きしめる
千切れた体の一部が
あの、宇宙空間に漂っている事を
知っているので



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注文する時間
 狩心


ハンバーグにするか、冷やし中華にするか、困っている
  あの上司、現場のこと何も分からないくせに、意見だけ言ってくる
    待ち合わせ時間過ぎるのはいつもの事、あいつ化粧に時間かけ過ぎ
ベルを鳴らせば、彼氏が飛んできて、ご注文は何になさいますか
  腹が出ててさぁ、乾燥した卵が発酵しててさぁ、とにかく臭いんだよ
    ハイヒールでコツコツ、アタマ殴って、てらてら、核爆弾投下、ビル
あなたは直立不動で、私が凸ピンすれば、あなたの口から印刷物が出てくる
  すっげぇ疲れた、シャワー浴びて、人類皆兄弟の状態で布団へ
    ああ、大好きな彼氏とデート、大好きな彼女が空を飛んでる、何処へ?
それってレシート、何月何日何をした、何月何日何をしてあげた、合計金額いくら?
  座布団積み重なった上に俺、その横に空気、食べるものは何もない貧乏です
    やっぱ現場が大切なので、机上の空論で私を構築されても困る
お金を払った後に、ハンバーグと冷やし中華が飛んできて、私の顔にピザハット
  キリンの縫いぐるみに包まりながら夢の中、落下する昨日と今日
    二人でジェットコースターに乗ってお化け屋敷、メリーゴーランド、アイスクリーム
大食い選手権で、見事準優勝に輝いた私の頭はもっと輝いた、さよなら髪の毛さん
  ネクタイが首に絡み付いて、君がキスをして来るけど、そのまま俺殺される夢
    政治家の選挙演説の横を滑り落ちるカップル、私たち、コーヒーの渦で
メニューに指を差したまま、硬直している時間の針が、私の衣服をジグザグに縫った
  目を覚ますと昨日だった、ああもう一度同じ日を過ごさないといけないのかぁ
    指を絡めながら舌を絡めて胸を押し付けて、荒い息で笛を吹いた
スカートとブラジャー繋がって、私とあなた繋がって、部長が嫌いです、声が出ない
  あるくあるくあるく、水の上でアヒル、飽きる、すべてに滑る
    ロマンティックな場所でキスして、そのままホテルは阿呆みたい、やめよう
お会計が払えないので、家庭も崩壊した、暴力団に金借りて、体も売りました
  業務成績が上がったので、上司も俺を褒めた、褒めて体千切られた、健康です
    カラス始めました、光るものを探しては集める、人が来たら威嚇する
ここはレストランですよね、なんだか私、間違えた場所に来たみたい
  部長がメニューを指差して、これにしなさい、ここの株価は永遠に下落しないぞ
    財布の中身はゼロだけど、見えない何かがどんどん増えて
指で出来たハンバーガー、今流行のトマト、キャンバスは血みどろ、ぐっじょぶ
  千年前に既に疲れていた魂は、千年前からサラリーマンでした、きっすい
    手にはあなたの皮膚、わたしの皮膚、店員が車で来るまで、ベルを押し続けよう
東京タワーの上にある富士山のエッフェル塔と凱旋門が、サラダボウルを注文した
  一秒前まで布団で寝てたのに、なぜか今会社のオフィスにいる、俺の記憶死んだか
    彼氏が居た筈だった、いや、彼女だったかもしれない、このベルは何だっけ・・・



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遠隔催眠
 狩心


抽象画の中で生きる者達よ
もう思想はいいから 具体案を見せてくれないか
あなたの身体感覚は 世界の果てまで続いているか
まさか身近な人々の素肌にさえ 触れる事ができないなんて言わないだろうね

孤独なんて言葉は聞き飽きた 歌もダンスも役に立たない
自分を見せる 思想を提示 そうやって世界が 閉じていくんだろう
ある一定のレベルにまで達した者達が 外界と自らを切り離す
まさか自分が宇宙だなんて 言わないだろうね

さて、まずイヤホンのボリュームを最大にして、鼓膜を破裂させてください
鼓膜で聞く音がなくなって、骨に振動する音、静寂との対比です
前頭葉の辺りが、ビビビビビって頭痛し始めます
目の充血、肩こり、背中の硬直、腰痛、そこら辺から運動不足を感じ取ってください
鏡に向かってニコッと笑った時に、顔が引き攣っていたら、危険信号です
指先と顔面の皮膚で会話してください、頬骨の辺りから目尻、米神へと指を進ませます
その時に足音が聞こえなかったら、割り箸を目に付き刺す事をお勧めします
段々美しい顔になって行きます、五感があった時よりも、感覚が冴え渡ります
不思議です、人々の手は蒲鉾でできています、魚に突付かれて、縮小して行きます
蒲鉾の原材料は魚のすり身ですから、共食いですね
丸められたボールから、毬藻のように毛が生えて、その触覚が、目の代わりをしてくれるでしょう
ボールを蹴ってドリブル、ボールを投げてキャッチボール、沈黙との対比です
途中休憩でトイレに行く時、ドアを開けっ放しにして、泥棒に物を盗ませます
部屋に戻った時に、何が無くなっているか、あなたは気付くでしょうか
乱雑に散らかった部屋で、途切れ途切れの記憶を辿ってください

時代を反映したビニール袋の中に、要らない記憶を放り込んで、燃えるゴミで出しましょう
階段で降りる事はせず、青空の見える窓から、地面へ投げ捨てましょう
道を走る車から手が振られたら、恋が始まるサインです
裸足のままで飛び出して、道に辿り着くと、誰も居ない事に気付くでしょう
いつの間にかあなたは、外に居る、ほんの五秒前の自分では考えられなかった事です
洋服を投げ捨てて、太陽の光を浴びてください
遠くに見える煙が、誰かの指先です
パントマイムはもうしません、鏡の前で練習する事もないでしょう
上を見上げると、開け放たれた窓に、イヤホンをして、割り箸を目に付き刺している人が見えます
あの人は誰でしょうか、でももう関係ありません
個々に戻る事は、もうないのですから

焼きそばを鼻から垂らして、口は意図で縫い付けておきます
被爆した皮膚をズズズと引き摺りながら、今日という日は、晴れやかです
電気マッサージを受ける時間が、刻一刻と迫っています
一緒にメリーゴーランドに乗るチケットは、あなたに届いたでしょうか
わたしとあなたは右側の自分を痛め付けています
左側の自分は透明になって、もう何処かへ行ってしまったようです
信じてください、わたしはあなたの傍に居ます
わたしは、わたしの中に居ません



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花と指
 木立 悟



花の名前をひとつ忘れる
波の音が庭を巡る
部屋の空をひとつ名付ける


花が花をなぞる
目を閉じ 聴いている
指先へ指先を唱うかたち


羽の輪を呑み
誰もいない明るさ
傷のたしかさが昇るのを見る
ひらいた腕から 虚の胸から


似たものは無く
得たものは無く
ひとつの手のひら
何もない手のひら


花の花のなかに立ち
ただ滅するを見つめている
約束が燃えてゆく
心地良さが燃えてゆく


誰にも何にも触れぬかたちが
果てに至るたび指となり
たどり着いたものひとりひとりの
そのままをそのままに受け入れてゆく


無数の名前の流れのなかから
ある日ひとつの花に触れる
こぼれんばかりの
名の無い指


砕き 砕かれ
なおつながるものはそこにある
気づかぬうちにつながり こだまし
震えるものはそこにある


定めなき色の奔流を
ひとつのかたちに集めたように
小さく淡く 名を失くしつつ
指を伝う花のたかまり
花に沈む 指のはじまり















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冬の檸檬
 丘 光平

雪道を
朱に染める薔薇の額に
おしみなく散る
冬空を

燃やしたことがある
生まれるまえの鳥たちに 
口うつされた千年を
ひとつずつ

墓標のしたに
風はいない ならば
聞くといい しろい吐息に
おまえの名はと

 そして、石の乳房に
かじりつく最果てに
おしみなく散る
冬の檸檬を



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Pic/北城椿貴

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