月刊 未詳24

2007年7月第4号
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2007年4月創刊号
2007年5月第2号
2007年6月第3号

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つばさいす
 木立 悟


碧に緑で描かれた円が
四羽の鳥となって飛びたつ
地には器と光が残され
祝いの言葉に響きつづける


泣いてはめざめ
泣いてはめざめ
水をほしがる子の手を握り
しずくの径に消えてゆく夜


音が音に触れ火を放ち
外はひろがり
奥は遠のき
震え散り咲く花になる


子は椅子を持ってきて
これに座りたいと言う
だがそれはいつの日か
色とつばさにかえってしまう


水曜日 砂糖水
弾かれることなく
聴かれることなく鳴りつづけ
飲み干されてゆく木彫りの器


髪に埋もれたひたいから
つむった両目から花はこぼれる
足もとに眠る四羽の鳥へ
ひとつ ふたつ 花はこぼれる









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におい
 真山義一郎


女のにおいの秘密にまだ惑わされている
その正体はいまだに掴めなくて

真夜中に光る信号機の赤
蒸れた風が吹き
桃色のパジャマで歩く
少女とすれ違った時に嗅いだ
あのにおい

子供のころ
アイドルグループのコンサートに行って
はしゃぐ女の群の中で
嗅いだ
あのにおい

なまめかしく
狂おしい
におい

女を抱くと
消えてしまう
いや、近づきすぎて
それに呑み込まれてしまうのか

花の中に埋もれ
息が詰まりそうに
いっぱいになって

手を引かれて
見上げた母の
寂しそうな横顔
その母の
におい

男は女を本当に愛することができるようになるまで
たくさんの時間がかかる

女のにおいを
女のにおいとして愛せるようになって
はじめて
男は女に向かい合えるのだろうか

女の子宮の中で眠る夢を見ながら
そんなことを考えていた






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翼のない夜
 丘 光平

 海は
 広い胸のようだ
すべての泡沫は
 この星の感情、あなたは
  わたしたちの胸のようだ

 砂浜は
 つかれた手のようだ
すべての静寂は
 この星の孤独、あなたは
  わたしたちの手のようだ

 そして
 風のつらぬく崖で
じっと憧れている花
その静かなことばのように
 わたしたちは
  夜空をみつめている


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家計簿
 角木優子


窓をこじ開け ぼんやりしてると みのもんたが「奥さん!」
と今日も晴れやかに語りかけてきて 振り返る事はしたけれど
間違いなく私の事じゃないので 消した

そろそろ液晶よね とブラウン管を弾いたけれど
以外に痛くて 爪を見たら折れていた
何事も加減よね 口に出して居間を1周
テーブルの角に次々スネをあててしまい
右回りに修正して 結局4周してしまった

そんな行動を鏡じゃないくせに ブラウン管は映していやがって
不気味だから ONにして消音にしてやった
口パクの世界が換えても換えてもあることが嬉しい
再再再再放送のドラマなんか音がないと
役者の力量が如実に分かって 私がアテレコしてやった
とっくにこの世にいない人も元気溌剌で 無声のまま
斬り殺されていた 下手のまま本当に死んじゃったのね
家計簿に120円と赤で書きこむ

窓辺に置かれた椅子には 誰も座っていなくて
たぶん 外を眺めていたらしい姿をおくげもなく曝している
あの椅子は まだ生ぬるいのだ
家計簿に260円と黒で書きこむ
赤と黒の違いにどれ程の違いがあるのか?
青で0円と書きこむ

まだ 曇り
ずーっと 曇り続けていればいいさ 空
かわりに 私が泣いてやる
なんて 家計簿に書こうとして やめる
椅子に座って 冷えはじめていた部分に
体温を与えてやる そのぶん 冷えていく私の部分は
「冷静さ」を通り越して「冷徹さ」になっていき
椅子に接していない温もりまで 奪いはじめやがった
椅子が「おじいさん」なのではないかと
立ちあがり 見たけれど 「おじいさん」ではなかった
おじいさんにすらなれない椅子に また腰を下ろすと
網戸にカナブンが止まって めったに見れないカナブンの腹部を
じっくり観察してしまった
家計簿に青でスケッチしたけれど 黒と茶色の境が不鮮明で
もっとシンプルな腹部で止まりに来いよ
0円と青で家計簿に書く  指で網戸を弾くと思いがけない
跳躍にカナブンは羽を開く事も忘れベランダの向こうへおちていった

冷蔵庫を開ける
1、5リットルのボルビィックをラッパ飲みして 下っていく
ボルビィックで食道 胃の形状を想像してみる
家計簿にスケッチしてみたけれど ヒダとヒダとの境が曖昧で
もっと鮮明に描きたいので ボルビィックを飲み続けていたら
膀胱の形状が想像されてきて 「便器」を描いてしまった
しゃがみたい と家計簿に書いてみたけれど
赤で書いてしまったので 赤っぽくしゃがんだ

TOTOは私の温もりを奪っていく
接していない部分まで奪いはじめたTOTO
が「おじいさん」なのではないかと 立ちあがり
見たけれど オシッコが散乱してしまって
おじいさんを とても興奮させてしまった

家計簿に「おじいさん」と書く
鉛筆で書いたので 後で消す事ができるので
1ページ「おじいさん」だらけにした
でも それでは不十分な気がして
家計簿に「とても興奮しているおじいさん」と書く
鉛筆で書いたので 後で消す事ができるので
1ページ「とても興奮しているおじいさん」だらけにした

温もりが
末端までいくと 手を突いて 心臓へと戻ってくる
ブーンと音がして 始まったアニメのアテレコをしていた私は
閉じた家計簿を開き 窓を見る
あいつ 生きていやがった!と口に出して テーブルを右回りに
1周して窓辺の椅子に座る

おじいさんにすらなれない椅子が私の温もりを
奪っていく まだ生きていやがったカナブンの
腹部をじっくり観察する 性懲りもない出戻りは相変わらずの
不鮮明で曇り空と私の間に しがみついている
ずーっと しがみついていればいいさ
かわりに 私が飛んでやる
なんて 家計簿に書こうとして
やめる







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それだって明日にはお前を裏切ってしまうのかもしれない
 ホロウ


属性は陰湿に脅迫を繰り返す形で喪失までの放熱を辛辣に散布して蒸発、硝子の粉の様な水蒸気達が空へも行けず夜行する、おお、お前等は重過ぎるんだ、透明度の高い肌の内側にまだ生きているころの血糊を隠し持ってしまっているんだろう…視線なんか合わせようとしない、すべてを見通してしまうにはまだ早過ぎるから、痩せた神経質な笑顔のままで逝きたくはないから―手の甲で弾いたら腐肉の様に弾けた、余りにも脆い人の世の一幕だ…ぽおん、と、微細な血液が朝露の様に散り…見事なまでに紅いのにそれは穢れている、それは世界とは不釣合いなほどに白い壁に吸い付き粗末な刺青の様な跡を残す、そんなものきっと一日経ったら消えてしまうのさ、それが血だったことなんて、多分…偽善的な三面記事よりも意味のないものだ、そこに在ったものが果して何であったのかなんていったい何処の誰に思い出すことが出来るだろう?白けた口調咬ましてんじゃねえよ、在ったのか、無かったのか…在ったものが無くなったのか、無くしたものが在ったのか?在ったと思っていたものは本当は無いものだったとか…?存在の上皮で何時まで遊んでいるつもりだい、お前等―あの国の拷問の様に人の皮綺麗に剥いで己に被せたら皮の名前が手に入るとでも?憧れの為の履歴書は夢物語ばかりだぜ、どんなに言葉を並べてもそりゃ手に届くものは無いってことさ―ほらまた、在るだの無いだのと…呆れっちまうぜ!!手にしたものが真実か、見過ごしたものは陽炎か?お前のその掌はいったいどれだけ確かにこの世に存在しているというんだね?俺は吾身を見つめる、舐める様に、確かめる様に…どれだけ見つめてもそこに確かなものは見当たらない…それはいまたまたまこうして俺に被さっている手の込んだ気ぐるみだ、それ以上のことなど信じても仕方が無い…指先が綴る言葉だけがすべてではないし、また、空気を震わせる音律こそが真実だというわけでもない、そもそもそんなものを定義してみせたところでいったい何になる―実存主義なんてこの世でもっとも馬鹿馬鹿しいお遊びに過ぎないさ、違うかい?何も無い路、誰も来ない路、そんなものに―交通法規を設ける事は滑稽な事だと思わないか、好きな様に走れ、好きな様に動け…よっぽど派手に転ばなきゃくたばることなんか無いさ、何処を殴っても構わない、そんなもののことを本当は孤独と呼ぶんだ、おっと、勘違いしないでくれ、これは「定義」じゃない、これは「感覚」と呼ぶんだ、こういうものは…お前の「触覚」にはそのことは伝わらないのかい…?FM電波の様にクリアーなのに!夜行!!おお、夜行!!報われない者達が夜を逝く、蛞蝓の様に這いながら、夜を…夜を……俺はそれを哀しいと思わずには居られないのだ、姿形ではない、もうそれ以上は何処にも行くことが出来ないという魂とでも言うべき何か!あいつ等は結びを拵えた強固な鎖の中へ自らその身を差し入れたのさ…それが自由だって信じていたんだ、それが自由だって信じていたんだ、それが自由だって奴等は信じていたのさ―そいつ等をぼんやりと眺める俺は微かに中空へと浮遊している―眠ってしまったのか?閉ざされた井戸の底へと一瞬で落ちるようにか?そんな80年代的センチメンタリズムは擦り傷だらけの病んだ魂に果して有効打を残す事が出来るのか…センチメンタルってことは嘘の様に綺麗ってことだぜ、ああ、判るかい、判るかい、お前…俺がどうしてこんな世界を抱え込んで生きているのかってことについて…俺の抱えているものの姿をお前なら上手く見ることが出来るかい、お前の豊かさも貧しさも俺の方がより知っているみたいに鮮やかに…?程度の様に汗がまとわりつく夜行の日、おお、魂なんて語るのは時代錯誤さ、


それだって、明日にはお前を裏切ってしまうのかもしれないよ



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幸福のデッサン
 前田ふむふむ

繰り返される福祉が、
新しく歓迎の声を受けて――、
福祉は、いくつもの、与えられた菓子を食べる。
なかには、埃を被っている、
国民精神総動員要綱も、
    遠くに、ちらついて揺れている。

埋立地の産業道路を、通信簿の優秀な◎をつけた、
大型トラックが、ごみ処理場にすすむ。
騒音を上げるたびに、一房の飢餓が、こぼれおちる。
その吐いた息が、静かに、
多円錐図法の地図の、きみどり色の囲いをはずして、
平地を、薄茶色に染めている。

海を忘れた祖母の実家に接続する神社には、
いまも、海のにおいがする。
境内では、夥しい巻貝、二枚貝が、
地面に、はめこまれていて、
子供たちは、生きた海を想像して、好奇に観察するが、
この「生物」の大切な学習課題に、
引率する先生は、かつてごみを流しつづけた。
福祉は親のように、優しい顔をする。
先生の口から、一台のトラックがあらわれ、
やがて、また一台、また一台とふくらみ、
いよいよ優秀な◎の列をなして、
子供たちの課題のなかに、
ごみで築いた夢の島を流しつづける。

1944年、緊急な戦費調達を目的として、
厚生年金保険法が施行される。
引き出しを開けたら、年金手帳が二つもあった。
銃後の守りは、
きちんと整理しなければならないのだろうか。
とうめいな戦争は、
わたしの飢餓している、乱れた眼にも、
コンタクトを入れてくれる。
「飢餓しているので、メガネも三つ、持っている。」
福祉は、暫し、いろいろな顔を見せる。

青い波のような手紙であった。
「世界では、三秒にひとり、五歳に満たない子供たちが、
 命を失っています。その一方で、一袋わずか六円の
 経口補水塩が、ひとりの子供の命を救うことがあります。
                 日本ユニセフ協会  」
青い波はつづく。
波打ち際をゆく、黒い肌の子供たちに、
やわらかい日差しが、無邪気に戯れている。
悪戯っぽく軋む砂浜に、
無垢な子供たちの、疲弊した
夥しい白いパラソルが揺れている。

糖尿病のカラスの群が、真夏の空を進軍する。
テーブルに広げた地図に描かれた、
熱帯にひろがる、
朽ち果てそうな湿原に、銃口を備えよ。
すべて、残さずに刈り取れ。
地図は前進する。
雄々しく前進する。
わずかな湿り気を、洗濯乾燥機で主婦は蹂躙して――。


模範的良識家族。
テレビの先頭に、
美しく家庭の情操教育の広報を貼りだす。
父「今日は、たまには家族で外食をしょう。」
娘その一
「和牛のステーキが食べたいね。」
母「あの店は、魚料理も捨てたものじゃないわよ。」
娘そのニ
「デザートの手作りバニラも美味しいね。」
娘その三
「家族仲良くが、私たちのモットーだからね。」

戦場は、音もなく、ひろがる。
上から下へ。
縦から横へ。




※ 日本ユニセフ協会のメッセージを引用。



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シャリテスール・ループ
 黒木ミニー

(離れた太陽、狂う指先、誰かがまた昔を忘れ)
(きっと夢をみている)
(誰もが記憶をこの町の雪にして降らせたあとでも、まだそこで)
――少年を失いましたと女は呟いた。俺たちは階段をひとつあがる、彼らはもう見えないところ、名前くらいはせめて誰かに預けよう/ただ別れは告げず 光を拒絶する水の精たちは理想を語る西の海に、一番欲しいものは手にはいらないと、いつもの繰り返しをまた、繰り返し/
繰り返して

― ― ― ― ― ―

………。
夏に死んだ少年を思い出した。彼が眠る静かな海で誰かが朝に歩きはじめ、俺は約束された時間にめをさまし追いかけてはまた眠る
波/天使の翼を砂に埋め、食いつくされた春の足を思う、赤く染まったおまえの手が異国の歌を指揮していた、それは夏の日の夢
吊された女の目は深い黒、髪は闇のようだ、夢は群れ獣に食われた、白い地面の上・・・ふたりの狼に
いつか海が逃げだしたときも/、それは地獄で交わされつづけた永遠、俺は思い出すことも出来ず、ただ遠くに見える黒い煙を、確かなことは何もなく、朝、少年を探した、――何もかも一切が・・・
七月の夜明けを、待っていると、知りながら――

――――――――・・

    VO、

―・――ヨア、ヨア、夜明け
ニ・―――――・・・
(ヨアケ・・、ヨアケ二、
 ヨヨ・・ヨ、ヨアケ・・
 ニニニニニ・・・
ににに、し、死んでいく魚は(ワ
悲しみと雨の歌をうた
うたっ
うたっ
歌った・・・
あー、あー、あー、
      あー・・・、
死を見張る少年は朽ちる・ル・ル
朽ちル・ル・ル、ル、ル、ル
永遠が降りてきた時には月の
ひっ、ひっ、
光が・・・空に、弾、弾、けッ
トットッ、
「飛んだ!」
苦しみ喘ぐ者を眠らせる
神に祈りを捧げる
魚たち・・・・
流れるものは地獄へ流れ
流れぬものは永遠を、
持つ―――

    P、VO、

問うのはもうおわり これは何度め・・?世界は離れてしまった
――…

…………。
「わたしを光が通過していって死が前でまわりはじめる/名前もない人形を連れて遠くからやってくる/雪に手をさしのばした/沈んでゆく魚に愛の歌を/彼はどうやら遠くへ離れ苦しまねば血も流せずに/夢見る孤児は川へと入る/泣けるものは泣けばいい哀れというものがいるか/夜明けのなかの黒いもの果てのない地平の彼方に空から落ちてくる/光たち!」

唇は凍りつかせないで
小さな影が通り過ぎ
わたしは今、夢を見ている
空の星たちは眠りにつき
生も死も、なにもかも
一切を忘れさせてくれる
月は静かに風を呼び
地獄への道を凍らせた
それは許される
ということ
吹く風が泣いていた
あれは魚の群れの最後尾
夢まぼろしに消える
朝―――
……………。

― ― ― ― ― 

「夢見て朽ちる悪夢の昨夜、地獄の扉を俺は開いた。朝の光は魚たちを照らし、骨は少しずつ崩れていく、・・・夜明けだ。離れていく光が夢の終わりを告げて沈む魚たちを橋のうえから少女が見下ろした。沈むものもなにもかもを過ぎた日に消え去って風の泣き声を俺は聞いた―――」

許すものは許されるものに渡し
長い髪の少女のくちびる
冬の風に散っていく
星たちは何も語らずに
ただ果てはなく
野に雪が降りはじめる
生まれ死んでいく魚は
冬の風に
過ぎた日に流された
そしておまえの泣き声
呼応した夜のこと
静かに流れる川のなかで
俺は、
おまえを見つけた




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