月刊 未詳24

2007年9月第6号
[詩人名や作品名で検索出来ます]
2007年4月創刊号
2007年5月第2号
2007年6月第3号
2007年7月第4号
2007年8月第5号

投稿する

日々と手のひら
 木立 悟



考えが考えになる前の
弱くふわりとした場所の
まるい柔毛に浮かぶまぶしさ
手のひらにのる
手のひらを吸う


ふたつに分かれた音のひとつが
もうひとつの背を見つめている
さみしげな色が道をすぎる
さみしげな標に触れてゆく


細く圧する力でした
何もないはざまの
押し花のようでした
かすかな響きに添えられた
指の重さのようでした




あなたはついに
あなたではないのでした
ずっと苦しんでいたころに見た
極彩色の夢に似て
あなたはあなたのほんとうの姿で
遠去かってゆくのでした
あなたのほんとうのほんとうに
触れ得ぬものをひとり残して




瓦礫 青空
消えてゆこうとする街の
あちらこちらに想いはまだ居て
運ばれるかけらを見つめている
曇は雨とともに降り
道は洗われるたびに夜になる


鏡のように静かなうたが
手のひらに満ち あふれこぼれる
向かいあうままに動かない
同じに見えて異なるあなた
映し映され照らし照らされ
土に光の笑みを描く
わずかに揺らぐ波を描く



















[編集]
悲しみ
 たもつ
 
 
悲しみは忘れた頃にやってくる
 
悲しみの上にも三年
 
悲しみ盆に返らず
 
千里の道も悲しみから
 
咽喉元過ぎれば悲しみ忘れる
 
悲しみの悲しみによる悲しみのための悲しみ
 
悲しみは青かった
 
おお悲しみ、どうしてあなたは悲しみなの
 

カウンターの隅で
「悲しみ」という名のカクテルを
飲んでいる若者がいたら
それはきっと二十歳の僕です
本当の悲しみなんて
知りもしなかった頃の
 
 



[編集]
寝台車
 たもつ
 
 
寝台車の匂いが
掌にする
腕はまだ
距離を測っている
残されたものを集めると
骨の近く
きしきしして
初めて靴を買ってもらったときの
恥ずかしい喜びしか、もう
いらない
小さな建物のところで
化膿した皮膚を
ただ掻きむしった
寝台車が体を乗せて
発車の準備をしている
さよなら
言葉は空気を
震わせてはいけない
 
 

[編集]
「薔薇」composition
 丘 光平
山々の からみあう緑に
のぼり立つ霧の炎

 逃れてきた
小鳥たちのまなざし そして
雨にほどかれてゆく薔薇―

 初夏のすずしい空白に
しまい切れない静けさが
小石のように
散り敷かれている


   *


 秋へ渡るあの鳥や
しずかになったこの蝉は
いったい、どこの誰だったろう

 ああ、いつだって私らは
手紙のように
白く忘れてゆきながら
いくつめの初めてを迎えるだろう

 そして、庭の薔薇たちも
さよならと手を振ることもなく
あなたと帰ってくるだろう


   *


ふりかえってはいけない音がある
聞いておきたかった夜がある

壁には
だれかの置き忘れた九月の風景

そして、かなしい食卓の
白磁の皿に咲くいちりんの薔薇

ああ
おまえの歌が割れてしまわぬように

僕の中の水は
きっと眠ることはないだろう


   *


 呼んでいる
からだのなかで、呼んでいる、血と肉へ
約束のように破れてゆく、なんども
なんども、切り取られた薔薇は、母のように
呼んでいる、私のいちばん汚れたところで
眠る私を
憐れむように、呼んでいる
気づくことなく
 眠りつづける迷い子を―

 聞こえている
薔薇のなかで、聞こえている、浅ましい私は
糸のように辿ってゆく、落ちまいとして
握り締めた薔薇を、おまえだけを
落とし切って
聞こえている、私のいちばん汚れたところで
貪る私を
照らすように、聞こえている
悲しむことなく
 貪りつづける敵を――

  だれだ、
 生きるのは、だれだ、
生まれるのは、だれだ、―――

 咲き遅れた
夜の散る水面に
やさしくほどけてゆく小鳥たち、そのように
なにひとつ
届けることなく、冴え冴えと
 赤く、雪は降る


   *


 うなだれた手をのがれて
川にほどかれてゆく薔薇の花束
水面に散りしかれた一度きりの庭が
つめたく流れてゆく

 よろこび、純潔、そして愛の色づき
身体の熱が高鳴るほどに
すこしずつ、
すこしずつその美しい想いは夢と流れてゆく
行き先をしらない旅びとの夜にも似て

そして、降りはじめた
雨の光に灯る岸辺に
時と風に傷めたその羽ばたきを
うつろに束ねる一羽の鳥
その瞳の水面に
遠く流れてゆく薔薇は
薔薇はしずかに燃えている


   *  


 そして星は降り
おまえは歌う、また 陽は昇るのだと―
ああ、
一寸先の薔薇よ
 薔薇のままに照らす光よ







   雨の庭
    ・
   「手紙」第一通
    ・
   薔薇の歌
    ・
   「手紙」第四通
    ・
   流れる庭
    ・
   「風景」imp.7



[編集]
夜の舌
 ユキムラハネヤ


(半乾きの毛先が
 とがって
 ほおにふれる
 静脈が透きとおって
 そこだけ 。)


 伏し目がちに
 ぼくの腕の中へ
 肌を埋め込んでいった
 
 ふ、と
 (夜の舌に)
 夕暮れの色素に
 (うすく、むきだ、され、)
(そこだけ、)
  あかくなる
 

 冷えた浴室の水滴
 あなたが削ぎ落としてしまった
 ぼくのつやつやの毛
 ぼやけたタイルの
 白い目地にはりついて
 ( ふたを、閉じ、る )


 遠い夕立の深夜
 あなたのお母さんが運ばれた
 救急病棟の立つ丘から
 見渡せるシーツの上で囁いた
 (ぼくらの、うすい、くちびるの、あお、)
 常闇にふたり、寄り添って
 零になる心拍数を
 数えていた
 ( ゆびと、ゆびの 、やくそくごと、 )
 夜が僕らをどこか遠くに連れ去って
 ( そっと、隠してくれる、から、)


 排水口の蒸気が
 鏡の奥で燻っている
 夜明けまでにはそっと
 蒸発してしまおう
 ( 息をひそめて、毛布の、下の、絡めた、 )
 病院の窓辺から見つめる重たいものが
 ( 知っている )じいっと、
 貫いてゆく先を


 繰り返す震えの中に
 息づいたぼくの少年性を
 あなたのドライヤーは
 つるりとはぎとってしまった

 震撼する
 平たい空虚が満たす部屋
 ( 浴槽に、沈めた、ふたりの、)
 白く傾いている

 しめった肌をめぐらす
 血漿のしたたかな
 (にがみ、)石鹸の泡で
 (隠した、)かさぶたの(閉じられた)
 青むらさき

 むずがゆい素肌の外膜を
 夜の、舌が ぺたり
 押さえつけて


 祈りに似た痙攣で
 渇いた喉を潤そうと
 (間に合わなくて)
 背中から滲みだしてしまう
 (閉じ込められた、かなしみ、に)
 ほたるの触角のような
      (ぼくたちの)
 静かにひかりだす鎖骨の
 半透明を(442HzのA、)
 シーツの上でぶつけあう
 (カーテンレールのきしまない夜)(せめぎ、
 あいの、ない、まなざし、)(鳴いている)

 あ 流れ星、と
 孤独とビロードの狭間を
 ( 漂白して、にく
   しみも、かなし
   みも、すべて、
   しぼりだして  )
 見渡せる(夜の)
 (舌にからめとられ、)
 あの丘の暗い窓辺から
 太陽がのぼる
 (発光しだした、ぼくたちの)
 までの
 (記憶)



 


[編集]
星霜はこぼれ
 ヒズム

渋滞を編む車窓から
光を集束する夕日レンズ


いつか嗅ぎ合ったアルコールランプ
散り散り燃える雲の匂い


鉄橋で泣いていた少年は
手にこびりついたサビをなめた


収穫を終えた田園で
今日を締めくくる狼煙が上がった





こんな虚しさ


ただの夢なのかもしれない


鋭い月を受け入れて
天空で揺れる銀色シンク


満杯になっていた星霜は
そろそろ順にこぼれていく


当然のように


急速に冷えていく手すりを握る


秋の温度を思い出す




[編集]
鮮やかさ
 狩心


ぴかりと光る輪郭
来る日も来る日も
ボロ雑巾で磨いたのだろう・・・

乾いた雑巾をバケツの水に浸し 
力強く絞る 
その表情は 
鬼の面
何を睨む

血しぶきを撒き散らす
その部屋に差し込む太陽光
血と血が鏡になり
太陽光を反射する
無数の屈折が織り成す光の蜘蛛の巣

窓の外からは見えぬ
血だらけの体をボロ雑巾で拭う
ボロ雑巾をバケツの水に浸す
力強く絞る

繰り返される工程の中で
染め上げられていく衣
白から赤道直下へ
赤道直下から太陽の黒点へ

刷り込まれた
水と太陽と血

人が死んだ後
部屋に残される
たった一枚の雑巾




[編集]
[*前] [次#]
投稿する
P[ 1/8 ]



[月刊 未詳24]



[管理]
















[メッセージ検索]


[掲示板ナビ]
☆無料で作成☆
[HP|ブログ|掲示板]
[簡単着せ替えHP]