月刊 未詳24

2008年8月第17号

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仮継(朝)
 木立 悟





かすかな明かり
すぎる意志なく
すぎゆくもの


岩に記す波
幾重にも
風を模して


泉には窓が沈む
塹壕と青空
水の呼び名が飛び交う


空の怒号
左脚の息が止み
ふたたび 夜のものさし


待ちわびるもの
待ちかまえるものに訪れはなく
静かな土に 生えるとどめ


怪物が
エスファハンを咬む
水を鳴らす灯


迷いは亡い
光を受けろ
海へ あおむけに流れる血


月を横切る牙
音は遅れて到く
洞と空の狭さ


こぼれ落ちる色のなかから
動くかたち 起きるかたち
やがて唱 やがて道


鉄と陽の自画像
曇が曇に倒れる音
方角を失くした朝に降る















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一人暮らし
 ミゼット

小鳥を食べる
ナイフで押さえて
フォークでお腹を切り開く

うまいことつかまえて
うまいこと首を折って
うまいこと皿にのせて
おいしく食べたい

うまいことやらないと小鳥は捕まらない
うまいことやらないと小鳥は死なない
うまいことやらなくても皿はあるけど
うまいことやらないと裂いた腹から虫が出てくる

うわあ

さけんだところで始末するのはわたし
吐いたりしても片付けるのはわたし
皿が割れても夜中だったら掃除機がかけられない
掃除機をかけないと破片を踏んでとても痛い

今日は歌い間違えたから
うまくやりきる自信が無いの

だから小鳥は止めにして
卵を拾って帰りました


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飛沫
 clione
 
 
壁で塞ぐ国々の笑い声
願い事が乱反射した
君に教えたいよ
映画館で
 
美しい朝にも眠っている
瞼は真っ暗時折緑色の光
何処の廊下の何処の絵画の何処の色彩だ
泣いている子供なんて実は
もうどこにもいない
自分で作った
自分だけの思い出で
 
 
 
ご迷惑をお掛けして
申し訳ありませんでした
もうけっしてこのようなことは致しません
ブランコの下の蝉の死体のように
乾涸びるにはあまりにも惨く
時間が
かかりまして
砂絨毯に痛がり
耳をすましますと
まだかすかに
羽の擦れる音が
ジジジジと
ジジジジと
私は
何も言えずにただ潮風が
伝えることを諦めた唇に
触れるよう
ざわめいて
海とともに
過ぎてゆくのです

 

悲しいことはいつも季節外れにやってきて
夢の中でぷつぷつと回っている
隅に押しやられた大きな黒いレコード
本を開くように
ありふれてほしかった
籾殻を吹き散らす夫婦の落ち着いた未練
透き通る
まるで遠い 


 

忘れてしまった
赤錆の手摺のこと
語るものもない
ありきたりな過去
この腕が
いたたまれない
昔住んでいた場所から
どのくらい
離れているのだろう
死んだ花が生き返って
それを見た君が泣くなら
匂いでわかるよ
追い詰めて
張り詰めた
こころのよりどころは
どこにも
ない
さようなら
ラララの花たち
君に教えたい
君に教えたいよ
 
 

 


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染みこんだ朝
 いとうかなめ
 
 
染みこんだ朝に
差しだした
小さな皿の上のハーブ
 
まだ眠いわたし
もう起きたあなた
もう起きたまぶたは
世界中のあなた

蹲りながら
四本足のひとは
翼あるひとと
だんらん
すべての死は
季節外れにあつまる


きみの趣味は
はい趣味はガーデニングです
終わったあとの
指に混じった土のにおいが好きです
きみの長所は
はい約束をまもるところです
短所は
はい朝起きれないところです
きみはむかし幼稚園で
はい幼稚園でいじめられていました
でもそれは二本足のひとたちからだけです
花や木々からはありません


そう
生きられたらいいのに


朝の
あるいは
染みこんだ朝の
真裏で起きたわたしのまぶたは
立ち上がったケモノの姿
まちがえてしまってたらいいね
ゆがむことを許されなかった
眠い眠いわたしのまぼろしを
金魚鉢の水で
ぱしゃん
起こしてほしい


たくさんの石で円を作る
そこに入って無数の星をかぞえる
星と呼ばれたそれは
会いにくることも
かたりかけることもなく
かたかなでできた言葉を並べて
あなたに近づきたかった


わたしの体から朝をむかえて
夜をしずませる

ひとはうすいうすい紙
やぶれないように
そっと
記したい
そして記されたい
はじまりだから




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誤射
 ホロウ


震えるように消えた影
自閉した部屋で
お前の声だけをずっと聴いている
夜は深い川のようで
息をするのすら忘れる
人の存在が自分自身を奪う
ひどく雨に濡れるような痛み
蒼ざめた満月が銃創のように刻まれる夜に
激しい雨だれの音さえ聞こえる
いま手に入れられるもののすべてに
まぼろしという名前をつけた
機械のような絶望が身体を覆う
萎えてしまうとメタルみたいに硬い
窓の外からはるか彼方
俺をうかがう慣れた瞳を見た
そこから本心を投げてこい
照準を合わせて、撃ち抜くように
そこから本心を投げてくればいい
もしもお前が妄想の産物でないのなら
長く待ちわびる弾丸
チャンバーに送られはしたが
決して撃ち出されることはないのだ
それが出来れば苦労などなかった
それが出来れば
一瞬の予感のもとに
どちらかが撃ち出すことが出来れば
膝を抱えるのに飽きて横になる
闇の重みが一層増してくる
俺が見ていたものは何だったのか
確かだったからこそ危うかったのだ
確かだったからこそ
確かだったからこそ…
誰かの投げ散らかした花束
誰かの投げ散らかした小さな花束
ドラマツルギーと呼ぶには陳腐に過ぎるだろう
静かすぎる
音楽がない
狂ったような喧騒が欲しいのに
弔いのように静かだ
俺の心が判るか
押し黙るのは嫌いだ
話すべき言葉が何も浮かばなくても
俺の心が判るか
それでいて
黙るしかなかった心が
長く待ちわびた弾丸
動脈を破いて欲しかった
どんな理屈が後に付こうが
今は
役立たずの案山子のような生命だ
両手を広げた
闇を退けるように
何が変わった?



留めていた肘が
わずかに

傷んだだけだ




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すぎるあそび
 木立 悟








意味さえ知らず
触れては消える
水のなかへ
音のなかへ


一滴一滴
光は変わりつづけている
抄うともなく抄う指先
常に既に異なるふちどり


鉱の音が響いている
どこかにずれたままに在り
かみあうことのないふたつのものから
そのままにそのままにとどいている


散らばる色と光と音を
幾つかの糸くずが漂っている
散らばりへ 散らばりへ
たどり着くことなく還りつづける


鳥も雨も去り
光の少ない曇が残る
すっと
指の跡が鳴る


軋轢が虹を追い越し
水のない水色を娶っている
騒がしく渇く祝宴
親族は水辺を見ない


事象はさらにさらに分かれ
過去に向かうものは多くない
消えかけた泡の傾きに沿い
光と音は壁を昇る


目を閉じればまぶしく
目を開けざるを得ない
目を閉じたままでは
まぶしすぎる


はざまにつづくはざまの言葉は
すべて見えなくなってしまった
指はそこで遊びつづける
こぼれるものらと遊びつづける





















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「光」imp.3
 丘 光平


こどもらが笑っていた
すこしよごれた手のひらを
花のように
大きくひらいてみせた
古い家屋の立ちならぶ
八月のちいさな砂利道で


こどもらが手をふっている
遠く
夏の空が広がっている

どこからともなく
鳥がきて どこへゆくともなく鳥はさり
こどもらが手をふっている―


 八月のしずかな砂利道で
家族の分だけ
ひろいあつめて
小石を円くならべてみせた

もうすぐ
雨が訪れるだろう
大粒の雨が訪れるだろう




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終日(ひねもす)
 腰越広茂

うちわをあおぐ
私は
縁側で
入道雲を見遣る

庭では生垣が
真っ青な息をしている
深い静けさに みちて
遠くで ひもす鳥が ないている

山の ふもとを流れてくる
小川に うるおう田園 田園

やがて
稲穂の さやかにかおる秋を むかえる
そよ風に
夏の残り火が 灯るのであろう


※(ふりがな)見遣(みや)る
※ ひもす鳥=カラスの異称。

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pic/北城椿貴


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