月刊 未詳24

2008年11月第20号

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呼淵
 木立 悟






百年の花が咲く
音だけの虹
昇る夕べ


鳴る穂を抱く
水の穂
指の穂


おまえを
おまえに与えられずに
叫びつづけた 水に映した


明るい貝殻
問いかける色
数を照らす


光は傷む
羽に生える羽
曲がり角を曲がりきれずに


波のように 人のように
砕けては立ち
うたいはじめる


滴が滴に至る径
河が穂を聴く
一度 ふりかえる


水から水へ
けして花ではないものの
次の百年が香りはじめる


手から海が落ち
浪になり凪になり
呼ぶものへ呼ぶものへ到いてゆく































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夜の内に傷は熱を持って
 ミゼット

よるのうちに
きずはねつをもって
ひえたほおにこうをあてると
じじじと
こまかなゆれがくるのがわかるでしょう

ああ
ちいさいせんそうをやっているのだ
じじじ、
てのひらにすんでいるひとがいう

きいろいでんきのしたでは
なみだはやけにひかってみえる
なめくじのとおったあとみたい

よるになると
さむさがおろすしもにのって
ふかいふかいとおくから
おおいおおいとよぶこえがする

ねどこにはいると
ゆかをつたって
うみからのとおいこえがする

なみのしたでは
いつかみた
みなみのさかなは
しにたえて
やせたにんぎょが
ゆうげをとっている

にんぎょもひとりでねむるだろうか
とおいこえは
にんぎょのすよりも
ずっとふかくからやってくる

ねどこのなかで
からだをまるめ
よびごえにたえる

うみからはとおい
けれどかわがつなぐ
しもをつたう

ふとんをかぶり
からだをまるめる

ほおにてのこうをあて
うずきでこどうをたしかめる
わたしのありかをかくにんする

けさ
たくさんのおんなのひとが
ながれていったときいた



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うつわ うつろい
 木立 悟








白へ白へ旅をする
木目の道の途切れるところ
裸足の足指
つまびくことの
終わりとはじまり


小さな柱がいくつかつづき
見えない川を示している
枯れた花が陽を拾う
野は
水紋にゆらぐ


ひとつ鳴るたび
ひとつ軋む
水と砂 水と砂
硝子のような
緑に降る


つらなりゆく背
枝の奥の
鏡へ進む背
くらべるまもなく
変わりゆく背


時が鼓のように在り
誰も鳴らさず鳴っている
造られたものらに目をふせて
渦の道
洞の道を聴いている


歩むもの
つまびくものに
まとわりつく
水と砂 水と砂
錆びた振り子の刻む音


金と銀
鉄と鉛を持つ透明が
かげろうに空を示せずにいる
音は途切れ 音ははじまり
破れた淵を繕えずにいる


はかり きり
はかり きり
うたはうつわからこぼれ
野の根元
道との境に流れてゆく


揺るがぬものが揺らぐひびき
粒の波
光の破れめ
もとめる指を
すりぬける声


かわいた肌を映しながら
かわいた肌をころがる滴
たなびく光のむこうの光
手を振りつづける光のむこうに
足指は音を残してゆく























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断片
 サヨナラ
 
 
お前さんは
なにごとも
生き死にに
つなげたくなるのだねえ と
名前の知らない祖母が言うので
そうかもしれませんね と答えた
そうかもしれませんね と答えると祖母は笑って
ぜんぶが ぜんぶ
よいことではないけれど
わるいことでも
ないからねえ と
茶筒に手を添えた

私は
ただ
退屈なのでしょうか と

問うた声は真新しい桐に遮られ
季節が変わることを
教えてくれる


名前の知らない祖母一人
焼香で顔隠し
スカート姿の祖母一人
同じ風浴びる

朝露に映る祖母一人
冷えた体纏いし
名前の知らない祖母一人
手添えしも答えず



ただ そう あるだけ

ただ そう あっただけ



お前さんは
なにごとも
生き死にに
つなげたくなるのだねえ



唄えども唄えども
わからずやの帰り花
並ぶ空瓶 反射光

唄えども唄えども
わからずやの帰り花
冬田の焔 祖母一人




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 軽蔑
 鈴木
 

 賞味期限を過ぎた牛肉の
 醤油と塩胡椒を縫って口を浸す腐臭や
 運動会のリレーにて根拠もなく裸足で走る際に砂利を踏んだ痛みに
 蔑み、は似ていて
 じきに平気な顔を作れるようになるものだけれど
 ゲル状に溶けたレアステーキを蝿の羽音を聞きながら食べたことも
 筋に突き刺さり血液の川を作るほどの角を持つ石の上で走ったことも
 ない

 鈴虫の鳴く夜に黄金色に輝く月を捉える視界の隅で嘲笑が瞬き
 それは枝垂れ柳で、蔑んでいた
 無人の教室にて一人で勉強していると急に机どもや黒板がどっと騒ぎ
 見渡せば止むものの蔑んでいた
 慣れた
 饐えた甘みは身体に満ち満ちて残る

 六月の日は長く彼女が明るい
 ミネストローネをすする
 むき出しの鎖骨に至る汗ばみとスプーンの刃に付着したままのわずかな赤
 がじとり同じように光り
 きのこスパゲッティを口にし
  しめじおいしい
 アラビアータは来ない
 水はぬるい
 アラビアータが来る、卓に、舌に
 にんにくが効きすぎており今日はキスを自重するべきか判断を下しかねながらグラスを傾けてさりげなく口をゆすげば歯間からカスが漂い
 ねとついた風味が残り
 水はぬるい
 最高の、
  うまさ
  は?
  いや、うまい
 さわやかな声音を意識しつつ鼻の頭に浮かぶ脂を意識しつつ
 店内を流れるクラシック音楽はモーツァルトかベートーヴェンか
 詰られたくない
 水を噛む
 友人の話をする
 パスタ飲む
 後輩の話をする
 受験の話を避ける
 彼女は適当な相槌を打ち
 ミネストローネを一口くれる
  うまい
  あまり好きじゃないけど
  かもな、でも少しやせたか
  光のせいじゃない
 原稿用紙の登場に僕は沸き立つ
 彼女が彼女の詩が好きだから
 読んでいるときは何も見なくていいから
  いつものペンネームじゃないんだ
 見開かれたまなこが巨大すぎてやはりやせた気が
 僕は、


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光を
 腰越広茂



   光を

真昼の太陽を 目に映す
視界は暗くなり
ただ一点太陽だけが白く浮かびあがる
そこから
視線を外すと
しばし辺りは暗転して
浮遊する幻覚となってしまった
私は
みずからの影へと埋没してゆく

あれ
うすいまくでおおわれたさよならの核種
への距離を
(残像(が(緑の)羽となって透けて)
あれ
舞っているのかしら
午後からきらきらきらめくばかりで
うすい雲がさらさらささやくばかりで
あれ
身が重い

そんな簡単に産めるなんて
考えてはおりません
瞬くたびに明滅する胎動
初めて聞えてくるかしら
そんな殺生な
私は絶望することさえできない
誰もいない林の陰へ
たたずむひとつの吐息
来ないかしら
風よ 来い


   一声

ただひとり、すーきりりとおちてきた雪。
ましろな空からおちてきて、わたしの手のひ
らに結晶の小声が、しとっと響いた朝。二度
とは帰れない そこは遙か遠く 一度きりの
恋路 わたしの老齢をひそめて、右手に種子
をおしかくすしか道はないような明け方だ
おそれなければいけないことは忘れてしまっ
た、おそれを思い出せないこと ご安心を
ひとは愛を)くりかえす
わたしの果てしない原野で
ツルが一声
飛び立った


   子守歌

黙礼を交した

ぎりぎりの世界で生きている
生きものは皆そうなのかもしれない
「わたしはここにいるわ」
空子(これは架空の呼び名であって
『死』といっても驚きはしない)
が呼びかけている
私はつかめそうもない空間を
手のひらに乗せた幼子であった
耳をくすぐる幻の光子であった
天秤のバランスが
はるかな水平線のように
湾曲しさざなみを歌う

交した相手は
遠くにつながっている
くぼみ続ける質量の
歪曲した笑みを浮かべる
もうひとりの私であっただろう
その後、『私』とは再び会えなかった
いまここに立っているのは
空子なんだ
『空』の腹部でふくらむ微動
それというのは 転回するわっか

無闇な性と結ばれた
目を見開いたララバイが 海原をわたっていく




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無題
 クマクマ


司祭たちが手に手をとって、締めてはゆるめて、鬼を追いつめていく。

死角があるなら、そこに違いをつくろう。言葉は、そんな風にもふる舞える。紅潮した陰茎や陰唇に、視線を伏せながらも関心を隠せないような、わたしの慢心。

はえへ、のら犬へ、花びらへ。意味に意味を重ねて。真昼に浮かんだ残月。画家は、キャンバスに刷る地塗りの色さえ選べない。

リディア・リトヴァクの乗機には、白い百合が描いてあった。惹きつけて止まなかった。




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ひとつ なまえ
 木立 悟







ひとつのつづき
ひとつの雨
祈る者なく
響きは在る


青や灰の音
縦に巡る空
滴ひとつ
離れるうた


熱の歪みがさらに歪み
様々な濃さの黒のきれはし
羽のかたち
炎のかたちにつらなる夜


かがやくものが
首にしがみつき
ひとつうたを喰み
ひとつうたを喰む


これは雨のもの
これは川のもの
ひとつ息をつき
ひとつうたを喰む


霧のなかの穂
蜘蛛の巣の穂
手を振ること 手放すこと
やがて降る陽


とめどないためらい
凍える指の言い訳を
春を知らずに聴きつづけ
手のひらは微笑む鉱になる


器の傷まで
そそがれる雨
ふりむかぬ背に
置かれるかがやき


まぼろしが育てた夜に
たとえ会う前に別れても
名前は生まれ
ただ打ち寄せる


冬かもしれず 冬かもしれない
鏡のなかの 笑みと吹雪
帰る道なく
呼び声は在る




















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pic/北城椿貴


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