月刊 未詳24

2009年2月第23号

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夜とかけら
 木立 悟







壊れたひとつの器の代わりに
金と緑の流れのなかを
ひとつの仮面が鳴りつづけている


はざまの窓をしたたる空
鳥がゆうるりと
首を踏切へ向ける


夕の稲荷
すぎる列車
雪の稲荷
破邪の衣


窓枠の心臓
陽を振り返る猫
咲かぬ花の群れ
地平の影を聴く


大切なものを壊すたび
かけらは鈴になってゆく
幾度も鈴を舐めるたび
口は鈴になってゆく


林の隅で
小さな息が招いている
衣擦れが夜を起こし
緑に潤む


空を覆い
仮面は渡る
音は降り下り
鈴を鳴らす
























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さい、あい
 ミゼット

おにいさまがねむっている
わたしはそれをながめている
ふれられないからくやしくて

このしろいすかーふで
おにいさまのくびをしめる
おだいどころのほうちょうで
おにいさまのむねをつく

わたしはわるいゆめをみる

る、る、る。

おにいさまはしんでしまう

しんでしまったおにいさまになら
わたしはすきなだけふれられる

る、る、る。

けれど
おにいさまはふはいする

おにいさまがふはいすると
それはとてもひどいにおい
おとなりさんがきづいてしまって
わたしはとうごくされる

る、る、る。

だから
ふはいするまえにやまにうめてしまう

やまにいくにはくるまがひつよう
くるまをぴったりげんかんにとめても
わたしひとりではおにいさまをはこべない

だいしゃにのせていったとしても
すべてのあなからちがながれでて
あくじのしるべをつくるでしょう

しゅびよくしゅっぱつできたなら
わたしはけんもんにおびえてはしる
うまくやまにつけたなら
おおきなあなをほらなくちゃ

こんやはなんてひどいあめ


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日の暮れた端っこで(夏)
 えあ

お庭があそびばです
けして浮いたりしてはいなく こげる程こちらをのぞむ
群がるところ
群がらないところ
垂れたアイスキャンディがつくる影を跨いで
どこかにいきたいの
踏めばかおります
つぶせば飛び出します
後ろ向きにはにかんでみる
一人小指絡ませて
行儀よくわたしたちを並べてください
そしてえらんでください
小ぶりの瞳がこぼれそうになる
ふれあわずにしています
女の子は唇が赤く腫れていく
眠気が声、で
めざめだします
小雨が時を教えだし
わたしたちがほつれだします
それでも
手などつなげず
また一人また一人と
うずくまる
足取りが重いのは暑さのせいと
あのこがしがみつくからなのです
泣きそうなのは一緒なの
あのこもこのこも
まぼろしにみえてしまう
夕方のほうに背けた顔
影のあとが消えないよ
耳をすませて羽の奇形をみる
茂る、すきまから洩れる水という水 音という音
翻るスカートと洪水になって
声になる
目から耳から入りこんで
膨らんでいく
あなた、みたいね
はらはら不規則に舞う
はきだしてしまいたい
たくさんの斑なしぜん
夕立のあと
立ち上る匂いに振り返るのは
あのこともこのことも
仲良くしたいから
けれどわたし、勝手に
足を前にだします
ほんとうは
かけだしてしまいたい
手をつかみ
影絵みたいに一つに
くるりとまわっておうちに帰ります
約束はできない夏でした
とてもちいさな夢のようで
それでも
幼さが残る約束
を噛んでキスをしよう
自然にめぐる胸に
黒ずむ瞳に
ぽたりと垂らす最後のねつと
夏のおわり


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やさしく眠る/急いで起きる
 ma-ya


やあ、モーニング
ぼくは冬にねむるクマ
瞼をとじたときは
おぼえていないんだ
だから
ふたたび起きるなんて
思いもしなかった
おかあさんは
魚をとりに行ったきり
かえってこないよ
もう二年も前の夏のことだったか


さむい、と感じはじめると
焦げ茶の毛は
意志とはかんけいなく
もわもわと膨らみ
肉ははじけるくらい
内からはみ出していく
冬とはなんと
おそろしいものか
みずからの爪の鋭さには
おどろきもしないというのに。
葉っぱをあつめてタワーにする
頬をあてると
じんわりあったまる
わあーん、と泣いたつもりだったのに
こだました声は
獣の遠吠えにしか聞こえなかった


たどたどしく揺らぐひかりの筋
ゆるゆると大木を巻く蔓
夢の中で
どこまでもつづく森を
歩いていた
ひととき、というのは
そういうことだったのだろう
安心して
よだれを垂らしていた


つー、ぽたっ


耳にしずくが落ちてきた
なまぬるい。
やあ、モーニング
ぼくは夜だ
やみくもに駆けていた道のない道を
思いだせない
まぼろしのような
でたらめの手品のような
いのちだった






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体温
 石畑由紀子

皮膚を、
へだてているのは同じではないか、その
頂へ
ゆっくりと
のぼりつめるさま
あるいは
交わってなにひとつ溶け合わない、交わりは
交わりのまま皮膚の
上にしんしんと塗布
されてゆくもの

二体の
皮膚のはざまを震わせ、私たちは
静かに
発熱する、ゆっくりと
のぼりつめる 《ゆっくりと、》
のぼりつめる 《アルコォルランプの喉が鳴る夜に、》
私たちは 《のぼりつめる、》



目覚めた朝
私たちの毛穴はしっかりと閉じられ
それぞれのあたらしい体温が
保たれる、しんしんと
震わせつづける
祈りのなかで




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ムジカ
 イシダユーリ




いちごのにおいがする冬
工場に吸い込まれていくひとたち
暗くなるまで逆上がりを練習するわたしを
迎えにくるしらないパパ
しらないグランパ
口笛を吹く
そのつぎは
スキップ


ハラショー!
コングラチュレイション!
ファビュラス!
ステキ!


テトラポッドみたいな彼を
わたしはとてもあいしてた
ウサギを抱くと
ウサギは彼の肌が硬いことに
驚いて震えた
みて
わらってる
わらってるのは
プロレスラー
みんな
いちごのにおいのする
冬に鳥肌をたてながら
わらってる


わたしの一部がふくらんだり
もとの大きさに戻ったりするうちは
わたしはテトラポッドみたいな彼を
とてもあいしていて
あいしつづけるとおもう
工場でミンチになる肉が
わたしたちを踊らせる
工場で揚げられる魚が
わたしたちの下まぶたに
まっくろいアイシャドウを塗らせる
工場でラップされる棒が
わたしたちの腰やお尻をシェイクさせる


トラ!トラ!トラ!
キツネ!ステキ!キツネ!
ステキ!
わたしたちのうえに
突然にみずあめが降る


わたしは
あたりまえみたいに
うごきをとめたい
そして
テトラポッドにシミをのこして
テトラポッドが
生きているにしろ
死んでいるにしろ
わたしの愛は
かわいいままでいる
ちんちんみたいに
わらいとばされる


ハラショー!
チュー!
バッカ!



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夜応録 U
 木立 悟




水と同じ手をかざし
流れを曲げる生霊が居り
声と光を抄いとり
からのはらわたをのぞきこむ


手のひら 手の甲
水車の回転
既に無いもの 失いものの影
ひとつ余分にはじまるつらなり


氷も雪も
砕かれて昇り
空の髪どめを外しては
海へ海へ海へ帰す


時刻を告げない
ずれた二つの汽笛が渡り
明かりのない建物の上
罠のように滲んでいる


火と吹雪 火と吹雪
雨の溝に沿い くりかえし
縦の音に触れては光り
流れの底の飾りを照らす


袖を通すまもなく水晶になり
衣は曇に曇を映す
無数の小さな水紋が
汽笛の切れはしを喰んでいる


道に人はなく
明かりのないまま明るくなり
手をもみほぐす手のうたのなか
熱はからのはらわたに消える


片目の上で陽に透けながら
小さなものが絵を描いている
片方のまばたきが伝える世界へ
小さな音を発しつづける































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pic/北城椿貴


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