月刊 未詳24

2009年3月第24号

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ふちどり
 木立 悟





闇のなかを 群れがすぎる
音は光り 見えなくなる
低い午後に
指ひとつ残る


二色の霧
陽の渦の橋
冷えた片目
手のひらに隠す


白い花の背
浴びては離れ
音ひとつふたつ
右胸の影


降りも昇りもしない階段
色は遠く近くしたたる
花のつく嘘
つたない嘘


合わせ鏡
むらさきの径
水のなかを
飛ぶものの声


花の上のかげろう
かげろうの上の空
空の上の空
空の底の花


風は風を鳴らして白く
光は光に影をおとす
音はずっとついてくる
午後から午後へ隠れわたる


ふり返りふり返り
花は花に遠去かる
音を 光のふちどりを
金に緑に追い越しながら

























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カミマチ
 ミゼット
逃げ出した心臓が
どこか遠くで動いている音がする

掴まらないように生きてみて

造幣局から変わらない振動

青いインクは売り切れだ

マッチ売りたちが
声を張り上げる

かって下さい
いりませんか
どこでも火がつきます
コートの影でも十分です
飼って下さい
入りませんか

絶え絶えの哀れみ

ブーツと素足の交錯する表通り

蛾のような
蝶のような
生まれ来るもの

光線が貫けば
娘の体から
夜が剥がれ落ちていく


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花離手
 木立 悟









はね橋が分かれ
呼吸が分かれる
緑は
重くなる


雨 行方 雨
行方 雨
窓のかたちの光が吹いて
窓のかたちの空に重なる


着いたはずのしずくは離れ
音に遅れる光を吸う
林の上の低い曇
ただ息だけを映す水


一瞬の影 一瞬の波
頭をもたげる水の蛇
けものみちに重なる血流
いのち持つ色 ひとり昇る色


化粧のなかのさみしい光
一歩一歩沈む道
鳥は舟をほどき終え
新たな時計の巣を作る


駆ける思いを断たれた息を
つなぐように差し入れられる手
溶けてはひらき むすび ひらき
忘れられてもかがやいてゆく


片目に傾く夜のそのまま
灰 狐 蜂 散形花序
声の洞の声の洞
到かぬと知りながら呼びつづける


冬の終わりに咲く冬へ
ついばむ鳥の陽がそそぐ
羽の跡また羽の跡
金より重い緑を吸う





















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断片
 サヨナラ
 

バイオリンが
長音を保つ時間だけ
僕と彼は飯を食い水を飲み
屋根のある場所で本を読んだりする

かなしみとは
うしなうことだろうか
雨の日も風の日も
伝えたいことがある

知らない名前の町にある
長い長い坂道の先端から
色とりどりのカラーボールが
無数に転がってくる
老夫婦が玄関に並んで
今日は学校の卒業式だという


君を救おうだなんて
これっぽっちも
思ってやしないのに
世界中にちらばる君へ
似合う言葉があるかもしれない

痺れた足はじきに治る
歩こう
慰めよりも軽い
薄い生地のスカートで


暫くは寒い冬へ
あけまして
おめでとうございます
頭がおかしいやつだと
笑われるかな
呆れるかな
どっちでもいいけど


爪の裏側に汚れた愛
一度きりなら輝いている
水道水に願いを託す
引き裂くように生まれた
結んだまま脱ぐぼろぼろの靴
拾った石が生きてると思えるかい
砂の雨で泣いてんだ彼ら

流星群
その日
大切な人が死んで
泣いた自分が
いてもよかった
いなくてもよかった
つらかったから
 
 
 


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空白
 腰越広茂


みてみたい
星の誕生する瞬間を
流動する熱い肌

なめらかですべやかな肌
それでも
笑えるしあわせ不仕合せ

今晩のおかずは何?
魚の視界
鳥の羽ばたき
貝の呼吸
ひとりのつぶやき

世間しらず
世間しらず
あともどりは不可能
私がいなくなった時
ひとつ星が生まれる



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ブランシュの丘
 望月ゆき


ねえ、ブランシュ、
あのとき
あなたが越えようとしていたものがなんだったか
今のわたしにはもう
それを知る手だてもないけれど
あなたはいつも わたしの
理解の範疇をこえて
日常のただしさから
逃げているようなひとだった



窓わくを青に塗ったのは
空とひと続きになりたい、と
あなたが言って
わたしが笑った あの
朝八時の景色を
ずっと再生しつづけたかったから
遠くの丘の上に見えた 白い校舎と
そこからかすかに届く
チャイムの音だけが
この部屋から消えてしまった
あなたより、すこしおくれて



何万回も夢をみて
何万回も泣いたけど
そのたびに
でたらめな歌を口ずさんでくれた あなたが
ほんとうは夜がきらいだったことを
わたしはちっとも
知らなかった
ねえ、ブランシュ、
あれからたくさんの歌をおぼえたから
今ならひと晩じゅう わたしが
となりで歌ってあげられるのに



ねえ、
わたしたちは いつも 
あまりにたくさんの意味をもちすぎる
曖昧なだけの言葉にふりまわされていて
点滅する、信号さえ
見失っていたよね
だけど それでもわたしは
しあわせだった
って言っても もう、
うそになるかもしれない



ねえ、ブランシュ、
日常は苦しすぎて
先のことなんて考えたことはなかったけど
今もまだ
テーブルの向かい側には
あなたの姿を見てしまう
すると
遠くの丘から かすかなチャイムが届き
あなたの吐くたばこのけむりが
壁づたいに 青い空へ
スポンジの模様で、消えていく




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pic/北城椿貴


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