月刊 未詳24

2009年5月第26号

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銀羽
 木立 悟








窓に映る窓 沈む窓
手首から土
幾度もひらく
白く小さな花火のはじまり


光なく光ある
言葉の淵の舞をすぎ
針を静かにつつむ手のひら


大きな銀の鳥
唱と踊りの輪
大きな大きな
飛べない鳥


さみしさの向こう
流れを見に来て
雪の上の日時計
一枚の旗の空


三十七度の水の稜線
夜の方へ夜の甲へ
影を落として拾わずに


土浴びをする羽が聞こえる
年老いた手がそれを見ている
音だけの赤子 羽の赤子
草の突起に生まれくる


  針は知りません
  ほらここが 釘のあとです
  赤黒いでしょう
  やがて 黒になるでしょう
  やがて 鬼になるでしょう


硝子の昼に落ちる夜
蜘蛛が繰る花
水糸をひき
獲物は茎へ茎へと逃れ


白い花火がつづきつづいて
腰から下は見えなくなり
夜はすっかり夜になり
呼ぶ声の色ににじみしたたる


銀の棘をついばむ鳥
銀の樹を抱き 銀になり
水たまりの景を飲みながら
飢えた蜘蛛のためにうたう

































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無題
 mei


此処までがわたしで
彼処からをあなたとすると
あなたは夢をみるだけ夢から離れると云うことになります
行進する群れの中から
あなたひとりだけが選ばれたと云うことなのでしょう
上へと還る雲たちは
何もいわないで
風に流されてしまって
永遠は無邪気に笑いながら最果てへと遊びにいってしまう


あなたは空よりも向こう
あなたはやがて星よりも遠くなってしまうのだとすれば
それは消えると云うことと何が違うのかを教えてください
朝のやってくる時間
あなたを離さないものは永遠を知らないものなのです
のびていくのは終わりを知っているものたちばかり
小さな火はより小さくなって
約束通り消えてしまう


「永遠は まぼろし」
「夢の続きのかくれんぼ」


わたしたちは始まりの朝から終わりに近づいていたのです
わたしは風に吹かれ
何処かへと飛んでいってしまえばいいと思っています


――あなたはそれすらも
やがてはきれいに忘れてしまうと知っていたのですか――


あなたは 消えてしまう
わたしは 忘れてしまう
最果てで微笑する永遠はたくさんの光をまとっている
あなたがいなくなって
わたしが歩けなくなった時
わたしたちの頭上にたくさん
たくさんの光が降ればいい


終わりのない 永遠みたいに


推敲09.05.30
絵:鹿島(過去絵)
画像
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 ミゼット


失って久しく
取り残されては探る腕

二月、三日月だった光

弟の眠る夜は長く
心音に冴えた目は
電燈にたかる虫を追う

せめて虫を払う事で
救われようとする

あらゆる夜より一等重く
両の瞼は閉ざされて

百合の匂いに咽ながら
隠れるように小さく歌う



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妙られない軽い
 鈴木妙
 

 春ひさごう。ひさぐ、とは売ることで、なんとなく気分がいいのでこっちを使っているんだけれど、そう思うようになったのは、なんだろう、ストーカーやらかした兄貴が砂にされたからか、あるとき机に絵具がぶちまけられていたからか(身内と同じ高校に通うもんじゃないし)、あるときまるごと髪を火であぶられたからなのか(やったのはかつての親友だったと思うし、かつての)、それともクラスメイトから反感を買わない程度に庇ってくれた僕にちょっと惚れぎみだったのに彼女がいたからなのか(あ、どうもすみませんでしたね)、いま考えてもわからない、たぶんどれもで、てかどうでもいいし、けっきょく、この、進学して上京、そのらんまんの春パワーをひさぎたい思い満開とかまじうける。たいがいの人はキャンパスライフの四年間にての青春設計に余念がないはず、青ってのは青二才の意味で春ってのは言うまでもなくて、つまり若気の至り、入学して一ヶ月あまりのこの時期に彼氏作ってか作らずしてか貞操かっさらわれていく女子の青春とわたくしの志す売春はそう変わらないし、と愚にも付かない独身生娘十九歳イカしたいイカれたいわたくし。
 ばあん、て、粗野っと先生が教科書を床に落とした音で、「ああごめんごめん」、こちらの手元にも一冊あらしゃいます『アンチオイディプス』、まあ、そんな、気持ちになっちゃいますよね、「私らが学生だった頃は、風紀が乱れていて、といいますか、授業なんかでなくても単位きてまして、ほんと自由な気風だったんですが、最近の本学校はちょっと変わってきてますよね」、ここでなにか五感を駆使したうまい表現をあてがいたいわたくしのからっぽな頭ではポスモダ、ポスコロ、というか、ポスポスポスポスばあん! ポスポスポスポスばあん! ってなリズムといっしょに春ひさぐだのうららだのらんまんだの様々な過去だのが一挙に去来していて、その循環が生み出したのは、なんだっけ、の中身が結局サブカルでした、よね。てかどうでもいいし。
 青春と売春はひどく変わっている、というか別物であるけれど、ちょうどわたくしとわたくしがさっき食しましたポテトサラダが違うように別物なのであって、いまごろは消化も終えて吸収の段階であるからにはじゃがいもに含まれるでんぷんや、レタスならびにトマトそしてニンジンのビタミン等は既にわたくしになっていますごとく、年老いた賢人にはできないことに若輩者が全力で打ち込むのが青春ならばわたくしが主体的に行おうとしている売春も含まれましょうし、この、主体的に、が、重要なのだし、わたくしの浅はかな経験から帰納しますけれど恋愛感情とは受動的に訪れるものであり、好きになった時点から出会いへと遡ってあれこれ原因を探しては正当化する、そこから規定した自己のタイプをふたたび現在の恋愛相手に当てはめ、あたかも基準に則する理想の異性が運命の悪戯により目の前に舞い降りたから自分も能動的に寄り添うたかのように振舞う、というのは、やはりモダンの欺瞞ではありますまいか、って言おうかどうか先生は迷っているのだが、『冗談』によればそれを凌駕する恩寵・一目惚れは存在する、といってルツィエになりたい気持ちなど、決して断じてないわけで、それは僕もわからないでもないよね、ておまえ誰だし。と言いたい、問いたい、独身生娘十九歳イカしたいイカれたいわたくし最強、イキたいかどうか事後も不明だがフリはしない。フリは。だっておまえしんどくね、し。
 かな?

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真上から
 木立 悟








水を巡るたび
水は遠くなる
粉と粒 途切れ途切れの
真昼の声


岩と鐘
傾きが集まる野
見つからない 草色の器
見つからない


わたし 電飾
惑い 召喚
手動の世界の
罠を回す


一は三に
またその逆に
痕跡もなく繰りかえし
咎められぬまま帰路を呑む


光をこぼすまいとして
手のひらをこぼしつづけている
水のなかですれちがう音符
互いの背をつぶやきあう泡


雨が霧を押し
霧が音を押す
ききわけのない少女が
軒先の高さの言葉を描く


杯から器へ あるいは逆へ
海と川のはじまりへ
上だけの祭 下だけの祭
流れを照らす


眠りと水 砂と群集
はざま冷やす泡
旧い木の上
ひとかたまりの昼


水 光 飛沫 青銅
雨 羽 扉 青銅
拒み あるいは阻む緑
つながりは溜まり やがてあふれる


肉 建築 打楽器 差異
見えないものに吊られ
通りを覆う
欠けるものから発する音


坂の蜥蜴
鏡の仮面から動かない
流れてゆく
おまえではないものが 流れてゆく


陰を延ばし 崖にとどまる
昼しか知らぬ集落
むらさき 借りものではない
真上から

























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夏の話
 吉田群青


空色のTシャツを着ているおんなのこの
胸のあたりから海鳴りが聞こえる
すれ違うと確かに海のにおいがした
それは
海草や海月や皮膚や毛や
その他いろんなものが混ざりこんで
遠い水平線から喧騒とともに押し寄せてくる
少しぬるまった海のにおいだった


夕立のときに
空を見ているのが好きだ
ばりんばりんと雷が鳴るたび空にひびが入って
簡単に世界が壊れそうな気がするから
やがて不吉な色の雲が去って
嘘みたいに晴れ上がった空をよく見ると
確かに夕立前よりも
ほんのすこうしずれている


暑がりの妹はあんまり汗をかきすぎて
いつかの夏に溶けてしまった
液状化した妹を冷凍庫に入れて
一晩冷やしてもとに戻したのはわたしだ
妹はあのときあんまり小さすぎたから
何も覚えていないと思うが
成長した妹と一緒にお風呂に入ったとき
やわらかいからだの隅っこのほうに
あの時わたしが気づかずに落とした
一本の髪の毛が混ざりこんでいるのを見た


夏の日
怠惰で退屈で何もすることがなくて
家族もみんな出かけていて
家に一人でいるときは
スプンを空に向けて少し削ると
透明なしゃりしゃりしたものが取れる
それは食べても埃の味しかしないような
あまりおいしいものではなかったから
スチール製の菓子箱に少しずつ溜めていた
雨の日に蓋をあけると
暗い部屋の中に夏の陽射しが満ちる
大切にしていたのだけど
或る日
小さい姪が駄々をこねるので
箱ごとあげてしまった

あれからいくらがんばっても
しゃりしゃりしたものは取れないし
たまに取れてもすぐに消えてしまう

大きくなった姪が遊びに来た時に
箱ごと持ってきてくれたことがあったのだけど
箱の中には陽射しなんてなくて
ただあの頃の姪の宝物
たとえばねりけしとかいろえんぴつの芯とか
瓶に入った紙石鹸とか
かたっぽだけの人形の靴が
雑然と入っているだけだった



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