月刊 未詳24

2009年10月第31号


2024年03月29日(金)10:47

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イカロスの虹
 木立 悟







空を鼓のように張り
鳥は屋根を踏み鳴らす
糖蜜の文字
光の名前


爪と半球
蛇行と水源
凍った川をすぎる雨
降る無音 降る無音


午後の光がゆっくり話す
涸れた池が 浮かび 沈む
遠い遠い さらに遠い灯
つらなりのむこうから昇るうた


崖 岬 境
乾きすぎて燃える原
次の季節まで
燃えつづける原


弦の水 指の色
ふたつの不可避が鳴らす歯車
そのままのそのままの
器に潜む輪の刃物


閉じた絵本 眠れぬ眠り
望みどおりに午後を延ばしても
ひらきはじめた夜は戻らず
閉じたまぶたをただ聴くばかり


誰もいない街の奥ほど
走りまわる花冠は多く
道はまぶしく
音は見えない


遠回りも近道も
似ていながらにくりかえす
たどりつけない崖を岬を
境を巡り 巡りつづける


花の重さ ちぎれた言葉
映し受け取り 計る手のひら
午後に途切れるすべての行方
堕ちる軌跡に鳴りわたる






















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 ミゼット

ためらい
のせる
ごせんふのうえ

しょうじょのにくは
ちちいろで

みどりのいんきを
さしてあげよう

すなにまみれても
よべるように

わるいかぜが
ねじきってしまった
しょうじょ

あかいべーるは
とばされて
うみへ

いんきがしみわたるまで
かみをなでて

よるのうちにみちるおと

このかいなから
ひがのぼるころ

あなたはまた
あるいていけるの


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環状線の雨猫
 mei


10月27日 曇


僕は数を数えるのをやめた


「僕はハルシオンになったみたいだ」と に言った
 は腕を縦に切ったカッターを机に置いて力を込めた
「おけちゅるゆりかりゅ」
 はもう何を言っているのか判らないと云った風情で壁に凭れ掛かり血の泡を噴いた
「ひゅー ふひゅー」
僕は白黒テレビを見下ろしながらハルシオンを三錠のんだ
「あたしたちのことをお母さんはどう思ってるのかな?」
 はだらしなく流れる腕の血を舐めながら言った
空気はひんやりとしていた
僕は手に残っていたハルシオンを全部飲んでしまった
「訊かなわからんよ」
僕が無表情で言うと は寝転がりながら 「ならお兄ちゃんが訊いてよ」と返してきた
「僕が?」
僕はそう言いながら の止まらない血の海を見た
これはどう扱われるのだろう
もし死にでもすれば


やめたやめた


僕はその日の夕食をハルシオン五錠ですませることにした


もう日暮れが迫ってきている


 は死んだような顔をして
明日という路線に転がっている
僕は誰もいない部屋で棒線の雨に打たれながら
またひとりけがれない少女を殺してしまいました
ぼんやり光る瞳が見えますか
あれは柚子の瞳です


涙が流されていく河の果てには
白いワンピースが飾ってる


 ――きこえますか 柚子
 ――きこえますか
 ――きこえますか


僕の殺したたくさんの子供たち
青い鳥のつつくアルファベット





神様なんていない






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終わる世界
 mei


誰が決めたのかも知れない終わりのない道に残る足跡がひとつ
少女は消えてゆく四季の気配だけを感じてゆけばいい
僕は人間であることを辞めたので世界とはもう関わりません
明日には片足を引きずり歩いて北へと向かおうと思っています


 どうして
 みんな
 北へ向かうのでしょう


きっと北では永遠がかくれんぼしているんだよと僕は口に出した
誰もいない公園に灯りがともる
青い鳥が空に流れて


消えた



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ほころぶ庭
 丘 光平


ほころびを
縫いあわせるたびに
指さきをながれてゆく秋は
ほとりなく
ことばを沈めるだろう

 沸きあがる残照を
掬いとろうとして
抜けない針のように
いちども広げなかった手のひら

 にじむ痛みの波紋を
たくわえ切れない薔薇のつぼみは
ひとしれず 
香り立つだろう




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ひとつ さえずり
 木立 悟




虹の渦がひとつ
遠くと近く
ふたつの雨を横切った
誰もいない道の終わりに


とめどないものがとまるとき
夜の鴉が一羽増すとき
心は天地の境をひらき
冬のはじまりをのぞきこむ


冬が冬に手わたすもの
はざまに立つ子の頬は冷え
空を映す 
眼を映す
空を映した眼を映す


水の上に水で描く
残るはずのない絵が残りつづけて
底へ底へ底へ重なり
波や過ぎる生きものに触れ
天のように変わりつづける


廃屋に刺さる
藍の横顔
さえずりが置く闇
枝をこぼれ
土を染める


遊べ 遊べ
異なれ 変われ
ぽつりと華やぐ五のなかの四
おまえが呑んだ地の数の空
おまえが吹いた空かける空


小さな子らのうたが飛び
震えるひとつをひとつがたどる
羽音 羽音
水を抄い 水を燃し
手のひらに遊ぶふたつの季節


くずれそうな光を歩む
幾すじもつづくひとりの足跡
どこにもつながらずたどりつかない
いびつなつらなりのつらなりが
水底の天を変えてゆく






























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