月刊 未詳24

2010年1月第34号


2024年04月25日(木)15:03


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椿の庭
 丘 光平



幼いころ
ひとり仰ぎみた星の名を
思い出せないでいる 夜が
焼け落ちてゆくように

張り裂けた空の
傷をしずかに洗う朝日の行方
追いかけていたあなたの行方

 待ちわびた椿の庭で
ひび割れてゆく冬の裾野で
火のように夕暮れ
思い出せないでいる 

夜が
雪ふるように 癒えない熱が
雪ふるように




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分裂
 サヨナラ
 
 
張り詰めた君と話すような
鮮やかな雨が降る
あられもない姿で
衝立を跨いだ足
けんけんぱ


ほがらかな日の合図を
点滅させるか
ずっと
照らし続けるか
悩んでる
ぼくは元気


限りなく美しい雨を見るような
衝立の寄り添う姿
幸せを祈るよ
デパートの屋上
桃色の風船萎んでく


ぼやけた指先は冬
海と空に分かれて行こう
金具はぜんぶ零れ落ちて
いつまでも祈る
遙か夜明けの涯て辿りつくころ


誰もいない席に君を見て
花を束ねる姿なら
うまく言える
ほがらかな日がほしい
数ある息の中を
ひとつだけ持つ
幸せを祈るよ
火葬でよかった
やっと飛べる
いつまでも祈る
 
 
 


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ノート(わだちうた)
 木立 悟







左肩を左壁に押しつけて
くたばってしまえ
打ち寄せて来いと
うたいつづけているのだ


左肩の血で壁に絵を
描いているのだ
猫のように餅のように
鳴いているのだ


わたしには茶の薄墨
呑むための呑むための茶の薄墨なのだ
ひらけば花の火
夜に課す線


分かれては在り
5597日間
雨の音は刺す
雨の音は刺す


口々に
口々になおけだものよ
つながりを胸に引きちぎり
腹に結びゆくけだものよ


蒼よ氷よ氷よ蒼よ
冬にひとこと言いたいのなら
冬の底まで降り来るがいい
そのままの痛みを知るがいい


水に折られる骨の音ひびき
水のまま水を抜け水底に着き
何も無く何も無くすべて在り
空を空に削りつづける


わたしはわたしを赦さない
だからあなたはあなたで知らない
口も鼻も勝手に話す
だから勝手にうたってもいい


おまえよおまえ
つるりとおまえ
かかと肛門 はざまはざま
受けては応え 闇は染み入る


崩波 崩波 
幽霊の地図
おまえが空けた
右側の熱


水底に積もるものを見ている
音をたてる
光とけるたび
音をたてる


千年の洞が
千年の洞を欠くときの
岩の音を聴くがいい
名の無いものの目を射るがいい


そんなにも花がほしいのか
空をつらぬく火が見えないか
雪をかきあつめかきあつめ
鳥の居場所がないほどに積み


崩れても穢れても
通り 歩むものはある
少しだけ腹を夜へ持ち上げ
未だ来ぬものへ未だ来ぬものを晒しつづける


























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無花果
 巫月珈楠


そのとき

ぐしゃりと
私の胸で音を立てて激しく潰れた

差し込まれたのは誰の手だったのだろう
そして潰れたものは

ひとしきり噴き出し
頬や肩や腿はしとど浴びて
思いがけず舌を薄甘く濡らしたそれは
清水に晒された果実の蜜に似て

皮膜めいた抜け殻が
くしゃくしゃになって転がっている

それを
捨てることも
しまうことも
触れることもできず
眼を反らせないでいた

みるみるうちに干からびるのだろう

せめて燃やしてしまおうか
灰や煙になって舞い上がり
空へ溶けてゆくのを見送って

私の舌を濡らしたように薄甘く広がってゆくだろう

存在の空白

たとえば
痛まない傷みというものももう知っているから
空白が宿す仄甘さをこの手で握り潰す




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遺書
 腰越広茂

空の青さ
空の青さへ
手をふるの
今日も本当に有り難う
明かりがほそい手をさしのべてさそう
白い蛾の真夜中
死の淵を継ぐ者
ついに人知れず
種子を忘れることのない果実は
遠望する墓標をともし
つみとられることもなく
くらい静脈を
すすむ血流を
さかのぼる舟に乗ったうつろな亡霊を
照らし 宙へと微笑をうかべて、
私は
手をふりつづける
遠ざかる故に



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無意識化のノート、1ページ目
 ホロウ



いま香草の暴力的な繁殖を裏庭で見つけたフレンチのシェフみたいに俺は混乱していて思考の着地点といったものが脳内のどこにも見当たらない。年中子供を生んでいる好きものの家族の子供部屋みたいに際限なく散乱して、ところどころ割れたり曲がったり、よだれでべとべとになったりしている。思考を構築することと、頭を空っぽにすることは、まるで違うようでとてもよく似ている。頭の使い方をよく理解していないとどちらにも転ぶことは出来ないという点で。ところが、それは意識的に行われても仕方のないことで、それはなぜかというと意識下にあるものから何かを拾い上げることなんて浅瀬で買いを拾うのとたいして違いはないからだ。それはくまで無意識的に行われなければならないが、しかし無作為に行われてもどこにも辿りつかない。そこには確実に答えにたどりつくためのある種の法則があるが、なにぶん無意識化で行われることだけにそのことについてはっきりと説明することは出来ない。それは後学的な本能に近い感覚だ。後学的な本能?デジタル家電に潜む幽霊みたいなシチュエーションだが、そんなものあるのかないのかということについて話すことが真意ではない。そうしたものの在り方によく似ていると言えば判ってもらえるだろうか?後学的な本能、俺が話しているものはまさしくそういった感覚についてのことなのだ。まあ人間の細胞は周期的にすべて入れ替わっているというし、そういった意味では後学的に身につく本能というものが存在したってちっとも構いはしないじゃないか?後学的な本能、そう、そういうもの。本能そのものの動きについて理解は出来ないけれど、そこに本能があるということについては何となく理解出来るだろう?理解出来る、というか、感じることが出来るだろう?まあ、実際の話、生態的に不能な連中がこのところ次第に増えてはいるけれど…だけど面白いな、不通にせよ直通にせよ、そこには必ず無自覚か否かという部分が大きく関係しているわけだ…無自覚の無意識、そんなものはいったいどこへ流れていくんだろうね、ええ?そんなものはきっとこの世で最も暗くさびしい墓場のようなところへ流れついてしまうんじゃないか、どこにも出ていくことも出来ない墓場さ、それは果てしない底をもった沼のようなものだ、流れ着いて、そしてどこへも流れ出ていかない、輪廻なんかない、無自覚なままそこにきてしまったものはもう、廃棄物程度の価値しかない。俺はこうして無意識的に生まれてくるものに感覚を集中させながら、そんな墓場に流れていくことの怖さについて考える。もしも、もしもだ、そんな底なしの沼に足を踏み入れてから自覚してしまったりしたら…どうなるんだろう?それはとんでもない恐怖だ、完璧に改心してしまった終身刑の衆人みたいなものだ。今ならこんなことが出来る、こんな風に物事を進めていくことが出来る、そうか、あの時こんなことで間違えていたんだ、あの時こんなふうにすればすべては上手く行ったんだ…!けれどもそいつの周りには頑丈な鉄格子があり、足かせから伸びた鎖の先には鉄球がごろりと転がっている。それはそいつが死ぬまで決して取り外されることはない…死とは自由か?なあ、死とは自由なのか?そこには二通りの考え方がある。何が漠然とした救い…来世、輪廻といったようなもの。そして、漠然とした絶望、無、すなわち無ということだ。なにもない、死ねば何もないという感覚だ。と書く人はこの二つに決めたがる、だけど…そんなことをどちらかに設定することがそんなに大事なことなのか?―俺に言わせりゃそんなことは死んでから考えりゃいい―死んでから何事かを考える必要があればの話だけれど…死んでから何にも考える必要がないのなら、生きてるときに考える必要だってない、そういうもんだろう。そんなことについて考えている間にも、時間はどんどん流れていくんだぜ。では、次はそこらへんのことについて考えてみようか、有意義な考え、無意味な考え、考えとはそもそも何だ?それは有意義でなければ、また、無意味でなければいけないものなのか?そして、有意義であればそれには考える価値があるのか?無意味であるならそこには考える価値はないのか?俺は深呼吸をひとつする。そんなことについて考えること自体なんの意味もないようなことに思える。むしろその意義云々は先送りにして、いま頭をとらえていることについてとことん考え抜いてみるべきなんじゃないかって。それが整理されていようと、未整理のとっちらかった状態であろうと。納得がいくまで考えてみるべきなんじゃないかと思うんだ、意識的にだろうと無意識的にであろうと…まあ、無意識的なものなんて意識下でどんなことを考えてようが手前勝手に流れていくとしたもんだけどさ。ボーン・マシーン、カーペットの上は俺の思考でいっぱいだ、さあこいつをどう片付ける…そこそこやる気になってきたところで、そんな気分に水をさすように空は突然曇り始めた、せっかく綺麗に灯りを入れるためにカーテンを少し広めに開けたところだったのに!太陽が雲に隠れると途端に底冷えがし始める、そんな風にシンプルに物事が運ぶことは俺の思考の中ではあまりない…この文章の冒頭に登場したフレンチのシェフは、香草の香りを嗅ぎ過ぎて精神に異常きたしたようだ…俺は出来ればそんなルートをたどりたくはない、だけどそのためにはどんな手を講じればいいんだろうな?無自覚的に生きることだけは避けなければならない。この世で最も陰鬱な沼はそんな奴らを見つけると、流れなんてまるで存在しない湖面で、どぷんと波を立てたりするんだぜ…。




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