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月刊 未詳24

2010年4月第37号


2024年04月26日(金)01:21


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冬と冬 U
 木立 悟







波を追う波
何も無い青
影は淡く
砂を蝕して


艶の失い赤
光なぞる黄
高い葉が冷え
雨になる


雫の層が
睦み合う
空は順に
姿を捨てる


風を吸う夜
揺り戻す景
ちぎり埋める ちぎり埋める
流れに剥がれた灯の跡を


水たまりの空をかぶり
しんとした夜のざわめきの
ひとつひとつを越えてゆく
岩の光 誰も居ぬ道


火をくぐり
まぶしくさみしいにおい
現われては消える
まばたきの朝


ある日
生まれ直した
陽がこぼれ
花になるのを見ていた


光の赤子 窓を去る川
ひとつを越えるひとつにほどかれ
そのどちらともつかぬ双つのもの
雪のみなもとへみなもとへ歩いてゆく




























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日没
 腰越広茂

虫の音を
聴く
深い夜へ
星が瞬いているのも知らず
あのひとは
ねむっているのか
荒野が明けることは なく
しわぶく空よ ここに直れ。

わたしは 暗闇に透ける
深淵のねむる火
風化する
星の反射する光よりも冷たい化石を
黙読する
ひと知れずこちこちと発する

しずしずとさそわれる夜に霧の昇る河が流れ
星の霊園を墓守が見回る
亡霊は沈黙のかわりに星の光の
ゆうげをいただく
青い空は河に飛びこんでとけてしまった
わたしもそろそろ参ろうか
なにひとつもたずに

見果てぬ水平線へ銀色の鐘が冴え響く
遠くで。ここにねむる声
あてさき不明の約束を大輪がしぼみ
結実したのち
食卓にのぼる
無表情な果物ナイフはぎりぎりと
かわいた耳を伝導する
いつもひとりで
かたむいてゆく

青ざめた境界に
柱時計の音のする
しずまりかえった家の
夜明けはまだか
それっきり



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赤い瓜
 ホロウ



膝の皿を皮ごと穿孔して
瓜の種をひとつ植えた
わたしはもう歩くつもりがなかったから
そこから綺麗な瓜が
生えてくるといいなと
わたしの身体には土がないので
わたしの身体は太陽にあたらないので
ここから伸びてくる茎は筋肉のような色をしている
水の代わりに血を吸い上げるから
わたしはたくさん食事を取らなければならない
おかあさん、ご飯頂戴
瓜が出来るまでに
どのくらいの時間が必要なのかわたしは知らない
だけど
時間はどうせ腐るほどあるのだから
静かに膝を立てて座っていればいいのだ
ベッドの上に
やわらかな
ベッドの上に
カレンダーをすべて捨ててしまったので
いまが何月の何日で
もしくはどんな記念日だったりするのか
わたしにはまるでわからない
だけど
こないだから妙に暖かくて
窓の下から聞こえる子供たちの声が妙に騒々しいから
きっと春になって
新学年で新学期が
始まったのだ、それはもうドラマティックに
桜まい散る空の下で
わたしを待ってた人はいなかった
少なくともわたしには
誰もいないみたいに見えた
そこに見えるものがすべてなら
わたしにはそれが結論でもよかった
わたしは誰かとわかりあうことなど
すこしも望んじゃいなかったから
集団の論理、集団の論理
集団の論理がわたしのこころを殺す
わたしは殺される前に
彼らにまじわるという選択肢を捨てる
ハッハー、ざまあみろ
わたしはあなた方と
おなじ地平になど立たない
わたしは膝で瓜を育みます
赤い瓜はどんな味がするでしょう
そこからは
きっとわたしの肉体の味がするでしょう
美味しいですか
美味しいでしょうか?
こばんで生まれる食物の味は
あなたにだってきっと本当はわかるはずです
それはある意味で手に取ることの出来るこころなのですから
おかあさん、ご飯頂戴
わたしにはたくさんの血が必要なんだから





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あをいそらのもと
 腰越広茂

お風呂につかってとけない私がいる
何はともあれ
すべては静止するまで
花もここに咲いている
ひっそりと

いつだったか
この日が来るのを知っていたような気がする
まぼろしだったか
湯気はのぼる
いまこの時
死をむかえる者も
宙をつかむか

どこかで風が 鳴っている
果して、そうか
落下する雨の重さ
雨だれが 呼ぶ
うちにひそみ

解き放てよ
この浴槽にみちている水の歴史を
しずかに聴く
永き日の夕刻
雨上りに

そなえつけの鏡に私はいない
浴室を出てふとおもいおこす
生あるものすべていずれ死ぬ
人を身につける
おかしいね

何も
かわらない
時はすぎゆくのみ
この役割を
果たすまで。
そらはあをすぎる



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人間政府
 クマクマ
 

   1


ろばの肉は、骨をくるんで、
皮にくるまれていた。
もえがらにはならなかった。
一つ、星のおこるたび、
グレアに紙をかき消されるたび、
皮をまとって、骨にまとわされて、
その火を後ろに投げたから。


切りそろえた紙を透かして、
わたしは大地の続きを見ている。
立って、目を開いている限り、
陰はわたしの背にある。
ライ麦の群がりの向こうまで、
見たかったものが、今、見えるもので、
上でも下でもない。


ろばは、
自身の肉を重いとは思わなかったから、
こんなに甘く、みずみずしい。
とり分けたその善意を食べ続けて、
言葉が生まれた。
一つ、言葉をつけ足して、
酸化しないように、書いた紙を束ねていく。


   2


紙に書かれた事実の通り、
見るものは名のって並んでいる。
そこまでも、そこからも、
一つ、文を作っている。
たどれば、道に迷わない。
雪の深い日も、霧の濃い夜も、
ろばの歩いた跡を持たない。


あの棒は、長く、硬く、
ゆらぐものを支えている。
にぎれなくとも、
支えられているものの重さに、棒を見て、
棒に、支えさせているものの重さを見る。
わたしは快さだから、
見ていることを全うしなければならない。


それは、わたしの形を通して、歌になる。
紙はふるえて、街娼の、墓石の前に、
言葉を結んで、開いていく。
ろばにはない、心臓の速さで。
歌われることの、くがねのきらめきが、
一つ、人間にあらしめて、
ここは、すでに世である。




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