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月刊 未詳24

2011年1月・2月合併第46号


04月19日(金)04:23


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夜と径
 木立 悟




暗がりが暗がりのなかを
剥がれながら落ちてゆく
滴が滴でなくなるまで
見つめ見つめ 見つめられてゆく


見えるものは そこにないもの
赤を隠した 白の毛糸玉
腕に咲く花 腕を離れ
見えないままの
空へ昇る


柱と柱のあいだに
穂と光は落ちて
波を分けて
起ちつづけている


左目の数だけ
弦は痛む
月を追って
影は馳せる
音なき踵 まばたきたち


祝ってもらえましたか
いいえ何も
見えない粒のつらなりに
差し入れられる巨きな指
ぐさりぐさりと夜を奏でる


水平線を
ひとつの帆が覆い
すぐに消える
海から起ち上がる建物
軋み
浜辺
まばらな人影


はじめの光を見た鳥と
はじめの雨を見た鳥の声
出会うことなく
星を巡る


器と器
虚ろと虚ろをつなぐ径
すれちがうもののない ひとつの径
はたりと痛み
たましいを踏む































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2011/2/17
 吉田群青


テーブルの上に置いてある
覚えのない手紙を焼き捨ててから
ごみを出しに階下へゆく
ぬるい雨が降っている
わざと傘をささずに出て
優しく突き刺される感触をあじわう
路傍の濡れた土からは
いつか誰かが遠い日に埋めたもの
花の芽や手や髪の毛やねこのしっぽなどが
だんだんと萌してきているから
春がもうそこに来ているとわかる



金魚店で金魚の餌を買う
いつからだか忘れたが
わたしの心臓の辺りは
硝子のように透け
向こう側を
金魚が泳ぐようになってしまった
誰のせいでもないのだろう
店を出てすぐしゃがみこみ
授乳するように胸をひらく
最初
可憐な金魚だと思っていたものは
このごろ急に大きくなり
醜い深海魚の姿に似てきた
進化しているのか退化しているのか分からない
これ以上おおきくならないでくれよ
餌をやりながら言うと
わたしそっくりの声で
おまえが望んだんじゃないか
と笑う
胸の奥が泡立つのを感じる
否定できないから
悲しい



君の体を蛍光灯の下で
すみずみまで眺め
細部のかたちまで憶えようと努める
何かの拍子に君がばらばらになってしまっても
すぐに組み立て直してやれるように
或いは君の存在が
爪いちまい
指いっぽん
耳ひとつしか
残らなくても
必ず君だと気づけるように


深夜
だれ宛でもない手紙を書き
四つ折りにしてテーブルの上に置く
このごろのわたしは
眠ると何もかも忘れてしまうから
どうか覚えていますようにと
祈るようにそれだけ念じて目を閉じる
瞼の裏に浮かぶ模様は鮮やかだ
見惚れているうちに眠りがやってきて
おやすみ、も言い終わらないうちに
わたしはあっさり沈んでしまう

すとん

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生まれたての詩人たちへ
 ホロウ


鈍器で殴打し続けて骨に空く孔のような
錆びた鋸で引き続けて引きちぎれながら切断された腕か脚の断面のような
嘔吐されたあと風に冷え道に汚れて黒く濁る動脈の血液のような
脳味噌は日常の中で音の無い瞬間を探し続けている
君に送った手紙はカラフルでポップだけれど一番鮮やかな赤色には俺の血が混じっている
文章は丁寧だけれど心魂に浸すと毒を放つ
それは君の体内のいくつかを鮮やかにしいくつかを曇らせる
その現象によって君の体内にはいくつかの変化が訪れるかもしれない
飲み込んでしまわなければたいていのことは理解なんか出来ないものだ
仕掛針のような旋律を描きたい、君がそれをどう思おうと
それは必ず深みに突き刺さるのだ、そうして
メッカを目指す信者のように君の心魂にたどりつくのだ
君の心臓の鼓動に合わせて、君の筋肉の振動に合わせて
いつか誰かがこの俺の耳元でそんなことを囁いてくれた
俺はそれを動脈に誘導して心臓に届けた
心臓でそれは形を変え…少なくとももう二度と流れに乗ることはないようなものに
そのまま俺の心室に留まった、全身で碇となる断固たる船のように
それは俺にあらゆるものが混然一体となっていることを教えた
どれかひとつに限定して語れるものなどこの世にはないのだと
つかみどころのない状態こそが一番正直な状態なのだと、正直な状態なのだとそう語った
不必要な道など定めようとするなと
それがある場所をそのまま歩けと
言葉など所詮は大いなる現象の一部分でしかないのだと
それは現象に最も近い嘘のようなものでしかないのだと
だから語るべきことを決めてから語り始めるような真似だけはするなと…
「それはお前のステイタスになるかもしれない、だけどお前の真実には決してなりはしない」
そんな風に話しかけていた
言葉になど何も出来はしない、だからこそ言葉を使うのだと
それは決して徒労に終わることはないのだと
だからこそ言葉は果てしないところまで弾け飛ぼうとするのだと
身体のなかを走っている血管をひとつの直線的なパイプにして
その先端から吐き出される血液の飛距離なのだと
あるがままのなにかを語ろうとするなら魂を射出するための銃口にならなければならない
少しでも曲がると暴発してしまうのだ
ぶるぶると放たれるのを待っている言語
弾丸と呼んでしまうにはナイーブに過ぎて…
それは直情的だとか直線的ということではない
まっすぐな軌跡にはまっすぐなことしか語ることは出来ない
撃ち出された魂は勝手に軌道を変えてゆくから、考えるのは撃ち出すまでのことだけでいい
グリップの持ち方次第で射出速度だって変化する
ゆっくりと撃ちこんでゆっくりと効いてくる、そんな弾だってある
あらゆる激情が口径の広さを表現するわけじゃない
そう、それは針のように動脈にたどりつく場合だってあるのだ
ただ叫ぶだけを考えるなよ、生まれたての詩人ども
音も立てず石を置くように熱を放つ



そんな叫びだって
遠くまで届くのだ




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道の終わり
 木立 悟






岩に囲まれた
岩が叫ぶ
陽は圧され
少し 撓む


塔よりわずかに高いところに
見えないものの軌跡が残り
何処よりも早く暮れてゆく
音けす音を撒きながら


深海の針

ひとつの灯
ふるえとみどり


冬は降り終え
別の冬が来る
さまざまな鱗
外へ流れる


白に満ちて
白は泳ぐ
白のまばたき
こぼす子ども


見つめていたものが目を閉じ
空は自由になった
まぶしくさみしい
治らない傷となった


水と声と
血と風のふちどり
うすく こがねの
真上をゆく


崖の道の終わり
陽は去る
鳥の冠 眠りの冠
別の冬の子へ降りそそぐ
























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深海魚
 腰越広茂


やかん
電車内の実話で
ひるま
紫外線をあびていた座席が
まばら なまま
すいてはうまっていた

あいているせきへ
すわれるというのに
ひとり車輛の先頭にたち
いきづかいもなく
ゆられてゆく
ひとは・・・・・・

車窓の硝子をとおした
流景の電燈を
無常なはとばで
羽根ペンをもち

 彎曲線をなぞっている


そのめにうつる点滅し
ぼやける秒針を
酸素不足な水晶体で 像
をむすべる
 かと
せまりつづける水平線に
 うかぶ空間へ

いちべつをくれているのは
 みずからのひかりで
ふかぁく あめいろをはなちながら
へいこうしていく
鋼鉄のレール


ひとがすけたカオ

鏡像へと焦点をうちこむと
無情なる
その視線が街闇に点在する
あかりを裏がえしに
しれっとみつめていた










注:(ふりがな)流景(るけい)、彎曲線(わんきょくせん)、街闇(がいあん)




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