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月刊 未詳24

2011年3月第47号


04月24日(水)04:48


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ひとつ わたし
 木立 悟





窓から窓へ
夜は動く
夜に夜を重ね
またたく


冬の水の上
羽の羽やまず
午後の双つ穴
昇るはばたき


わたしはわたしに到かない
水彩のまわり道
夕べは早く
夜は曲がり角


冷えた波が
冷えた波に降る
砂を前に
砂を見つめる


行方は散り
わたしになる
霧の熱
月しかない夜


光はまぶたの上に消え
ふたたび網の目に巡る
あふれさせるものはない
ただそれはあふれでる


羽を捨て降り立ち
羽を生み飛び立つ
羽は土に降る
羽は 土に鳴る


ひとつをひとつ
ふたつをふたつに書きとめる朝
内なる不可視の絶え間なき
わたしをわたしに寄せるいとなみ






















 

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Plusquamperfectum-Manuscriptum
 葉月二兎


君が不意に込み上げた泡から獣の装飾は小刻みに揺れて

黒い非常線に浮かぶの、よ
 君の黄色いざらめきよ

水をすうために生まれてきた息子
 は、

隔たりをかきわける? 蜘蛛の形
 に、似てしまった恋人たち

僕らの使い分ける___(と、性別を聴いていて、)
そこからは角膜を削られる稲穂と同じ、
燃えて崩れて激しくていきました花と顔
 までも、触れられぬ雪と手をあげました

「ここがけっこう苦しいんだ。」

爪もあった 野原に突き刺します
リジウムの千切れた尻尾を奏でている
拾い上げたときだけを

ざらつく
格子戸からむき出しにする

眼の見えない巨獣___(時計、枢軸は時を刻まない)

断絶の中庭に抜けない針
 蛾が、四角い色を巻きつけていく
 蜘蛛の
糸でまねいた 遠出して
 マーガレットしか
知らなかったあたしの、
 水をすう ために生まれてきた子どもたち

(
革命の失われている記号。)

異なる音 縁の摩擦から逃れようとする
泊まっているし構えてした彼ら
布の張られた鉄杭に浮かぶのに
産まれたままの汚染されていました髪と蛍 あなた方の返却の晩

トロイに埋もれた火星の爆散したのは何故かしら、
ターンテーブルが雪崩に生え換わって

構わないで、スローモーションでイって

僕は君の黄色い体つきを確かめようとした

浮力を載せるように、シ
巨獸の爪を数えた
君の組織体

黒曜石の楽曲名、新宿は、音
 羽音
歌舞伎の女王蟻
に、ひっくるまれて飲み
 込まれたのは衛星状態の観念

嗚咽のナカの汚ならしい子、の

 構わなかったノ、よ、あ
の木立には黄昏が舞い降りてきました。
ゼロ戦の迫撃砲が聞こえない

(夏の飛沫に稲穂は七色になる)

君のマンション、くるまれて浄水槽は、
 獣の端は跨がって残さなかったのです。撃退された視線から
あったノ、わ。

射水から割れたらフレームが止まりかけておりました
 ふえるし、
 とびきれるし、
  踏み出せるのだし、しのげるし
 シのみえざる
君といっしょにいたいし、
 君のないし、は、
狂わないし、

シのみえざるしの音
が、シテって君の滞留した死骸がつまれる
のは獣

愛された
大理石の原子のすり抜ける白亜の沈黙でさえ
も、僕らの絶滅した愛は駆け巡ろう

弦子の鼓動する指先の冷たさまでのタイムラグを奏でている

君のハート


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マリー
 ホロウ



膿んだ傷のある腕を
長袖の服で隠して
調子の外れたハミングは
いつでも古いシャンソンをたどって
彼女はマリーと呼ばれていた
マリアンヌみたいなコートを
いつも着ているせいだった
「法廷」という名の
街の外れの
薄汚れたビルの地下にある
バーに行けばだいたい会えた
雨の日以外は
そこに行けば飲んでいた
パティ・スミスの
静かな曲だけをリクエストして
時間をかけて何杯かを飲んでいた
夕暮れ時から
日付が変わるあたりまで
彼女はその店の
影みたいにそこに居た
飲むカネと元気がある
週末は
俺はその店に出向き
彼女と並んで飲んだ
パティ・スミスの
静かな曲だけを
何度も聞きながら
どんなきっかけで
そうなったのか
いまでは
思い出せない



ショートボブの
栗色の髪の毛は荒く
憤りが具現化したように
あちこちが跳ねていた
「なおらないから」と
いつも言い訳していたけど
なおそうと思ったことがあったのかすら
俺には
疑問だった
睫毛は長く
まるでいつでも目の中を隠そうとしてるみたいだった
鼻は高く
突き刺すようで
切り傷のようなくちびるで
針金を引っ掛けたみたいに右側だけで笑う癖があった
首はいつも何かで隠れていた
年に一度か二度
ひどく酔っ払う日があって
ストゥールから落ちないように肩を抱えていると
洒落た蝋燭みたいな匂いがした
それは彼女のすべてから漂っていた



自分がどこかの店の軒先に捨てられた日のことを
覚えていると言って何度か話した
今の自分をいくぶん太らせたような若い女が
どうなろうともかまわないという調子で
自分を入れた籠をぽいと放り投げて
猫の死体を見るみたいな一瞥をくれて去って行ったって
すごく寒い日だったって
雨か雪か判らないようなものが
肺病患者の咳みたいにぽつぽつと降っていたって
施設のひとたちはわたしがどうしてそこに来たのか話してはくれなかったんだけど
あれは多分本当のことだと思う
だって一度も否定はされなかったもの
みんな困ったように笑うばかりで…
そう言って舐めるように飲んでは
くちびるの右端で笑った
前時代的なラブ・ホテルの照明みたいな
「法廷」の明かりの中で見るそんな笑いは
純粋過ぎて難儀している魔女のように
俺には
見えたんだ



彼女がどこから来て
どこへ帰って行くのか
誰にも
判らなかった
というより
彼女について判っていることはなにもなかった
ただ
長いこと
「法廷」で飲んでいる
誰に聞いてもそれ以上のことは判らなかった
そして誰もそれ以上知りたいとは思わなかった
彼女は
そんな女だった



あれはいつ頃だったろう
そんなふうにして数年が
過ぎたころだったように思う
小雨が降ったり止んだりする
寒くて
暗い夜だった
彼女はいつもより疲れていて
いつもより悪い笑い方をした
自嘲的になったかと思えば
なにもかもを保ったまま気絶するみたいに
突然止まってしまったりした
そしていつもより早く飲んだ
それまでのどの日とも違っていた
レコードが何に変わっても気にもとめなかった
そして糸が切れるみたいにカウンターに突っ伏した
気持ちが悪いから外へ連れて行って
俺は彼女を背負って
「法廷」の外へ連れ出した
潰れたカフェの裏手の
行き止まりになっている路地の陰で
彼女の中に巣食ってるものをなにもかも吐かせた
しばらくの間痙攣して
それから彼女は
まるでそんなことはひとつもなかったみたいに
海に連れてけと言いだした
俺はタクシーを拾って
海に行ってくれと行った
漫画のチンピラみたいな運転手が
にやにや笑いながら判りましたと言った



タクシーが海に着き
俺は金を払った
彼女はふらふらと波打際を目指した
俺は慌ててあとを追った
彼女は波打際で
最後の嘔吐をした



海を見たのは初めてだと
寄り添って座りながら彼女は言った
海なんてものが
ほんとにあるとは思わなかったと



ねえ、下手なロックンロールがよく歌うじゃない、「あたりはくらやみで何も見えない」って…
わたしはあれが大嫌いなのよ、くらやみで何も見えない、なんて、どうしてそんなことが言えるんだろう?何も見えてなくなんかない、くらやみがはっきり見えているのに…



そうして彼女は
泣声を上げ始めた
はじめは子供のように
それから悲鳴のように
それから小雨が降り始めた
俺は自分のジャケットを彼女にかけて
木工細工みたいな感触の肩を抱いてやった
彼女は俺のデニムの襟を命綱のように掴んで
悲鳴のように長く泣き続けた
俺は黙って彼女の肩を抱いて
彼女が泣きやむまで夜の海を見ていた
波は時々爪先まで届いて
その温度はしばらく忘れられなかった



最後に彼女はひどくむせ込んで
それから照れたように笑った
初めて見るまともな笑い方だった
それから立ち上がり身体中の砂をはらい
俺を急かして帰ろうと言った
帰りのタクシーを捕まえる金はなかったので
明方の道路を二人でのんびりと歩いて帰った
ねえ、遠足みたいねと彼女は言った
明るい光のもとで見る彼女は
驚くほどに子供みたいだった
「法廷」に戻ったころには俺たちはくたくたで
当然店はクローズした後で
そこで俺たちはおやすみと言って別れた



俺はそれから風邪をひいて
十日ばかり寝込んだ
起き上ったころには
季節が少し変わっていた
俺は着替えて散歩に出た
堤防沿いを歩いていると
そのうち川はふたつに分かれた
小さな支流の方を選んで
半時間ばかり歩くと
景色が田舎めいて
閉じられた水門に辿りついた
そのあたりには
水はほとんどなかった
ひと休みしようと腰を下ろそうとして
背の高い雑草の中に
見覚えのあるコートが目にとまった



水門に辿りつこうとして
力尽きたみたいに
彼女はうつ伏せていて
はじめは
眠っているのだと思ったが
どうもそうではなかった
微かに見える指の先や
頬は
マネキンのように白くて
確かめるまでもなかった



あまい
蝋燭みたいな匂いがした



俺は
今来たばかりの道を走り
バス停の近くの公衆電話で
警察を呼んだ
彼らはすぐにやってきた
散歩をしていて見つけた、と俺は言った
そうですか、と
小柄だが強そうな
中年の刑事は言った
知ってる方ですか?

彼は聞いた
「法廷」、というバーで…

言おうとして
俺は
なぜか
何も言えなくなった
俺は
黙って首を横に振った
刑事は
そうですか

言った



思ったよりも長い時間
俺はそこに居て
刑事の質問にあれこれと答えた
同じ話を何度か繰り返した後
連絡先を聞かれて解放された



彼女は
翌日の新聞の
五行の記事になった
でも
そこに書かれていることは
「法廷」で飲んでる連中には
みんな
判ってることだった
「身元不明の女」
すこし違うのは
その下に
「死体」と
つくことくらいで



俺は時々
海に出向き
古いシャンソンや
パティ・スミスの
レコードを
何枚も
フリスビーのように投げる
いつか
「もういらない」と
彼女が
言わないかと思って
衝動的にそうしてしまう
あの時と同じ雨はなく
あの時と同じ明方はなく
ただ悲鳴のような泣声と
子供のような微笑みが
脳裏を
よぎるばかりで



膿んだ傷のある腕を
長袖の服で隠して
調子の外れたハミングは
いつでも古いシャンソンをたどって
彼女はマリーと呼ばれていた
マリアンヌみたいなコートを
いつも着ているせいだった



そうして彼女は
本当に影になった
陽の当らない地下室の
「法廷」という名のバーの
カウンターの奥から二番目
薄暗いライトを
なおかつ避けたような
その場所で





洒落た蝋燭みたいな影に





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そして、駅前で缶コーヒーを飲んだ
 吉田群青


公園のすべりだいの裏
公衆トイレの壁面
雑草の生い茂ったトンネルの外壁
そういううすぐらくて湿ったような場所には
決まって
つぶつぶと無数の電話番号が書きつけられている
等間隔に産み付けられた虫の卵みたい
そっとなぞろうとして躊躇った
何かどろりとしたものが指についてきそうな気がして
そしていったん付着したらそれはもう
どれほど手を洗おうが落ちないような気がして


白目をむいて
自分の内側を見ている
わたしの内側はいつだって
ただ真っ白な雪原
の筈なのだけれど
今日に限って
雪原のなかに点々と人跡が残っていた
知らないうちに
誰かに侵入されたのかもしれない
(誰かに侵入されることを
わたしが望んだのかもしれない)
慎重に人跡を追う
雪原の果てに
途方に暮れたように体育座りしてるひとを見つける
顔も見ないまま咬み殺した
お、
という声と共に
ぱ、
と雪原に血が散った
痙攣するその体が
温度を完全に失ったことを確認してから
黒目に戻ってゆっくりお茶をのむ
乱されなかったことに安心する
顔は見えなかったけど
あれはたぶんバイト先のカタギリさんだ
鼻の先に
ロッカールームで嗅ぎ慣れた体臭が残っている
おつかれさまです
と言う声が耳奥によみがえってくる


深夜
さまざまな人のかたちが灼きついてしまって
もうまともに見えない眼球を
あたらしいものに取り換えている
眼窩にひんやりした眼球を嵌め込んで
目を開けるときがいちばん不安だ
わたしがこれまで見てきたものの
どれぐらいが錯覚や思い違いだったんだろう
蛍光灯を見つめる
灯りの周りを古い毛布みたいな蛾が飛び回っている
しばらくそうしていてから
わたしは上着を羽織って身支度をし家を出た
これまでの錯覚や思い違いをただすために
そうしてまた新たに
錯覚や思い違いをしてゆくために
ドアを開けたとき
恋に狂う猫の群れみたいな風が
渦巻いてぬるりと首筋を舐めてった
もう
新しい季節の気配がしていた



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白と歩み
 木立 悟





降りつづいては
落ち着いてゆく
肌の裏側
こがねの腺


無い手を透り
こぼれるもの
失くした姿を
響かせるもの


夜の土の上
たくさんの色が話している
まばたきが 追うつもりもなく
まばたきを追う


かわいた朝
ひと握りの従順
水は動く
一度に 動く


あこがれにあこがれているような桃色が
遠くに遠くにかすんでいる
指と指のあいだ
はためくもの


触れた朝触れぬ朝
差異は巨きく
巨きすぎて見えない
朝から外れ 朝あゆむ朝


ふたつの色が
互いの履歴を語りあう
下を向く冬
こぼれ得ぬ冬


ひと息ひと息つづいてゆく
白い胸を見つめる白い目
あきらめられた歩みから
譜面と行方をとりもどす


生きる限り内に残る
名の無い鉱を見つめつづけて
やがてやがて 花になるのか
花になるのは目ではないのか


紙から紙を切り離すたび
生まれる崖が周りを囲み
飛沫の壁を空に突き刺し
新たな花の匂いを降らす


捨て置かれたほころびの端
けものに絡み
霧に濡れ
朝の途中の朝にまたたく


長く平たい
ひとつの骨
踏みしめて 踏みしめて 
ひとつの骨


地に居たものが地に戻り
その糧として色と音を喰い
外の外 外の外
白は白に話しつづける


粉という字のなかの十字
くちびるにくちびるにそそがれて
みな花に花に 囃し立てる
つばさつばさ つばさたれ
つばさつばさ つばさたれ


















 










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