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「お前に一面の青を見せてやれたなら、どんなに良いだろう」 ベッドの傍らに腰掛けながら夢を語るように言ったこの穏やかな男は、僕の恋人の内の一人で、これでも有名な海賊船・トラヴィアータ号の航海手だった。 比べて僕はこの船宿街の高級娼館で飼われる籠の鳥だ。此処で生まれて育てられた僕は毎日窓から海を眺めている癖に、航海というものをした事が無かった。 一面の青、言われて窓の外の青空を見上げてみる。この上の屋根に上がって寝そべってみれば視界の限り続く空など容易に完成する筈だ。密やかに苦笑してみたら僕の思考を読んだのか、緩く首を振った相手の胸に引き寄せられた。 「大空と海原との境界線が分からなくなる光景を見た事は無いだろう。船旅の良さは海だけであるものではないし、青の美しさも、空だけではない」 「あなたの瞳の中に住めたなら、海の青も空の青も、その瞳の青も楽しめただろうにね」 彼は海賊の癖に詩人のような物言いをして、僕を壊れ物のように扱った。他の男は、特に海賊なんていうのは僕達を手荒に犯したがる、ひどい奴は娼婦の女達までをもだという。 この男は違った。 或いは只の気紛れかも知れない優しさに、惚れっぽい性質を自覚している僕が陥落してしまうまでに時間は掛からなかった。 ブルーエ、縋るように相手の名前を呼んでその胸に身を預ける。 それは僕が付けた名だった。男が愛する船上の景色、男の瞳に宿る虹彩の色彩、其処から由来された名だった。 僕は彼の仲間が彼を呼ぶ為に使う彼の本来の名などを知らない、そして彼の方も僕の母が付けてくれた僕の名前も、この屋敷の主人が僕に与えてくれた新しい名さえ知らないだろう。 この部屋以外に共有しない僕らには必要の無いものだからだ。 「いつかお前を海へと連れ出してやる、ノーマ、お前を」 僕に女の呼び名を与えた男の過去などを勿論僕が知る筈は無いし、この先にその由来を知る事になる日なども来る筈が無い。 けれどそれでも戯れでしかないかも知れない男の言葉を、いつか必ず叶えてくれるだろう約束のように待ち侘びてもいいとさえ僕は思うのだった。 「きっとだよ、いつか」 これが娼館に身を置く男娼でしかない自分などに許される行為では無い事など分かっていた。 それでも僕は、この男の愛する色とその深海のような瞳を、彼の傍らで愛してみたいと思ってしまったのだ。
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