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親もダチも学校の奴らも道行く人も誰も、俺達が本気で愛し合っていることなど知らない。 冬の朝は寒くて暗い。俺はいつもの様に6:04の電車の二両目に乗る。マフラーに手袋が少し暑く感じる程、車内は暖房設備が整っている。 こんな田舎線の早朝の車内に人が居る訳も無く、俺と同じく朝練に行きそうな学生とサラリーマンが何人かまばらに乗っているだけだ。楽に席に座れるが、俺はドアの手すりに掴まって外を見ていた。木々には霜がおりていて、いかにも寒そうだった。 《南浜−南浜駅》 アナウンスと共に電車はゆっくりと止まり、俺の覗いていたドアは開く。 「おっす」 「はよ」 彼はいつもと変らず、6:14の電車に乗り込んで来て。マフラーに手袋に毛糸の帽子と俺より暑そうだ。7人がけの横向きに椅子の一番端に俺達は座り、俺が手すり側にもたれる。 彼は帽子を外し、手ぐしでパーマをあてた髪を浮かせて直す。 車内はガタンゴトンと音が響くだけで静かだった。 俺は左手だけ、彼は右手だけ手袋を脱いで。俺達はそっと手を繋ぎ、絡める。大丈夫、車内の人は皆うつらうつらしていて誰も気にも留めない。 彼の手は俺の武骨な手よりも細く小さく冷たくて、強く握ったら壊れてしまいそうだったけど、強く握って温めてあげたかった。 「寒いな」 「うん」 「電車降りるの嫌になるな」 「うん」 「温かいな」 「うん・・・・・・」 いつだって俺は、耳元で囁かれる彼の独り言の様な声に頷くだけだった。 俺の肩に、彼がほのかに体重を預ける。ガタンゴトン、俺の揺れは彼とシンクロし、ひとつになる。 「着いちゃったな」 《西森−西森駅》 勢いよく彼は立ち上がると、右手に手袋をはめながら振り返った。 「じゃ、また明日」 「また。気をつけろよ」 俺はまだ手袋をつけていない左手を振った。 笑って彼はドアの外を歩き出す。 電車の中から見えるホームに立つ彼は、俺と変らない身長のはずなのに細く小さく折れそうで、指先を吐息で温めながら歩く姿は儚くて。吐く息は弱く真っ白だった。 俺はまだあと二駅、ガタンゴトン揺られながら手袋をはめる。 親もダチも学校の奴らも道行く人も誰も知らない。 俺達はこの瞬間、確かに愛し合っている。 END
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