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……寒い。 仕事から帰った俺は、一人寂しく夕飯を食べ、シャワーを浴び、TVを眺め…やがて早々と眠りについた。ベッドには一人分のスペース。俺は出張中の恋人の名を呟く。 「…青葉…」 いつも彼が横たわるスペースに覗くシーツの白がやけに寒々しくて、虚しかった。 時計を見ればまだ十時。青葉今、何してんだろ。 …まだ研修とか受けてんのかな。さすがにもう食事とか、風呂とかか? 思わず携帯を開きかけ――枕元へと戻した。やめよう。ガキじゃないんだ、迷惑かけるなんて。 「…寝よ」 起きてるから寂しいんだ。ほら…きっと、遠くから聞こえる電車の音とか、犬の鳴き声とか…二人で過ごしてれば気にならない音が耳につくから。 「おやすみ、青葉…」 馬鹿なことをしているとは思いつつも、呟いてから目を閉じた。 その瞬間、携帯が鳴る。しかも厄介なことに、この音はメールじゃなく電話。 …なんだよ、人がせっかく寝ようとしてんのに。 機嫌を少し損ねた俺は、手探りで携帯を掴み、目を瞑ったまま電話に出る。 「はい、榊ですけど」 …しまった、不機嫌丸出し。上司だったらまずい。 後悔しつつ、恐る恐る相手の言葉に耳を傾ける。 「あれ?」 …聞こえてきたのは、そう呟いた柔らかな声。 「不機嫌、ですか?」 「青葉っ!? えぇっ!?」 えっ、まっ、マジでっ!? 耳に届いた大好きな声に、驚きと嬉しさと焦りで叫ぶと、青葉は小さい子を諭すように微笑む――そんな顔をきっと向こうでしていると思う。 「もう夜ですから、もう少し静かに、ね?」 「えっ、あっ、了解っ。…ってか青葉、出張忙しいんじゃないのっ? 電話大丈夫っ? 何してんのっ?」 長電話は悪いかなぁ、とか思いつつも、つい急(セ)いて聞いてしまう。会えないのはたった一晩だけなのに、話したいことばかりだった。 「今はお風呂を出たところ、です。まだ同室の方が戻らないので…多分もう少し大丈夫かな」 「そっか」 青葉はざっと、想定していた程キツいスケジュールではなかったことを説明してくれた。 でも正直、声を聞けることだけで舞い上がっていて、細かい内容は頭に入ってこないけど。 「ところで」 「何っ?」 「運命、さっきやけに不機嫌のようでしたが…」 青葉の声色が急に真剣になった…かと思いきや、堪えきれなかったようにクスクスとイタズラ気な声。 「僕に会えなくて寂しかった、とか?」 「ちっ、違…っ!」 あまりにもどんぴしゃな答えに、顔中が一気に熱くなる。 同時に、あまりにもあからさまな俺の反応に、向こうで爆笑紛いをしだす青葉。くっそ…。 「じ、冗談でしたのに…っ。あははっ」 「うるせ…っ」 けれど、言い返せば、笑わずに言ってくれる。 「僕も寂しかったですよ?」 嬉しいはずなのに、素直に言葉が出ていかなかった。顔は相変わらず、異常に火照ったまま。 「おっ、同じ室の奴と浮気すんなよっ!?」 「ふふっ、しませんよ。貴方だけです」 言った直後、携帯の向こうでガシャリと音がした。同室の人が戻ったらしい。 「信じるからな。…じゃあ、おやすみ」 青葉にも付き合いがあるだろう。気を遣い、無理矢理会話を終えた。 「あ、はい。おやすみなさい」 ピッ、と、短い電子音と共に電話が切れた。 なんでだろ、声が聞けて嬉しいのに…また少し、寂しい。わがまま、かな…。 なんとなく携帯を握りしめたままでいると…携帯が再び鳴りだした。 ディスプレイには、大好きな名前。 「…青葉?」 耳に当てて呟くと、苦笑いをする青葉の声。 「すみません、また…。あの、どうしても…」 なんだろ? 疑問符だらけのまま聞き返せば、少し照れたような笑いを含む声。 「おやすみなさい、運命」 すごく優しく俺の名を呼ぶその声に、一瞬で胸にナニカが満ちるのを感じる。 それはすぐに、笑顔となって込み上げてきて…。 「んっ。おやすみ、青葉っ」 「はい」 また電子音と同時に青葉の声は聞こえなくなる。 だけど何故か、満ち足りた気分だけがここにはあって…俺は携帯を枕元に戻した。 明日もきっと冷えるから、あったかい料理でもつくっといてやるか。それから…お疲れ様って、名前を呼ぼう。 そこまで考え、俺は睡魔に身を預けた。
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