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市川には、常に良からぬ噂がつきまとっている。 大雅もはじめ同級生から聞いた、父親が裏稼業に手を染めているだの、教師たちがそれを恐れて市川を成績に関係なく首席に据えているだの、女性関係がだらしないだの果ては隠し子がいるだの、そんなようなことだ。 大雅は市川と親しくなり、それらがすべて事実ではないと知っているのだが、当の市川が自分について多く語ることを好まず、また他人からどう見られているかなど気に留めないせいか、何を言われても全く否定しない。それが、噂が噂を呼び…と、市川は一部の人間からは相当な危険人物だと思われているだろう。 ところが。 帰宅するため市川と昇降口で待ち合わせをしていた大雅は、彼の手に提げられた紙袋の存在にいち早く気がついた。 「なにそれ」 普段余計なものなど一切持たない市川の異変について訊ねるのは無理もない。聞くと市川は面倒そうに視線を逸らし、 「…チョコだろ。机に置いてあった」 「へー……」 意外にも、市川に好意を寄せる者が存在するということか。そういえば、実はかなりの資産家であるなどという噂も一部にはあったっけ、と、大雅はぼんやりと思い出した。ルックスはいい方だから、そんな噂に夢を見る者もいるのだろう。 「なんだよ、妬かねえの」 特にこれといって反応を示さない大雅に、市川は少々不満げな声を漏らした。 べつに、と答えて歩を進める。 自信過剰という訳でもないが、市川に容易に近づける人間はそういない。側にいることを許された自分が他人とは違う特別な存在であることぐらいは自負している。 側にいるといっても、他人から見れば身体が小さく幼く見える大雅はさしずめ市川の小間使いといったところかもしれないが。 習慣に倣って市川の部屋に上がり込み、腰を下ろしてしばらく待っていると湯気を立てたコーヒーが運ばれてきた。 市川はさて、と言いながら、紙袋の中身をテーブルに広げ、 「どれ食べたい」 何でも好きなものを開けていいと言う。それに対し遠慮をする気はさらさらないのだが、 「…食べるんだ?」 市川の性格では、そのまま捨ててしまうのではないかと思っていた。 大雅の言葉に、市川は口角を上げる。 「なに、やっぱり妬ける?他の子からもらったものなんか食べないでくれってちゃんと言えば、考えなくもないけど?」 「違うって」 したり顔にむっときて、手近な箱を取ってがさがさと開け始める。市川は素直じゃねーな、とぼやくと、大雅が開けた箱からひとつつまんで口に運んだ。 甘、と言いながらコーヒーで流し込み、すぐに手を伸ばしてもうひとつ。 「ん」 声のする方に目をやれば、市川がチョコをくわえたままこちらに顔を向けている。 「は?ちょ、」 何をしようと…させようとしているのか即座に理解し、大雅は思わず後ずさった。 ずりずりと追ってくる市川の肩に手を突っ張る。 「ばかじゃねーの、何考えてんだよ」 市川は口元からチョコを外し、 「何って、おまえ面白くないみたいだし、機嫌直してやろうと思って。くれた子たちもまさか俺がそのチョコでおまえとこんなことしてるなんて思わないだろうな?」 にやりと舌なめずりをする市川の表情は、大雅にチョコを食べさせようとしているにも関わらずまるで捕食者のようで。 ぞくりと、背筋を戦慄が駆け抜けた。 「……、昔はこんなに性格悪くなかった」 「お互いさまだろ」 唇に触れたものを大人しく受け入れればそれはひどく甘ったるくて、胸焼けがしそうだと思いながら、大きな背中に縋り付いた。
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