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「離せよ」 「却下」 部屋の雰囲気は、最悪。 ドロドロに歪んでいて、もし目に見えたなら真っ黒に違いない。 有田春臣は、手と足を拘束されたまま考えていた。 飲み忘れたのか元々飲む気が無かったのか、入れられたまま放置されたコーヒーが春臣と部屋にいるもう一人の男との間にあった。 それはもうすっかり冷めきっているだろう。 白いけむりが見えなくなってから大分たっていた。 口に運んだらくすんだ味がしそうだなと春臣は拘束されたまま考えた。 拘束された状態の中でそのコーヒーが自分に向けて出されたものであるはずは無いのだが、その味を想像して自分が男と同じ位置からコーヒーを眺めているような錯覚に陥る。 「悪かったっていってんじゃん」 「──それだけで許される事だと思っているのか」 ちょっとした間の後のタメ息。 男が椅子から立つと、こちらに向かって歩いてくる。 コツコツ。 黒いスーツ。革靴の音。 縛られた自分。 絶対的な差。 「なんだよ」 近くなった二人。 コーヒーはくすんだまま、男の背後に位置をかえた。 男は春臣の前まで来ると、しゃがみこんで目を覗くように顔を合わせて来た。 「ごめんなさいで許されると本気で思ってんのか」 「許して欲しいなーと思ってる」 春臣が言い切る前に腹に感じた痛み。 可愛く言ってやったのに、と心の中で舌打ちする。 「がっ、は」 「いい加減にしろよ」 男に前髪を掴まれ、春臣の視線は必然的に上を向いた。 「どうすれば責任とれるか、わかんだろ」 「痛い」 春臣がそう言えば、この馬鹿というような蔑みの視線を感じる。 「違うだろ?」 「何がー?」 春臣はへら、と笑う。 そうなの。 俺、馬鹿だから分かんないのよ。 と、その視線を暗に肯定する。 男が頭に来るのは分かっていて、わざと。 案の定、男の拳が春臣の頬めがけてふり下ろされた。 歯に当たって切れたのか、口の中に広がる血の味。 ああ、 (もっと) たまんねえ。 この嫌な空気、 淀んだコーヒー、 鉄の匂い。 骨と骨が当たる音。 春臣は生きていた。 確かに、この部屋の中で。 男が誰かなんてことはどうでも良かった。 男を通して、春臣は自分を見ていた。 確かに俺はいる。 この部屋にいる。 いや、淀んだコーヒーの中に俺はいるのだ。
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