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今日は少し風が強い。 先月まで青かったイチョウは鮮やかな黄色になって俺の目の前を静かに落ちていく。 暑すぎず寒すぎない気候は公園で読書をするのにちょうどいい。 ベンチで読み始めた文庫本は30分も経たないうちに半分まで読み進めていた。 「律、ちょっと膝借りていいか?」 俺の肩に頭を預けていた総汰に問いかけられ本に落としていた視線を隣へ移す。 「別にいいけど」 「ありがとな。お前といるとやっぱすげぇ落ち着く」 「俺はお前といるとめんどくさい」 「…っ律!冗談だよな?」 そっけなく返すと涙目になる総汰。 かっこ悪。黙ってたらモテるのに。 俺より背が高く整った顔の総汰は学校の誰ともほとんど口を利かない。 小学校から一緒にいた俺は総汰が極度の人見知りで泣き虫だって知ってるけど。 それをクールだとキャーキャー言ってる女子は総汰のことを大幅に誤解してると思う。 「はいはい泣くなよ。冗談だって」 「やめろよ心臓に悪いだろ」 笑って言えば総汰は心底ほっとしたような顔をして俺の膝に頭を乗せた。 俺は本を持ち直して小説の文字を追う。 「昨日遅くまでごめんな」 「分かってるならいい。それより寝てろよ」 「……うん。ありがとう」 そう言うと総汰は昨日泣き続けて腫らした瞼を下ろす。 最近付き合い始めた彼女とうまくいってないらしく、昨日夕方掛かってきた電話で会いたいと言われ、俺は真夜中まで総汰の家にいた。 俺に会いたいと言う時は決まって、総汰は落ち込んでいて寂しそうだった。 「お前みたいなやつを好きになればよかった」 呟いた総汰の口角は下がり目の縁が滲んでいく。 俺を見ながら、見てはいない。 総汰の涙が零れ落ちる前に本を閉じて傍らに置いた。 もともと内容なんて頭に入っていなかったから、しおりは挟まなかった。 茶色に染められた髪を軽く撫でると堰を切ったように総汰の啜り泣きが聞こえ始めた。 「俺はお前なんか無理」 「律、冷たいこと言うなよ」 「はいはい。もう何も考えるな。泣きたいならもっと泣けよ」 「うん……」 緩く頭を撫でれば総汰は小さく、何度も頷く。 かっこ悪いやつ。 涙をポロポロと零す俺より体のでかい総汰を見てしみじみ思う。 けど、もっとかっこ悪いのは俺かもしれない。 総汰のふとした言動で馬鹿みたいにうるさくなる心音を気づかれないようにって、きつい言い方しかできないんだから。 「あっ……」 突然鳴り出した音楽に総汰の顔色が変わる。 起き上がって鞄に手を伸ばした総汰は携帯を取り出すと戸惑いながら通話ボタンを押した。 俺は黙ってそれを見つめる。 「うん、俺……何?」 突き放すような言い方をしても、総汰の声は電話の相手を好きだと言っていた。 「ごめん。うん、俺も」 電話を掛けてきた総汰の彼女が“会いたい”と言う。 甘い声色で応えた総汰は、心から嬉しそうに笑った。 総汰が泣くのは俺の前だけだと言っていた。 そんなこと、きっと総汰は覚えていない。 総汰の好きなやつが知らない顔を、俺は知ることができるのに、俺が一番知りたい総汰を、俺は一生知ることができない。 総汰が通話を終えたのを見計らって俺は文庫本を鞄にしまう。 かっこ悪いのは、やっぱり俺だろうな。 ベンチから立つと俺は足下のイチョウに視線を落として総汰と目を合わせた。 「総汰。俺、用があるから帰るな」 「え?」 「お前彼女のとこ行くんだろ?」 「ごめん。律、ありがとう」 総汰はすっかり幸せそうな顔で笑う。 晴れ晴れした顔の総汰が俺を引き止めてくれたことは一度もない。 「ちゃんと涙拭いていけよ」 鞄からハンカチを取り出すと俺は総汰に投げ渡す。 ありがとう、という返事を背中で聞きながら俺は歩き出した。 何度も繰り返された他愛ない出来事が胸を引っ掻いた。 その痛みを感じながら、今度こそ、総汰が幸せになればいいと思った。 かっこ悪い総汰を見なかったら、こんな気持ちを消せる気がするから。
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