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「遂にここまで来ましたね」 長年連れ添ってきた仲間が言う。 「ああ、あと一歩だな」 目を合わせ、互いに頷いた。 最後までともに行こうと誓いあうように。 仲間を率いた勇者は、魔王のいる城の眼の前に立っていた。 勇者の横にいるのは、彼が特に信頼を寄せる仲間だった。仲間内では、シューヤと呼ばれている。 特別な技能を持ち合わせているわけでは無い。 しかし、その差を埋める、いや飛び越さんとばかりに人一倍努力し汗を流す場面を目にしてきた。 そして、その努力の積み重ねによってこの魔王の城を見つけたのも彼だ。 仲間の中でも、そんな実直な彼を慕うものは多かった。 仲間になったばかりの頃は反発があったのだ、と懐かしく思う。 身分がはっきりしないものを仲間にすべきではないと。秀でた能力が無いものを抱え、無駄にリスクを負うべきではないと。 しかし、そんな意見を勇者は退けた。 勇者はこの国を愛してはいたが、差別的な考え方に賛同はしていなかった。 誰にでもチャンスは与えるべきだ、そんな思いから魔王軍によって焼きつくされた村で唯一生き残った青年を仲間として迎えたのだ。 「どうかしましたか、考えごとですか」 「いや、大丈夫だ」 横からの声に、お前のことを考えていたのだと言えるはずもなく改めて前を見据えた。 これで最後だ。 「行くぞ」 「…はい!」 二人が駆け出したのをきっかけに、後ろに控えていた仲間も城門をめがけて突入した。 度重なる戦いで魔王軍の戦力は衰えている。 それに気づいた勇者たちが立てた作戦は極めてシンプルだった。 正面突破。 戦いを糧に成長してきた勇者たちにとって難しいことでは無かった。 個としてチームとして、それぞれの実力が発揮できれば問題はない。 城門から次々と城を制圧していった。 「残るは…魔王か」 勇者の耳に、様々な場所での戦いの音が聞こえてくる。 歯の合う音、銃の音、悲鳴。 仲間はまだ足止めされているようだ。 逃げられてしまっては、ここまでの戦いが無駄になる。 それだけは避けたかった。 時間に余裕はないと考えるべきだろう。 みんなのがんばりを無駄にしてはならない。 勇者は聖剣を握る手に力を込めた。 一人で、やるしかない。 覚悟を決めると、もう足取りに迷いは無かった。 駆け足で一直線に階段を昇り、扉に手をかける。 「魔王!」 聖剣を構え、部屋中に視線を巡らす。 魔王が姿を消していても勇者にだけは、それを目で追うことができると書物で読んだことがある。 無い、無かった。 部屋の中に、魔王の影は無かった。 もう逃げられたかと部屋を出ようとしたとき、ハタと気がついた。 目の前にあるのはいたって普通の部屋だった。 ベットと机、本棚。 中級の騎士が住むような、豪華ではないが質素でもない部屋。 普通であることは、普通なのだろうか。 そう考えた瞬間、階段を上ってくる足音がした。 敵か、入り口に向かって剣を構える。 「勇者様!」 「…シューヤ」 目の前に現れたのはシューヤだった。 息を切らしていて、急いでここまで来たことが受け取れた。 「一人で乗り込むなど、」 危険すぎます、とシューヤが顔を近づけてくる。 「逃げられたらと思ったのだ」 結果として逃げられてしまったのだが。 「とにかく無事でなによりです」 ほっとしたように笑うシューヤ。 シューヤにこれだけ心配をかけ、何も成果を得られなかったのかと思うと情けなくなる。 「すまん、魔王を逃がしてしまった」 うつむく。 「本拠地が無くなれば、活動はしづらくなるでしょう」 シューヤは己が言わんとしていることをくみ取り、その時に欲している言葉を口にしてくれる。 「魔王を倒すことが全てではありません」 「シューヤ」 シューヤは優しい。 あまりに優しくて、戸惑ってしまうほどに。 「はい」 うつむいたままの自分に、腕を回してくれる存在がある。 今日は甲冑を着ているから、直接温もりを感じることは無かったが確かにあたたかさを感じた。 疲れていたこと、魔王を逃がしてしまった精神的なショック。 今日は、シューヤの優しさに溺れるほかなかった。 自分よりも細身の身体に抱き返すように腕を回し、前へ体重をかけると、シューヤは簡単にベッドへと沈みこんだ。 「勇者様…?…っ」 不安そうにこちらを見上げるシーヤ視線に、背筋がゾクゾクした。 勢いのまま口を塞ぐ。 息を吸おうと口をあけたところで舌をねじ込んだ。 「勇者さ、ま…っ!」 「シューヤ…シューヤ…!」 口内をあらかた味わい尽くした後、顔を離すとシューヤは息を乱しながらクタリと力を抜きベッドに身を預けた。 それがまた自身を興奮させた。 「勇者様、いったい…!なにを…!」 抵抗するシューヤ押さえつけ、無言で甲冑を無理矢理はいでいった。 露になった首筋に吸い付くと、シューヤの身体が不自然に跳ねた。 (つづく)
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