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「高嶺の花子さん」 彼女は歩いている。毎日通る繁華街の遊歩道を。 彼女は歩いている。自慢の長い黒髪を風になびかせながら。 彼女は歩いている。今流行りの恋愛ソングを小さく口ずさみながら。 A 学校疲れたー・・・。 今日は部活はなかった。ということは俺の体力を消耗してるのは必然的に授業だということになる。 部活はすっきりするからいい。基礎練や走り込みはこっそりサボってるけど。でも授業は嫌だ。やだなぁ、来週からテスト週間かよ。 そろそろテスト対策を・・・ ・・・っ! 顔に滝の水しぶきを受けたような衝撃。だらしなく緩みきった俺の顔が0.1秒で真顔になる。 それは部活を頑張っている俺へのご褒美か。それとも勉強を頑張っていない俺への天罰か。 俺の目は前から歩いてくる女の子に釘づけになった。 「・・・」 俺の視界に留まっていったのはたったの3秒で、そのまま彼女は左横を通り過ぎていく。 挨拶も会釈もなかった。当然だ、知人ですらないのだから。 だから何事もなくすれ違った。いや、本当に何事もなかったのか? だったら・・・ だったらこの心臓の異常はどう説明付ければいいんだ? もう・・・何て言えばいいのか・・・。一つずつ思い出してみよう。 まず顔。・・・どんな顔だったっけ。 あれ?どんな服着てたっけ。制服だったっけ?どこの高校の?あれっ?? 俺は足が棒立ちになってることに気づいた。 俺は顔や服を見ていたんじゃない。「彼女自身」を見ていたんだ。 俺は振り返った。彼女の後ろ姿がまだあることを望んでいた俺は期待を裏切られた。俺は一体どれくらい立ち止まっていたんだろう。 思い出せない、彼女の顔が。もう一度見ればしっかりと思い出せるのに! 俺は謎の汗を感じ始めていた。 知人B いつの間にか彼女のすぐ後ろに追いついてしまった。俺は自転車だけど彼女は徒歩だから仕方がない。 思えば下校中に彼女を見るのは久しぶりだ。そしてこのシチュエーションを密かに期待している自分がいる。 彼女は親友の女友達二人といつも登下校している。異性と歩いているのを見たことがなかった。つまりこれは・・・そういうこと、なのかもしれない。というかそうであってほしい。 なんて 期待してる俺はアホだ。あんな子、彼氏がいないはずがない。きっと他校か、大人と付き合ってるのか。平日は互いに会わず、休日に人目を忍んで駅前に・・・ そんな光景が容易に想像できる。 彼女もその彼氏も、きっと今はそんなに寂しいわけではない。なぜなら二人とも精神年齢が大人だから。会えない間に愛の自問自答に解答していき、会ったときにその答えを確かめ合うのだ。 もしも彼氏がまだいなかったとしたら・・・? いやー・・・そんなこと、あるはずがない。だってあの「彼女」だぞ?あの彼女に限ってそんなこと・・・。 そうこうしてるうちに、走行してる俺の自転車は、彼女の背中が俺の手の届く範囲にまで近づいた。 今、追い越すところ 手は・・・届かない。俺なんかが触れられるはずがない。 後は自転車を漕ぐだけ。徐々に開いていってると思う、俺と彼女の距離。知らぬ間に溜め込んでいた肩の力をようやく放出できた。 僅かに香った香水の香り。一体誰のためのものなんだか。 彼女に俺はどう映ってるのか。そもそも彼女の目に俺は映ってるのか。同じ学校の、同じ学年という共通点以外何もない俺のことを、彼女は見ているのか。 一瞬でも彼女に触れられるかもとか思った俺は、やっぱりアホだ。 C 来た!あの子だ!この時間にこのコンビニで立ち読みしてるとほぼ必ずと言っていいほど見かける。ただしこの場合は「見かける」じゃなくて「待ち伏せ」なんだろうけど。 今日もやっぱり可愛いなぁ・・・。 今日は一人で帰ってるみたいだ。いつも大人しめな子だが、今日は一層物憂げに映る。 一昨日、近くの書店で偶然すれ違ったときは死ぬかと思った。目と目があったのだ。 僕は一生分の勇気を振り絞って視線を外さないようにした。こんなときだけ反射神経がいい僕。 それを彼女は・・・無視したのだ。 いや、こんな言い方だと彼女が悪いみたいだ。普通の人だったら見知らぬ人とは目線は合わせないようにするものだし、彼女の行動は至極普通なことだ。 要は、僕はただの背景でしかなかったということ。 彼女の瞳はどんな人に恋人の反応を示すのだろう。彼女は恋人にどんなことを言うんだろうか。彼女の声は高いのかな、低いのかな。彼女の・・・ この辺にしとこう。こんなこと考えてたって僕のものになるわけじゃないんだし。こんななんの取り柄もない僕がましてや恋人だなんて、おこがましいにも程がある。 僕じゃきっと彼女に触れることすらできないんだろう・・・。 D 急がないと電車が来てしまう。早く青になれよ。 いくら信号を睨みつけたって点滅は始まらない。ここの信号は交通量が多いため、一度捕まってしまうとなかなか渡れな ん? ふと前に顔を向けたとき、一人の女の子の後ろ姿が目に入った。 ・・・? 顔が見えない。なぜか正面からの彼女を見てみたいと思った。 彼女が歩き出した!信号は青。ちょっと待て、信号変わるの早過ぎ。もうちょっと遅くても良かったのに。 横断歩道を渡り終えた彼女は迷わず左に歩き出す。ちなみに駅は右の道だ。 あ・・・ 彼女の背中が遠い。歩幅は変わってないのに・・・ああ、そっか、俺が立ち止まってるからか。 その背中は本当に遠くて・・・ 彼女が階段を上がっていく。 ついに手の届かない高みにまで上り詰めてしまった。 E F G H I J K L М N O P Q R S T U V W X Y Z 6月26日 今日の昼休みに先輩を見かけた。友人たちと楽しそうに廊下を歩く姿に、私も幸せになった。 本当に素敵な人だ。 今日の下校時間に先輩を見かけた。部活はどうしたのかな、と思ってたら、女の子と一緒だった。 本当に、素敵な、人、涙が、出そう 偶然友人たちと観戦した先輩の試合。その日から私は先輩の虜だ。 そしてその日から苦悩の日々が始まった。先輩は本当に罪な人だ。・・・ううん、勝手に惚れてしまった私のせいなのだ。先輩はちっとも悪くない。 恐らく彼女だと思われる女の子はとっても明るそうな子だった。実際、先輩も女の子も一緒にいるときはずっと楽しそうだった。 私の帰り道は、先輩のことを考えるのに費やしている。 あの二人は二人の時間をどう過ごしているんだろうか。そんなことばかり考えてしまう。 手はどっちが先に繋ごうとするのかな。 キスは、するのかな。するときは真面目な顔になるのかな。 一緒にいるときはどれくらい楽しいのかな。 私に彼と恋人になれるほどの価値はあるのかな。道行く人が振り返るほどの魅力はあるのかな。 目に熱い膜が形成され出した。瞬きを数回。いつもこれで乗り切っている。 こうでもしないと私は「嫉妬」という醜い魔物と化してしまう。私は先輩を嫌いになりたくもないし、先輩の好きな人を憎みたくもない。 こんなことを考えたって無駄。 感情が奥へ引っ込むと微笑してしまう。私の諦めたときの癖なのだ。 そして今日発売された、私の好きなアーティストの歌を口ずさむ。歌詞は・・・今の私にはちょっとアレだけど。 私にとって、彼は・・・ 彼は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべき Y 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 X 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 W 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 V 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 U 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 T 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 S 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 R 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 Q 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 P 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 O 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 N 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 М 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 L 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 K 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 J 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 I 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 H 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 G 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 F 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 E 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 D 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 C 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 知人B 彼女は高嶺の花だな、と思った。外野がいくら恋したって、つり合わないなら諦めるべきだ。 街が夏の魔物で溢れた。その魔物たちを作り出したのはたった一人の魔物の黒魔術だ。 その魔物は気づかない。皮肉にも自らの持て余した恋心によって、知らぬ間にすれ違う者たちの視線を集めていたことを。 魔物たちは、皆一様に蜃気楼を見たのだ。追いかけても、追いかけても、掴めない幻を。 A 思い出せない思い出せない 彼女の顔が思い出せない。 唯一覚えてるのはあの長い黒髪。風に舞った髪が俺の心を弄んだのだ。 高嶺の花だというのは百も承知なんだ。でも、でもせめてあともう一度だけこの目で見たい。 毎日見かけたら、もしくはずっと側にいられたら顔を忘れることなんてないんだろうけど・・・。 ずっと側に・・・? 俺は明日の部活をサボることにした。 彼女は今日も歩いている。見つけた。
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