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旅に出よう。 夢村二太は思った。 彼がそう思い立ったのは、ほんのつい先ほどのことだ。 というのも。 二太には、片想いの相手がいた。中学へ上がると同時に、一番初めに出来た友達、だったがそう思っていた期間はどれくらいなのだろう。 二太は、自身が『そういう』人種だとは思っていなかったが、すぐに彼のことが好きになり、けれども報われない恋だとそう思って二年間、なにも無い顔をして過ごしてきたのだが今年の春、二太たちは中学三年に上がる。同じクラスには、もうなれないかもしれない。それに、来年は受験も控えている身。 そこで、二太は一大決心をして彼に告白をした。 彼の名は、安男。 名前だけ聞くと、安っぽそうな名前だが彼の容姿はとても人目を引くもので。二太も、その中の一人ではあるが。 安男は、自分のことをよく分かっている人間だった。どうすれば、人の心が動き、どうすれば傷つけることが出来るのか。 二太は、そういうところはあまり、好きではなかったけれど、安男が自身に向けてくれる笑顔には、そういった駆け引き的な内容ではなく、純粋な好意が含まれていると、思っていたからこその、告白だったのだが。 三学期最期の終業式が終わり、二太は安男を人気の無い、体育館の裏へと呼び出した。 「どした?二太」 「うん……あの、あのさヤス。ヤスって、…俺のこと、好きか?」 「ん?そりゃ、二太はかわいいから。好きだけど」 その言葉に、気を良くした二太は、息を大きく吸いそして吐いた。後、言葉を紡ぎ出す。 「あのっ…あのなヤス…!えと、俺と…その…つ、付き合って…欲しい。俺、俺もヤスが好きで……ずっと、好きで…」 二太は、自身の顔が赤くなっているのを感じながら、それだけを吐き出すとそれを追うように、安男が溜息を吐いた。 「二太……二太はさ、俺とナニがしたいの?」 「なに…?なにって…え、と…」 思わず、顔を上げた二太の目に映ったのは完全に困り顔の安男だった。 「二太なら、大丈夫だって思ってたんだけどな……」 「え……」 「いや、二太なら俺にそういう感情、抱かないって思ってたから一緒にいたのに。二太まで、そういうこと言うんだなって。…ちょっと、残念」 「ざんねんって……」 「悪い。俺、二太の気持ちには応えられないわ。二太のことは好きだけど、そういう…好きじゃない。だって、俺、二太と付き合うとか考えられないし。ごめんな」 ひらひらっと、安男は手を振り、二太の隣を通り過ぎ、そのまま姿を消して――二太はといえば、あまりのショックにそこから動くことも出来ず、漸く、安男の言葉をしっかりと理解できたことで溢れる涙を拭くため、腕をやっと持ち上げた。 「っく、ひっく……ひでえ…!いっくらなんでも、ひでえよ…!!俺、真剣だったのに……!!本気で、好きだったのに…!!」 あれでは、友達として見ていたことすら否定されたも同じことだ。 そこで、冒頭に至る。 旅に出て、いろいろなものを見て周り、そして世界は大きく広いんだと、自身の見ていた世界など狭いのだと、二太はそれを実感したくなり旅へ出ようと思ったのだ。 あてのない、旅だ。 寧ろ、あてが無いほうがいい。ふらふらと、自身の好きなところへ気ままにぶらぶらして思いっきり自由を満喫しつつ、安男のことを忘れよう。 二太は、ぐいっと涙を拭い払って顔を上げ、学校から自宅への道のりを歩き始めるのだった。 その道中、何度も涙したし、座り込みもした。 そんな気分を紛らわせるように、旅のことを考える。さて、何を持って行けばいいのか。まずは、リュックサックを用意しよう。そして、着替え、歯ブラシに、コップ。寝袋は、道中に調達することにして…。 そんなことを考え、自宅に着くなり専業主婦の母に一言。 「母ちゃん、俺、ちょっと旅出るわ」 「は…?た、旅って…ちょっと二太!あんた本気!?」 「んー?本気。春休みの間、俺、家には戻らないつもりでいるから」 「母ちゃんがいいって言うと思う?だめ。絶対にだめだからね。いくら二太が男の子でも、今の世の中は怖いんだから」 「だーいじょうぶだって。危険そうなところは避けるし、いざとなったら交番でも何でも駆け込むし。もう、決めたから」 「二太…!」 「なに、男は一度くらい、こうやって旅に出るもんなんだよ。そういう、生き物なの。さて、準備しなきゃな」 「だめ、二太。だめだからね!」 「だから、もう決めたの!母ちゃんがなんと言おうと、俺は考えを改めるつもりは無いし。いい経験になるかもしれないだろ?止めてくれるな、母ちゃん」 二太は未だ何か言いたげな母親から逃れるように、押し入れを開ける。そして、中に押し込まれるように詰め込まれている大きなリュックサックを取り出し早速、準備にかかる。 本当は、持ち物リストのようなものを作ったほうがいいのだろうが、そんな時間は無い。 というのも、二太は今日にでも準備が出来次第、出発しようと思っているのだ。失恋から早く立ち直ろうと思ったら今しかない、そう、二太は思っている。 そうして、リュックサックを自室へ持ち込み詰め込めるだけ衣服を詰め込み、先ほど頭の中に上げた持ち物を次々と放り込んでゆく。 随分、適当な旅だと思うがそれこそが醍醐味ではないかとも、思われる。なにしろ、クラスの女子から面白い漫画あると紹介された少女マンガの脇役なんかはママチャリで遠くへと出かけてしまったくらいなのだから。 例え漫画だとはいえ、あれを見るにどうにかなるものはどうにかなるのではないか、そんなことを思いながら、二太は思いついた荷物を次々と、リュックサックに詰めてゆく。そしてその中には、安男への気持ちも、入っている。 そうして、リュックサックがいつかはち切れるのではないかと思われるほどに、たくさんの荷物を詰めた二太は、夕方の空気が漂い始める中、私服へと着替えリュックサックを抱えて階下へ降りる。 その足は、今は夕餉の支度の真っ最中である母親の元へと向かう。 「母ちゃん、じゃあ俺、行ってくる。ちょくちょく、電話はかけるから」 「ちょ、ちょっと二太…!」 「じゃ、いってきまーす!父ちゃんには適当に言っといて」 後ろから「二太、待ちなさい!」という言葉を最期に、二太は玄関から飛び出してリュックサックを背負い、家族兼用で使っている自転車に飛び乗る。 今から、出かけるとなると寝袋は早めに買っておいた方がいい。そう思った二太は、近所にあるモールへと、向かうことにした。 モールの中には、スポーツ用品店がある。そこでなら、いい寝袋が買える、そう思っていたのだが、なかなかに高価だ。けれど、これが無いと寒くて眠ってはいられないだろう。季節は春とは言えど夜はまだまだ冷える。 仕方なく、一番安い寝袋を購入した二太が次に向かったのはATM機だった。持ってきた貯金通帳から金を下ろすためだ。 手持ちの金では少々、寂しすぎる。 そうして、漸く全ての準備を終えた二太は、寝袋をかごに突っ込み、力強くペダルを踏み出す。 さあ、旅の始まりだ。 そんな、二太の心は沈んでいるのだか高揚しているのだか不思議な気分だった。自転車を漕げば漕ぐほど、安男からどんどん離れてゆくような、そんな気分さえする。 それが嬉しかった二太は、夢中で自転車を走らせ、隣町に入ったところでとうとう、辺りが暗くなってきてしまったことに気づいたので早速、今日の宿を決めることにする。 公園、がベストだ。広い公園の片隅ならば、常に誰かがいるだろう。そんな浅はかな考えを持った二太は、コンビニで夕ごはんの弁当を買い、適当な公園を目指す。 隣町へは、親に時折つれて着てもらってはいるのだがやはり、地の利がないのはつらい。だが、旅とはこういうものだ。 二太は、すっかりと日が暮れた道をひた走ると、いきなり拓けた場所へと出た。なんだと、見渡すとそこは待望の公園で、いい具合に大き目な遊具なども置いてあり、ここならばすぐ傍は道路でもあるし、遊具に紛れて寝袋に包まれば人目を誤魔化すことも出来るし、ある意味では、助けを求めることも出来る。 最適だと思われたその公園の駐輪場へ自転車を止めた二太は、早速、野宿の準備にかかる。 風呂には入りたいが、明日、どこか健康ランドにでも行って汗を流せれば。なぞと考えながら遊具の一つに座り、調達したコンビニ飯で夕食を済ませ、水飲み場で歯磨きを済まて寝袋を広げた二太は早速、身体を滑り込ませてみる。 思ったよりも、窮屈でもなければ寝苦しいわけでもないそれに、安男のことを思い出しそうになる心を押さえつけた二太は、そっと目を瞑ったのだった。 なにか、聞こえると思う。 誰かがなにか、言っている。いや、言っているのではなく…。 ふと、目を開けた二太の目に飛び込んできたのは広い、男の背中だった。自身の、横に背を向けて、座っている男。 ひっくひっくと、しゃっくり上げる声。 どうやら、泣いているらしい。それも、ひどく。肩が、ひっきりなしに上下に動き、身体全体で息を吸ったり吐いたりの繰り返し。 しかし、と思う。何故に人が寝ている場所で、泣きじゃくっているのか。 思わず、二太は声をかけていた。 「あのー…もうちょっと、静かにしてもらえません?寝れないんですけど」 すると、男はびくっと身体を跳ねさせ慌てて振り向いてくるのに、二太は思わず声を上げてしまいそうになった。 というのも、月明かりで見える男の顔は、驚くほど整っており、すっと通った眉毛に瞳は少し切れ長だけれど冷たい感じなどしない。そして、鼻の形も良ければ薄い唇だけは、特徴的にまるで猫のような、うさぎのようなきゅっと真ん中が膨らんでおり、ユーモアが感じられ、なんとも愛らしい。 男は、慌てて涙を拭い頭を下げてくる。 「あっ…ご、ごめんなさい…!!ひ、独りで泣きたくなくて。あう、どうしよ…」 「そ、そんなに謝らなくてもいいよ。ごめんごめん。つか、どしたの?」 「いえ……理由が恥ずかしくて…」 「うんこ漏らしたとか?」 「ち、違います!いえ、……失恋、したんです。長い間、ずっとずっと、好きな人に…フられてしまって…。あまりの悲しさに、家に独りでいるのがいやで…つい、本当にごめんなさい」 「失恋、か……。なんか、すげえ偶然な。俺もさ、今日、…好きだったやつにフられた」 「えっ…」 「うん。んで、今は失恋を振り切るための旅の途中なんだ。なあ、あんた名前は?俺は、夢村二太」 「あ、俺は…白糸卓也です。え、その…夢村くんも、フられたんですか?」 「ああ。きっぱりさっぱりな。まるで、取り付く島もなかったよ。あっけないもんだった」 「そう…ですか。俺も、そんな感じです。あの…旅の恥は掻き捨てでは無いですが言ってしまいたいので言います。……実は、俺の好きな人って男なんです。そんな目で見て欲しくないって、…そんな、ことを…言われてしまって」 すると、卓也の瞳にもりもりっと涙が盛り、すうと頬に涙が滑る。 「卓也、…タクの好きな人って男なんだ」 「はい。……気持ち、悪いですよね。自分でも、そう思います。なんで、彼なんだって、俺だって…!!」 「あの、さ。俺の、好きな人も男だよ。えと、慰めるわけじゃないけど…俺も、男に告白して…すっぱりフられた。タク、タクって呼んでいい?」 「あ、はい。どうぞ…」 「やっぱ…俺も同じようなこと言われた。そういう目で見て欲しくなかったって言われちまってさ。タクみたいにそうやって、いつまでも泣かなかったけど…やっぱ、悲しいよな。俺も、悲しいもん。男だからって、なんでだめなんだろうな。男だって、好きになるよ。男のこと。それのなにが、いけないんだろうな」 「……夢村、あの、夢くんて呼んでもいいですか?」 「ああ、いいよ。つか、敬語も止めねえ?堅苦しいよ」 「いえ、おじいちゃんに初対面の人とはきちんと敬語で話しなさいって言われてますから」 「ふうん。まあ、それならいいや。タクさ、タクはあれなの?小さい頃から男が好きだった?俺は、そこら辺はよく分からないんだよな」 「俺もです。だって、男を好きになったのは彼…セージだけですから」 「ああ、セージっていうんだ。好きな相手」 それに、卓也は首を縦に落とした。 「ちょっと、夢くんとはタイプが異なるかも。なんていうか、物静かなんだけどでも時々すごくドキッと来るようなこと言うような。それで、俺は勘違いをしたのかもしれませんね。セージが言うことに、一喜一憂したりして。…馬鹿、みたいです俺…」 そこで、また新たな涙が卓也の頬を伝う。 「……タク、本当に好きだったんだな。セージのこと。まあ、俺もヤスのこと好きだったけど…」 ついつい、二太も涙を浮かせてしまう。 「ホント……ひでえよなー…。神様はさ。だって、好きになったもんはしょうがねえじゃん。好きなもんは、しょうがねえじゃん。なあ?」 二太の声は震えていたが「そうですね…」と返した卓也の声も同様に、震えていた。 「さ、そろそろ寝よっかな。タク、元気出せよな。俺も、頑張って旅続けてヤスのことを吹っ切るからよ」 「あ…そう、言い忘れてた。あの、ここの辺り、あまり治安がよくありませんよ。なので、それを守る意味でも、ここに座って泣いていたわけで…」 「え?マジで!?ここだめなの!?ど、どうしよ…。治安がよくないって、カツアゲとかされるとか?やだなーそれ…。殴られたりとかも、したくないよ…!」 困り果てた二太だった。今からこの場所を移動したところで、安全な場所など土地勘の無い二太には分からない。 そこで、静かな、けれど窺うような卓也の声が二太の耳に入る。 「あの…よかったら、俺の家に…来ませんか。どうせ、俺独りしか住んでませんから。布団と朝ごはんくらい、用意させてください。話を聞いてくれた、お礼に」 「いいのかっ?え、じゃあ行く!なんか、悪いな。一緒に、いてくれたりもして。お前、優しいな」 「いえ、ただ独りで泣きたくなくて、誰か傍にって思ったら夢くんがいただけですから。それより、家…かなり古いから驚かないでくださいね。掃除はちゃんとしてありますが」 二太は、寝袋を片付けつつ、手を振ってみせる。 「なんも気にしねーって。泊めてくれるだけで御の字だよ。つか、マジでいいのか?面倒じゃねえ?」 「いえ。出来れば今は…独りでいたくないんです。夢くんがいてくれれば、話し相手にもなってくれるし、普通に…喋れることが嬉しくて」 「おう、いくらでも喋りたいなら喋ってやるけどな」 そうして、寝袋を片付けた二太は、卓也と共に歩き出す。 そこで、二太は思わず卓也を見上げてしまった。なにしろ、身長が高いのだ。二太自身は、男子にしては小柄というか、成長が行き着いていないというか。 「タク、お前でっかいなー!何センチ?」 「え?俺ですか?えと……172か、3っていったところでしょうか。夢くんは…ちょっと、小さいですね」 「うっうるせー!馬鹿にするか!!」 「いえいえ。かわいいなって、思って。セージもやっぱり、小さかったから。俺、自分より小さな人ってなんか、好きです」 「そんなこと言っちまったらお前、殆どのやつが好きなことになるぞ。俺なんつったら、自分より小さななんていうと…数が限られちまう。だからなんだろ…俺は反対に、おっきいやつって好き。こんなこと言うと…変態って思われるかもしれないけど、…なんだろうな、包み込んでくれる感じ?が好きだ」 「包み込む…。俺は逆ですね。包み込めるのなら、包み込んであげたいです。包み込んで、愛してあげたい感じですね」 「愛して…!愛、あいね、…うん。なんか…タクが言うと…エロくなるな」 「エロい?俺が、ですか?」 「うん。タクは、なーんか妙な、色気があるっていうか…。お前、すげえキレーな顔してっから。多分、タクは男女問わず、モテると思う」 「いや…俺は言うほどモテませんよ。顔がいいからって、世の中そんなに甘くないです。寧ろ、俺はこんな感じだから逆に敬遠されちゃって。だから、夢くんみたいにごく普通に話してくれるのは嬉しいです」 卓也はにこりっと、二太に笑ってみせる。 「や、だって…あんなに泣いてたらフツーは気にするだろ!」 「でも、俺は嬉しかったです。ああ。ほら着いた」 そこは、大きな平屋建ての日本家屋で、月明かりでしか見えないが立派な瓦屋根が見え、目の前には立派な門扉。 卓也はそれを開き、二太を呼ぶ。 そうして、中へ入るとなんとも仰々しい坪庭が広がっていた。 「すっげー…!!俺、こんな庭見るの初めてだぜ…!!」 「おじいちゃんが、この庭すごく、かわいがってて。俺も、見よう見真似で手入れしてるんです。爺くさいですよね」 「や、そんなことは言わねーけどすげー…!!」 「さあ、家の中へ入ってください。もう、夜もかなり遅いですから。すぐに、布団を敷きますね」 「なんか、済まないな。やっぱ俺、外で寝ようか?庭、借りてもいいなら庭で…」 「そ、それはだめっ!だめです!!家の中で、ちゃんと寝てください。というか、俺の隣に、…いて、ください…。今は、独りはいやです……」 「あ、ああ。そういうことか。…うん。なら頼もうかな。俺、さっきから眠くて眠くて」 そんな二太の言葉を聞いた卓也は、表情を明るくし先導して、廊下を歩き出す。その両側は襖だらけで、なにがなにやら分からない二太だったがある襖の前で、卓也の歩みが止まる。 開けられる襖。そこは、大きな机が置いてある開けた空間だった。 ぱちりと、電気がつけられる。 「ここ、居間なんですけど…今日はここで寝てください。今すぐに、布団運んできますからちょっと、待っててくださいね」 「おう。頼むわ」 二太は、落ち着かない気持ちを抱えて座り込んで待っているとふっかふかの布団を抱えた卓也が笑みを浮かべて部屋へと入ってくる。 「今日、偶然に思い立っておじいちゃんが使ってた布団を干してたんです」 「なあ、さっきからよくおじいちゃんって聞くけど、じいさんは?」 途端、卓也は暗い顔を見せた。 「…つい、半年ほど前に……他界しました。肺炎が、悪化してしまって…」 「あ、…ご、ごめん。その、悪いこと、聞いたな」 「いいえ。仕方の無い、ことですから。人の生き死になんて。それより、布団広げますのでそこ、ちょっと退いてもらってもいいですか?」 「あ、ああ。悪い」 机が退かされると、広い空間はますます広くなりそしてその中央へ、布団が敷かれそしてもう一組、横に敷かれると、卓也は襖側の布団に横になり、手招きして二太を呼ぶ。 「夢くんの布団は、こっちです」 「お、おお。サンキュ。あ、すっげふかふかー!」 二太がごそごそと布団の中に入って落ち着くと、存外嬉しそうな笑みを浮かべた卓也と視線が交わる。 「…夢くんは、なんかかわいいですね」 「はは。それ、フられた時に言われたセリフだ。『二太はかわいい』って。俺って、かわいいとはちょっと、違うと思うんだけどな。女顔でもないし、なよってしているわけでもなく…特にイケメンってわけでもない」 「かわいいっていうのは、そういうんじゃないと思いますよ。女顔だからかわいいってわけじゃなく、その…ヤスって人も、夢くんの…雰囲気?とかそういうもののことを言ったんじゃないかなって、俺は思います」 「よ、よせよ!かわいいなんて言われたって、嬉しかねえよ!どうせなら、カッコいいとかのほうがいいな」 「いや、確かに…夢くんはカッコいいけど…でもやっぱり、かわいい」 「からかうなよな!おやすみ!もう寝ちゃうからな!」 「ふふっ。かわいい」 「うるせー!寝ろ!お前も寝ろ!」 それが、今日一日交わした、彼らの会話だった。 あくる日の、朝だった。 二太は、自身以外の体温で、目が覚めた。というのも、不自然に身体の部分部分が温かいのだ。平たく言えば、誰かが自身の身体を抱え込んでいるような。 一番大きいのは、足の間だった。 自身の足の間に、誰か違う人間の足が挟まっている。そう気づいた二太は慌てて目を開けると、そこには朝日を浴びた美形の男が安らかな顔つきで寝入っている。 驚いた二太は、危うく悲鳴を上げそうになった。 それを何とかせき止め、思わず下に降ろした目線を上げてみる。昨日も思ったことだが、なんとも綺麗な顔つきだ。陽が当たっている加減で、肌のきめ細かさや白さが際立ち、男らしい少し太めの首には大きな喉仏。 けれど、一つだけ、残念なことがあった。昨日、派手に泣いていた所為であろう、瞼が赤く少しだが腫れ上がっていた。 勿体無いことだと思う。これだけ整った顔つきをしていれば、すぐに他に恋人などいくらでも出来るだろう。そう思った二太だが、けれどきっと、卓也はセージが好きで、セージがいいのだろう。 その気持ちが痛いほど分かった二太は、思わずその瞼に唇を押し当てていた。右の瞼にも、左の瞼にも。 そうしたところで、いきなりぎゅっと、きつく身体が抱かれた二太は驚いて卓也を見る。 だが、どうやら彼は寝ぼけているらしい。 「おい、おい。タク、起きろ」 「んんー…?」 「タクってば、」 すると、至近距離にあった卓也の先ほど口づけた瞼が徐々に持ち上がり、二太だと捉えた瞬間、またきつく抱かれてしまう。 「ちょっ!おいっ!!」 「ああー…よかった…。勝手に、出て行ってしまうかと、思ってたから…」 「だって、朝めし用意してくれるんだろ?」 「なんですか、ごはんのためにいたんですか?」 そこで、何故かどきりと心臓を鳴らしてしまう二太だった。卓也の傍にいたのは、彼と悲しみを分かち合ったそんな仲で、旅の途中に出会ったただの、失恋仲間で。 「まあなー。つか、タクっていい匂いするな。せっけんの匂いがする」 「夢くんは、…ちょっと、お風呂入ったほうがいいかも。なんとなく、ですが…甘い匂いが濃くて強い。昨日、お風呂入りました?」 「あー…入ってないな。つか、終業式終えて、告ってフられてその勢いで家飛び出してきたから。ごめんな、くさくて」 「ううん……。甘い匂いっていうのが、なんだろ…夢くんらしくてすごくいいと、俺は思います」 「でもくさいんだろ?離したほうがよくね?」 「んー…。くさくは、ないです。というか、…変な、気分になりますね」 「変な…?って!お前っ…!お前の、チンポが腹に当たってる!!」 「はは、俺って案外、現金なのかも。というか、ただの朝勃ちですよ。夢くんのは?」 「俺は別に勃ってもねーよ!いいから離せってば!お前、エロいよ!つか、風呂に入らせてくれ。襲われそうで怖え!」 「はいはい。じゃあ、ちょっと抜いたらお風呂の準備しますから」 「ん…?抜く?お前が?」 「ええ。独りでもちろん、処理しますけど」 なんとなく、残念な気分になった二太だった。けれど、それを自覚した途端、どことなく恥ずかしくなってしまい、慌てて卓也の腕の中から抜け出す。 「もう!なんだかお前、昨日とキャラが違いすぎる!昨日はもっと、殊勝だった!」 「夢くんこそ、昨日はもっと男らしかった。というか、夢くんの本当はこっちなのかな…?」 「か、考えなくていいから!風呂、風呂の準備を頼む!」 慌てた二太は、逃げるように縁側へ出た。 その後、古いが立派な風呂場に案内された二太は、浴槽にお湯まで張ってもらい、しっかりと気持ちよく風呂を堪能し、先ほどの部屋へ戻ると、布団は既に姿を無くしていてその代わりに、大きな机の上には湯気の立った出来立ての朝ごはんが用意されていた。 その内容一つとっても、なんとも豪華なもので。 「すっげー!朝からみそ汁と白飯とか!うわ、魚まであるじゃん!え、これ煮物?」 喜ぶ二太は、卓也に案内されて対面に用意されている座布団に座る。 「これも、おじいちゃんに叩き込まれまして。今どきの男は料理も出来なきゃいかんなんて言われて、それの賜物です。けど、夢くんの口に合うかな」 「え、全然嬉しいけどな!だって、うちの母ちゃんあれだぜ?専業主婦なのに、出てくる朝めしなんてただの食パンに焼いただけの目玉焼きと薄く切ったベーコンのみ。そんなんで足りるかっつーの!」 「じゃあ、よかった。さあ、食べてください。煮物は、昨日の残り物ですけれど」 「おう、じゃあいっただっきまーす!」 卓也は、二太のその様子に笑みを浮かべ、二太もそれが嬉しく、和やかな食事が進んでゆく。 と、そこで卓也がふと顔を上げる。 「あの、夢くん。えと…このごはん食べたら、夢くんはもう…出て行ってしまうんですか?」 「ん?まあ、…どこって予定とか立ててるわけじゃないし、っていうか行き当たりばったりの旅っていうか。春休み中ずっと、外にいるつもりでいるし」 そこで、徐に卓也の表情が明るくなる。 「じゃ、じゃあ…!あの、俺の…家にいてくれる気にはなりませんか?」 「え?お前の家?って……」 「夢くん一人旅って、なんかすごく心配だし…それに、今は未だ少し心細くって…広い家に、春休み中ずっと独りっていうのは…なんていうか、少し…つらい」 「うーん…別に、俺はいいけどお前、面倒じゃねえ?だって、三食ともお前んとこで食べたりするわけだし、布団とかも使うと汚れるぞ?それに、俺って結構うるせえよ?」 「いい?いいって言いました?」 「や、言ったけどさ…お前こそホントにいいの?」 卓也は、それに満面の笑みで頷く。 「おじいちゃんがいなくなってから、半年…ずっと寂しかったんです。けど、今日…朝起きたら夢くんがいてくれて…すごく、安心したんです。それに、俺…自分があまり喋らないほうだからかな、うるさいって思えるくらいの人の傍にいるの、好きなんです。だから、夢くんがいてくれるなら…毎日が、楽しくなりそうで。……セージのことも、考えなくても、済みそうで……」 「ああー…うん。それは、そうかもな。俺も、なんか昨日タクが泣いてるの見てたらヤスのこと、忘れてたし。お前がいいなら、世話になろっかな」 ぽりぽりと、照れくささから頬を掻きながらそう言うと、卓也は白い頬を赤くさせて喜ぶ。 「じゃあ、改めて。えーと、夢くんっていくつですか?小学校は…上がってますよね?」 「ばっ馬鹿にするな!今年で中三だっつーの!タクこそ、高校生とか?高二?とかか?雰囲気大人っぽいし」 「いいえ。俺も夢くんと同じ年ですね。驚きました」 「え!?お前未だ中学生なの!!?」 「はい。来年受験を控えてます」 「同い年か!へえー…なんか、騙されてる気分だな。お前、老けすぎてねえ?」 白米をむしゃむしゃと咀嚼しながらそんなことを言うと、卓也の頬が膨らむ。 「夢くんだって、そんなこと言ってますけど、俺は小学生だと思ってましたからね、夢くんのこと!失礼です!」 そこで、二人揃って噴き出してしまう。 「ぷっはっは。はは、なんだお前、結構面白いやつじゃん」 「いえ、夢くんが楽しい人なんですよ。それより、朝ごはんを食べたら自宅に連絡を入れたほうがいいです。俺からも、言い添えてみますから。俺、夢くんには絶対に家にいてもらいたいですし」 「ああ、じゃあ食ったら電話借りてもいいか?」 「はい!ちゃんと、説得してくださいね?頼みますよ」 「おう、別に安全なところにいるって分かればそんなに反対されないだろうと…思われる、かな」 「頼りないですねえ…」 そうして、賑やかな朝餉が終わった後、二太は早速、電話機を取った。そして、自宅の番号をプッシュする。 待合音が、続く。後、ぷちっと電話が繋がる。 「あ、もしもし?俺、二太。母ちゃん?」 すると、繋がった先の母親の大声が耳を劈く。 『あんたー!!どこ行ってたの!!心配したんだから!!今どこ?どこにいるの!』 「いや…ちょっと落ち着け母ちゃん。今、昨日ちょっと知り合いになったしら、しらいと…」 そこで、さっと、受話器を取られた二太は、慌てて目線を上げると卓也が話し始めてしまう。 「あ、もしもし。初めまして、俺、白糸卓也って言います。昨日、二太くんの自転車がパンクしていたのを見つけて家へ呼びました。それで、意気投合して春休みの間というか、パンクが直るまで二太くんは俺の家で生活させることに決めましたので。あ、俺は二太くんと同い年の男です。なので、ご心配なさらず、」 慌てて、二太は受話器を引っ手繰る。 「こんの…策士!もしもし母ちゃん?そういうこったから。また、電話する」 『もしもし!?ちょっと二太!!?』 無理矢理、電話を切った二太はじろりと、したり顔の卓也を睨みつける。 「お前って…結構、…すごいよな。なんか、いろいろと」 「ん?俺は、ただ夢くんに傍にいて欲しいだけなので」 にやりっと、ニヒルな笑みを浮かべる美形を前に二太は「腹黒っ!」と一声掛けて笑い合う。 「んじゃあ、よろしくな!」 「はい!精一杯、お世話させていただきます。じゃあ、早速ですが…今から、夢くんには俺と買い物に行ってもらいます」 「買い物?日用品とか?」 「まあ、それもそうですが…そうじゃなくって、夢くんが家にいてくれる間、やることも必要かなって。なら、少し手伝って欲しいことがあって」 「ああ、そういうことか。おう、いいぜ。一宿一飯の恩義じゃねーけど、これから世話になるもんな。俺で出来ることがあれば、なんでも手伝う!」 「これは頼もしい限りですね」 そうして、二人が向かったのはホームセンターだった。 その道中も、会話が途切れることは無く、それぞれの学校事情だったり、学力を比べあったり。 「夢くんは勉強は苦手ですか…。予想を裏切らない人ですね」 「お前こそ、なにその完璧っぷり。イケメンで、成績もいい。なんだそれ、」 「と、言われても…。逆に返しますが、そんな完璧でも、フられるんですよ」 「それは、…言うな。つか、俺…決めたわ。お前といる時は、ヤスのこと忘れる。思い出しそうになったら、それはお前が助けてくれ。お前も、俺といる時はセージのことは忘れろ。無理かもしれないけど、そうしよう。俺らにはきっと、忘れることが必要だ」 「……夢くんは、不思議な人だ…。すごく、不思議で…あったかい。じゃあ、俺もそうします。セージのことを思い出しそうになったら、夢くんが助けてください」 「おう、約束!」 「じゃあ、早速ですけど手、繋いでもらってもいいですか?」 「…は?手、手って…まあ、いいけど…」 すると、するりっと、大きな手が二太の手を包み込むように握る。 「夢くん、顔赤い」 「うるせー!手え繋ぐのなんて久しぶりだからなの!」 「かわいいなあ、夢くん」 「かわいくねえ!それより、なに買うんだ?ホームセンターって…洗剤とかそういう安く売ってるの箱買いとか?」 「いえいえ。ちょっとね、庭石を」 「にわいし?庭石って……もうお前んちの庭、石あるじゃん。ほら、四角い…」 「ああ、飛び石のことですね。いえ、飛び石の間に敷く小さな石が欲しくて。一人でやるのも楽しいですが、やっぱり庭をいじる時は誰かと一緒がいいなって思ってて。ああほら、着いた」 到着したホームセンターには、老人が多く見られ庭石コーナーにもやはり、老人の姿が見える。 そこで、卓也は迷いもせずに真っ先に、白い石を選びさっさと宅配サービスの手続きを済ませてしまい、二太はそれを傍でただ見ているだけで。 「じゃあ、三時に家で待ってますのでよろしくお願いします」 店員とのやり取りを最期に、卓也は二太のほうへと向き直る。 「あ、もう終わった?」 「はい。三時に家に宅配してもらう予定を組みましたから。ちょっと、疲れました?顔が、若干げんなりしてます」 「んー…疲れたってわけじゃねえけど、…俺アイス食べたい。さっきから、アイスの自販機が気になってさ」 「ええ、いいですよ。じゃあ、俺がご馳走してあげます。一緒に、来てくれたお礼に」 「え、いいのか?」 「はい。俺も、実は食べたいなって思ってましたから」 そうして、二人は自販機の前に立つ。 「夢くんはどれがいいですか?」 「俺はー…ダブルチョコ!タクは?」 「俺はそうですね…宇治抹茶にしようかな」 そこで、二太はぷぷっと、笑ってしまった。 「お前って、そういうとこも爺くさいのな」 すると、卓也の頬がぷっくりと膨らむ。 「人の味覚にケチをつけないでいただきたいものです。ほら、夢くんの」 「サンキュ!」 二人は店の中へ入り、休憩コーナーに並んで座って食べることにする。 そこでも話題は尽きず、けれどもどちらも、片想いの相手のことは口には出さなかった。 というよりも、二太に関しては忘れていた。忘れて、目の前で優しく笑んでくれる卓也に夢中で、そして話をするのが楽しくて、ふとそれに気づいた二太だったが、すぐにその想いを掻き消すように卓也に身体を寄せて笑む。 すると、卓也も身を寄せてきてぴたりと、二人はくっついた。 「夢くんの笑顔はなんだか素敵ですね。とてもいい、笑い顔だ。ん?ああ、アイス、口の横についてます」 「ん?どこ?」 「こーこ、」 ずいっと、卓也の顔が近づいてきたかと思えばぺろりっと、口の左端を唇もろとも、舐められてしまうのに二太は顔を赤くした。 「こっこらタク!普通に教えてくれよ!」 「夢くんのアイス、美味しい。というか、夢くんが美味しいのかな」 してやったり、の顔で目の前の美形が笑むのに、二太はさらに顔を赤くさせた。 「お前がなんか敬遠されてる理由が今!分かった気がする!」 「だって、かわいいんですからしょうがないですよ」 しかし、どこか悪い気はしない二太だった。というよりも、なんだかもっと違うものが欲しいような、そんな気さえする。 二太はその気持ちを押さえ込むように残りのアイスを頬張るのだった。 その後、卓也が茹でてくれたそうめんを二人で食した後、宅配を頼んでいた石が届いたので早速、作業を開始することにする。 「夢くんは、慌てなくていいからゆっくり、進めててください。飛び石を囲むようにして石を置いていってくださいね」 「うーい!」 それからはぽつぽつと、話をしながら作業を進めた二人だった。 先ほど交わした約束どおり、黙ればどちらかが喋りかけ、笑いあって時を過ごす。 案外、楽しい時だ。二太は、そう思いながら作業に精を出していた。 そうして、時刻は夕方に移ろい、卓也は夕餉の支度にかかるというので今日の作業を終えることにし、二太は慣れないことをした疲れか居間にて夕餉が出来る間、寝入ってしまっていた。 「夢くん、夢くん起きて。ごはん、できましたよ」 「んー…?ごはん…?」 「はい。今日は、親子丼を作りました」 「親子丼!!」 二太は、寝ぼけた頭が一気に覚醒したのを感じた。親子丼は、二太の大好きなメニューなのである。 もう既に、広い机の上にはほかほかと湯気を立てたどんぶりと、お吸い物そして香の物も並んでいて、二太は早速、手を合わせていただくことにする。 「いっただっきまーす!」 「ふふ。夢くんは元気だなあ。いただきます」 「うっめー!マジ美味い!!うちの母ちゃんの作る親子丼より数倍は美味い!!タク、お前すげえな!!わー、俺こんな嫁欲しい!!」 「いえ、嫁というのなら夢くんでしょう?俺も、夢くんをお嫁にしたいな。いつもこんなに明るい笑顔を見せてくれるのは嬉しい。かわいい、夢くんは」 「ば、馬鹿言うな!だから、かわいくないんだって!」 だが、卓也は満足そうににこにこと笑顔を浮かべていて、二太もそれ以上は言わないことにする。 つい昨日までは、安男のことが頭から離れなかったはずなのに、昨日の今日でなんたる現金なことかと思いつつも、目の前の卓也から目が離せなくなっている二太なのだった。 そして、風呂に入る前だった。 パジャマの持ち合わせが無いといった二太に、卓也はマメなことに昔着ていたという古着だが寝間着を差し出してきたのだ。 「なんか、悪いな。いろいろ、サンキュ!お前、気が利くなあ」 「まあ…、それもおじいちゃん譲りということで。さ、お風呂どうぞ。その間に布団、敷いておきますから」 「おう、じゃあちょっと風呂場借りるな!」 「どうぞ、ごゆっくり」 その、夜だった。 二太は、少し夕方に寝たからなのかどうなのか、なかなか寝付けずごろりと寝返りを打ったところで隣で寝ているはずの卓也がごそっと動き、立ち上がった気配の後、そっと屈み込んできたと思ったら、徐に横に寝転びぐいっと、身体を抱かれるのに思わず二太は腕を突っぱねていた。 「やっ…!」 「…起きてましたか、残念」 「た、タクなんで…」 「忘れたいんです、俺は一刻も早く、セージのこと。というか、夢く、…二太がかわいくて…。二太といる間、意識しなくても俺はセージのことを忘れてた。目の前の、二太が、気になって…すごく、気になって」 それは、二太も同じことで。 卓也の傍にいる間、安男のことなどこれっぽっちも思い出すことなど無く、卓也が感じているとおり、目の前で笑っている卓也のことが、気になっていて。 「タク……一緒に、寝よっか…。抱きしめて、いいよ……」 「二太…」 そろり、と卓也は二太の隣へと寝転び、するっと身体に腕が回り二人は一部の隙間も無く、抱き合った。 「タク…いい匂い……」 「二太も、いい匂い、するよ…。二太らしい匂い、する…。ドキドキ、する……」 そんな、卓也の言葉の後、部屋は静寂に包まれたのだった。 それからというもの、昼間は石の敷き詰め作業をして、卓也お手製の食事を摂りつつ、二人は距離を縮めていった。 夜も、卓也は一組しか布団を敷かないことに決めたらしく、互いの体温を感じつつ、眠っていたのだが。 ある、夜だった。 二太は、覚えのある疼きに、悩まされていた。 というのも、連日の作業に追われていて気づかなかったのだがだいぶ、長い間、自慰すらしていない股間が、文句を言い出しにかかったのだ。 しかし、ただ今は卓也が傍にいて眠っている最中。 そろっと、腕の中から抜け出した二太は、半勃ちした自身を感じながら布団から離れようとすると。 「…二太。どこ行くの」 その言葉と共に、がしっと足首を取られた二太はずるっと引き摺られて卓也の腕の中に逆戻りしてしまう。 「あっ!いや、その…ちょっと、トイレ。トイレくらい、行ってもいいだろ」 「俺…二太が勃ってること、知ってるよ。ここ、すごい膨らんでる…。溜まってるの?」 そんな、卓也は自身の股の間に二太を凭れかからせるように入れて後ろからその下半身へ手を伸ばす。 「あっ…!あ、あ、ッ…!や、だめ、だめだって、だめ、タクっ…!」 「俺が、気持ちよくしてあげるよ、二太のこと。だから、嫌がらないで俺の手を受け入れてよ、二太……ね…?」 二太に、否、という返答など、無かった。 卓也は、それに微かに笑った後、二太の下穿きを全て脱がしてしまい、丸出しの下半身を愛撫しにかかる。 「や、っあ…ッ!!ああ、ああ…!!やあ、タク…!!や、触って、チンポ、触って…!」 「んー?どうしようかな、そうだ。二太がちゃんとおねだりできたら、扱いてあげるし、イかせてあげる」 「あ、…ん、…。そ、んな…!」 「ほら、おねだりは?」 「んっく…た、タク…卓也…。タクの、手が欲しい…!タクの、キレーな手で、すっげえ善がって…かわいがってもらって、イきたい、…」 「……じゃあ、…キス、して。俺に。二太から」 「キス……?」 「そう。二太からキスしてくれたら、何でも気持ちイイコトしてあげる。だから、キス、して」 二太は、首を傾けて後ろを向き、腕も持ち上げて卓也の頭を抱え、そっと、特徴ある少し尖りのあるけれども薄く形の良い唇へ、自身のものを押し当てる。 「ん、んん、…」 そっと、離すとそれを追うように、卓也が唇へ吸いついてきて、二人は濃厚な口づけに暫く酔った。 しかし、どちらも初心者なので、上手くはいかなかったが興奮を呼ぶには充分で。 「ん、んっく、ふ、はふ…た、く…んん、たくや…!手、手え…!」 「うん。じゃあ二太、ちゃんと声出してね」 こくこくっと、必死で首を縦に落とした二太は、モノに絡みつく手の感触に背を震わせた。 「ああっ…!!あ、あ…!!んんんッ!!んは、はああッ!!やあ、やああタク…!!」 その手は、存外、慣れ切ったように二太の性器を余すところ無く刺激を繰り返してきて、そのあまりの快感に、二太は啼いた。 「あは!!あは、あんん!!タクッ!!んんああ!!卓也ぁ…!!イイ、ああ、イイ…!!すっげえ、じょうず…!あふ、あああん…!!」 「二太…二太かわいい…かわいい、二太…もっと、啼いて、啼いて二太」 「ひっぐ、んくううう…!!あああああ!!や、はやく、手え早くしてっ!!あっはあああん!!あああん!!」 卓也の手は巧みに二太を追い上げ、確実に絶頂へと導いてゆく。左手はタマを弄び、利き手の右手は、モノに積極的に絡み、悪戯にゆるゆるとゆっくりと扱かれたと思ったら思い切り握られ、皮が破けるのではないかと思うほどに激しく上下に擦られる。 「やあああ!!あああう!!ひあ、ひああ!!タクッやああ、イ、イくッ!!ああ、ああだめ!!だめ、タクッ!!」 「二太、もうイっちゃうの?もっと、かわいい二太見たいな」 「だめ、だめなの!!イくの!!ガマン、でき、ないッ!…あああ、あああ…!!」 「まあ、今晩はよしとしてあげよっかな。じゃあ、かわいい声出してイってね。ちゃんと、搾り出してあげるから。二太の」 「うん、うん…!!あっ…あ、あああああー!!やああ、んあああああー!!!ひあうッ!!あああん!!」 途端、卓也の手は絶頂へ導くべく、手淫が激しくなり、その刺激に負けた二太はあられもない声を出して達してしまう。 どぷっどぷっと、卓也の手に二太の精液が飛ぶ。 「あっあぐっ!!ひうッ!!ひうううッ!!……あ、…はあ、はあ、ん……」 「かわいくイけたね、二太。精液、すごい熱い…。二太の精液は熱いんだね。どんな味がするのかな」 「ん…?んは…タク…?」 二太は、快感でぼんやりする頭の中、卓也の行動を見守っているとなんと、吐き出した精液の絡んだ手を、徐に舐め始めたのだ。 「だっだめっ!!タク、タクだめ!!」 「ん…、さすがに、ちょっと不味いね。でも、二太のってこういう味、するんだ」 「や…や!もう、タクいや!!」 「二太こそ、すごいやらしい声出るんだね。俺、ちょっと驚いた。そんで…すごい、かわいかった。……やっぱり、二太はかわいいね」 「も、もう俺寝るから!タクも、手え洗って寝ろよな!」 「照れてる二太も、かわいい」 「うるせー!!」 そうして、あくる日だった。 二太は、そのまま下半身丸出しで眠っていたらしく、どうせなら穿かせてくれてもよかったのに、とそう思いながら隣の卓也を見る。 相変わらず、綺麗な顔だと思う。そして、昨日のことを考える。目の前で眠る人物の手で、達してしまった。安男のことなど、思い出しもせず、ひたすら卓也の手淫に溺れ、名前をひたすら呼んで、絶頂を極めてしまった。 はしたないことだとは思えど、何故かまったく、嫌悪は無かった。それどころか、妙な清々しささえ感じるほどだ。 思わず、二太は朝日を浴びて輝く白い頬に手を這わせてしまう。 「さらさら……」 「ん、んん…」 薄っすらと、卓也の目が開き、目線が交わるとその目は弧を描き二太の頬や額に口づけを落とし始める。 「わ、わっ…!ちょ、おい、タク…!」 「おはようございます、夢くん」 「や、おはようはいいけど、…あ、っちょ、」 その唇は、二太のそれに当てられ、軽く吸われる感覚に、二太は自身の顔に熱が集まるのを感じていた。 「タクってば、っ…!」 「二太…昨日はすごく、かわいかった。ね…?今日もそんな顔、見せてくれる…?」 「だ、だめ!も、もうだめ!だって、これ以上行くと……俺、その…」 二太は、次に続きそうな言葉を、慌てて飲み込んだ。 これ以上は、言ってはいけない。安男にフられて、月日もさほど経っていないというのに、移り気など。 とは思えど、二太は薄々は感じていた。きっと、このまま行けば、卓也に気持ちが移るということを。 それからだった。 毎日、卓也は二太の身体に手を伸ばすようになり、そしてキスを要求してくる。何故かは分からないが、卓也はキスだけは二太からさせるのだ。 流されている、と思う。二太は卓也の唇に自身のものを押し付けながら、そう思った。 卓也は、セージのことはもう、忘れてしまったのだろうか。けれど、それに関してはなにも言えない二太だった。 二太も、分からなくなっているのだ。安男が好きなのか、卓也を好きになってしまったのか。分からないまま、卓也の手淫に溺れ続けている。 そんな、ある日のことだった。 庭の石の敷き詰めは、今日、完成した。日にちにして、八日。 見事に仕上がった庭を二人で眺めながら冷やした日本茶で喉を潤している最中のこと。 遠慮がちに、そっと開く門扉に始めに気づいたのは二太だった。 からからから…と、開いた扉からそろりと、小さなそしてかわいらしい、女子と見間違えそうなほどに華奢な少年が、門扉から顔を出し目線を泳がせている。 その目は、卓也に焦点が合わされにこり、と笑む。 「卓也、…」 男子にしては、高めの声が卓也を呼ぶ。そこで、卓也も漸く、その存在に気づくことが出来、その名を呼び、聞いた二太は目を見開いた。 「セージ……」 「卓也、俺、…来ちゃった。少し、話があるんだけど…」 その目線は二太へと移り、慌てた二太はどんと、卓也の背を叩く。 「タク、行って来いよ。俺は家で待ってるから」 「え、けど……」 「いいから、行けって。セージが呼んでるぞ」 「あ、…じゃあ、俺ちょっと、出てきます。あの、なにも言わないで勝手に帰らないで…くださいね。絶対に、ですよ」 「帰らないって。ほら、行って来い」 二太は、無理矢理に笑顔を作りもう一度、卓也の背中を叩いてその後姿を見送った。 あれが、セージ。 随分と、かわいらしい男だと思った二太だった。それと同時に、敵わないとも、思った。あれだけかわいらしいのだ。それは、卓也でなくても堕ちるだろう。あの様子だと、きっとセージは卓也に想いを告げに来たに違いない。少し頬を赤くしていた。 「……そういえば、…もうじき、春休みも終わるな…」 そんな独り言を零した二太は、無意識に自身の荷物の整理を始める。そろそろ、自宅に帰らねば。帰って、卓也を忘れねば。 それから、一時間後くらいだろうか。卓也が微妙な顔をして帰宅した。 「ただいま」とも言わず、縁側に座っている二太の隣に、放心状態で腰掛けてくる。 「おかえり、タク」 「あ、はい。ただ今、帰りました…」 「あ、なあ。セージって…すげえかわいいのな。俺、ビックリした。あんなかわいい男子っているんだな。漫画の中だけとか思ってたけど…」 「はは。夢くんだって、かわいいですよ」 暫く、沈黙が続き、それは卓也から破られた。 「……俺と、付き合ってくれるって、そう言ってくれました。好きだとも、言ってもらえました。…セージに」 「そ、っ…か。よ、よかったじゃん。報われたな、お前の恋」 「…けど、俺…どうしたんだろう、あんまり…嬉しくないんです。いえ、あんまりどころじゃなくちっとも、嬉しくない。それよりも俺は、夢くんがこの家からもうすぐ出て行ってしまうことの方がつらい。夢くんと、ここでお別れなんて…」 「タク……」 「夢くん、夢くんは……忘れられませんか?ヤスさんのこと。俺では、いけませんか?俺では、ヤスさんの代わりにはなれませんか。俺は、夢くんを抱きたい。夢くんが…好き。二太が、好き…!」 「ば、馬鹿言うなよ…!折角、実った恋だろ?好きなんだろ、セージのこと。あんなに、泣いてたじゃんお前。…俺なんて…タクはすぐに忘れるよ。だから、…んっ……!!んんん…!!」 二太は、急に伸びてきた卓也の腕の力に逆らえず、その唇は卓也のもので塞がれる。 「んっんっ…!んんん、た、く…!」 するりっと、入り込んできた舌のぬるぬるとした感触に身を震わせるとそっと、離れていく唇。二太は、それをぼんやりと眺めた。 「二太……二太、抱かせて二太。……もう、これっきりだって…二太が言うなら…俺に、二太との思い出をちょうだい…!」 卓也は、情熱的に二太の両手を取り、絡め合わせる。 二太に、否、という返事など、無かった。 一度だけ、二太に口づけた卓也は、奥の部屋に入っていってしまい、そうして持ち出してきたのは布団だった。そしてまた部屋を出て行くと、今度、手にしていたのはなにかはよく分からないが筒型の容器だった。クリームかなにかだろう。どうやら、本気らしい。 卓也は、本気で二太を抱こうとしている。それが分かった二太は、浅ましくも股間を膨らませてしまう。 「……二太、服脱いで、こっち来て」 二太は、無言で頷き、縁側から居間へ移動する際、次々と服を脱皮するように脱ぎ捨ててゆき、全裸になったところで布団の上に、腰を落ち着けた。 そんな二太の頬を、卓也は優しく撫ぜる。 「二太、こういうことするの…初めて、だよね?」 「……ん…。俺の、初めて…タクにやる」 すると、目の前の卓也の大きな喉仏がごぐっと上下する。 「俺も、初めてだから上手く、出来るかどうかは分からないけど……二太も、俺を助けてね」 「うん……。じゃあ、…タクも、服脱げ」 卓也は、それに頷きするすると服を脱ぎ始め、露になる裸体に、二太も喉を鳴らしてしまう。全裸になって分かったことだが白さが際立ち、それと共に上を向いた性器に、二太は頬を染めた。 「た、タクの……すげえ、でかいな。なんか、俺のとは…ちょっと、違う」 「二太は…毛が、生えてないよね。生えない、性質なのかな。その方が、俺は好きだけど。二太のソレ、子どもみたいでなんかかわいくって、弄びたくなるよね」 「もて…?あそぶ……?」 「うん。ね、二太。俺の、膝の中に入って。扱き合いっこ、しよ?まずは、ここから。俺、二太にココ触ってもらったこと無いし」 二太は、無言で足を広げている卓也の膝の中に入り乗り上げるようにして足を広げて座る。 「わ、…!二太、大胆…!」 「タク……タクは、…」 「うん?なに、」 「いいや、……。なんでもない。それより、扱き合いするんだろ?タクのチンポ、やらしい色してる。擦ると、どんな色になるんだろうな」 「二太のは、そんなに色変わらないよね。……じゃあ、始めよっか…」 卓也は、大きな手で二太の、小さめの性器を握りごしごしっと、擦り始めるのに思わず、二太は腰を捩らせた。 「んあっ…!!あああ、…!!」 「二太、俺のも」 「う、う……」 二太は、性器から響いてくる快感の中、そそり勃った卓也の性器を握る。その、熱さに二太は少し、驚いていた。他人の性器など、触るのは初めての二太だ。 何故だか、その屹立して涎を垂らす卓也のモノを愛おしく思えた二太は、夢中になって扱き始めるのに卓也は色っぽい溜息を何度も吐き、そのたびに二太も興奮する。 それの繰り返し。 二人は手淫に溺れ、爆発寸前まで高めあったその時に、本来の目的を忘れていたことに気づいたが止まらないものは止まらなくて。 「あっあっ!!だ、だめ!!だめタク!!俺、イきそう…!!っていうか、イく…!!ああ、うああ…!!」 「俺、も…だめ、かも…ねえ、ねえ二太。もう一度イける…?イけないなら、俺、二太のナカに出したい。このまま、挿れちゃう形になるけど…」 「んっん…?イ、けなくは…ない、多分…。だって、俺すげえ、興奮してるもん…!!タクと、こうしてるの、興奮、する…!!たまらなく、気持ちがイイ…!!」 「じゃあ、一度、出しておこう。いいね、?」 「う、うん…!手え、早く動かしてくれな。俺も、そうする…!」 「……二太、すき…」 「ばか…!ば、ああああっあああんん!!」 いきなり激しくなる手淫に、限界に来ていた二太のモノから、勢いよく精液が飛び散り、二太は咄嗟に卓也のモノの先端に爪を食い込ませ、共に射精を強請った。 すると卓也のモノからも、大量に精液が噴き出し、二太の精液と卓也の精液は二人の腹で交じり合い、どろりと糸を引く。 「あ、はふっはあっ…!ん、タク…」 「は……二太、爪ひどいよ…!痛かった」 「でも、気持ちよかったろ?」 にっと、二太が口角を上げると、卓也も釣られて笑み、どさりっと、体重を掛けて二太の身体を布団に押し倒す。 「あっ…!!」 「二太?お尻……アナルだけど、始めは違和感があるかもしれないけど…進めちゃうからね。もう、俺、止めないから」 「んっ…いい、別に…止めて欲しくなんて、ない…。全然、ない…タクが、欲しい…!!挿れて、めちゃくちゃにして欲しい…!!」 「二太……」 「早く、指、…挿れろ。俺の気が変わらないうちに、…早く…!!早く、タクに揺さぶられたい…!!」 その、二太の熱に浮かれた様子に、卓也の股間は先ほどよりもさらに、勃起度が増してくる。クリームの蓋を取った卓也は、中身をたっぷりと、手に取り二太の後ろへと、塗りつけ始める。 「二太の、ココ…すごい、動いてる。ひくひくしてるよ、」 「や、言うな…!!」 「じゃあ、指……挿れるから。いいね、二太?」 「はやく…!!」 卓也は、思い切って指をナカへと入れ込むことにする。 そこは、クリームのおかげかすんなりと、中指が飲み込まれてゆくその視覚的なエロチシズムに一気に気持ちの高ぶった卓也は、遠慮の欠片も無く、二太のそこを拡げにかかる。 「あっあっ!!やあ、やああ!!そ、んなに…!!はげしく…そ、んなっんああ、あああ…!!やあ、やああ!た、タク落ち着いて、くれ、ってあああ!!」 「だめ、二太これはだめだ。俺、もう挿れたい…!!ごめんね、二太。二太ごめん」 「は、…っあっぐっあああああ!!ああああー!!!あああー!!」 卓也は、モノをぴたりと二太の秘口へと押し当て、一気に、二太のアナルを刺し貫いた。 「うああ、ああああ…!!き、つい…!!ああ、ああ…!!おれ、のナカに、…たく、が…!!たく、がいる…!!」 「いるよ、二太。感じる?感じるなら、もっと感じさせてあげる」 その、卓也の言葉に、二太は背筋という背筋が震えるのが分かった。 期待、なのか恐れ、なのか。未知の、感覚に二太は身を硬くするが、それ以上に卓也の責めが激しく、わけの分からなくなった二太は、ただただ、喘ぐしかなく。 「ああっ!あっあっあっ!!うあっんあっ!!ひぐ、あぐっ!!いや、だめ、だめタク!!た、タク!!聞いてタク!!」 「聞かない、俺はなんにも聞かない。二太のナカ、感じてたいから聞かない」 「んぐ、ふぐう…!!あぐううー!!ひ、ひっっ!!た、タク…!!奥、奥に押し込めて!!押し挿れて、限界まで、チンポ挿れて、ガクガクして…!!」 「イイトコ、探すの?」 「んっんっ!!なん、か…気持ちイイトコ、ある、気がする…!!」 卓也は、二太の腰を引っ掴み、その通りにしてやると一箇所、手にかいた汗が原因で腰を掴んでいた手が滑ってモノが二太の右奥を思い切り突いてしまった時だった。 「ひっ…!!ぎゃああん!!」 「っ二太!?二太…!?」 「ああ、ああ…!!た、タク…そこ、そこ…突いて、突いて、突いて突きまくって…!!」 どうやら、二太のイイトコロは見つかったようだ。 卓也は、二太には分からぬように口角を上げ、さらにきつく腰を引き寄せてそこばかりを穿ってやると、まるで狂ったように首を打ち振るい、二太が善がり始める。 「あぐ、あぐう!!ひぐう!!ぎゃん!!あああ、ッ!!あ、あ、ああああー!!あっ!あっ!んん、んんああ…!!いや、いやだめ!!こえ、とまらない、よお!!」 「止めなくても、いいでしょ二太。聞かせてよ、二太のイイ声」 「ぎゃぐ!!ひぐ!!あぐ、あぐうう!!こ、の…ドエロ…!!ああああん!!だめえ、だめええー!!」 「だめだめって、ホントはイイくせに。嘘吐きな二太には、もっと激しくしてあげないとね」 「ひっ…!?ひっあああああー!!あああー!!ぎゃああん!!ああ、ああ!!そこッそこッ!!すごい、感じる…!!あっ!!ああ、ああだめ、だめええ!!」 ぱちんぱちんと、互いの肉のぶつかり合う音と、クリームが結合部で泡立ちごぷっごぷっと粘着質な音を立て、それと共に二太の性器から溢れ出した先走りの液がぴちっぴちっと飛ぶ音が二人の耳を刺激する。 「ひぐ、あぐ、あぐうう…!!うぐうううー!!だっだめ、!!俺イく!!た、タク、タクも!タク、っ、もいっしょに、イこうよお…!!」 ゆさゆさと揺さぶられながら、二太は首を後ろに捻ると、なんとも色気のある美形がはっはっと吐息をついて唇を舐める。 「んん?イくの?未だだめ。未だでしょ?二太」 「んっく…!!だっ…!!じゃ、…イイトコ、ばっか突くなあ!!で、ちゃう!!」 「イイトコ突かなきゃ、愉しくないでしょ。だめだな、二太は」 「ぎゃん!!ひぎゃん!!だ、ゆ、るして…!!だめ、なんだって…ばあ…!!もう、ゆるして…!!イ、かせて…!!」 「…仕方ないな。二太かわいいから。じゃあ、ラストスパート」 「えっ…あっ……!!あっぐっひっぎゃああん!!あああああー!!あああ、あああー!!で、る――!!」 二太は、身体を何度も跳ねさせ、二度目の精を思い切り、自身の腹に撒き散らしてしまう。と同時に、胎内の奥深くに大量の熱が吐き出される感覚を、存分に味わう。 随分と、気持ちがいいものだと思う。 「あ、あ…はあっはあっ……はひい……」 「二太、…二太のナカに、出しちゃった」 「ん…別に、気にすることも、ねえよ。っていうか、すげえ…きもちよかった……」 「俺も…」 卓也は、最奥に収めていたモノを抜き出すと、ごぼりっと、秘口から白濁液が零れ落ちてくるのを、他人事のように眺めながら、二太に覆い被さり口づけを強請る。 「ん、ん……んは、」 「二太、かわいかった。すっごく、二太はかわいいね」 「……セージよりも?」 「え?」 「いや、…なんでもない。ちょっと、…寝るか。俺、なんか思いっきりイったからかなんか眠くてなー」 「じゃあ二太、俺の腕の中に来て。前に、二太言ったよね?包み込んで欲しいって。俺じゃ、だめかな。二太のこと、包み込んであげたい」 「……うん…。そうだな、その方が俺も幸せかも。タクの傍に、ずっといたいな」 「いればいいよ。二太、引っ越してきてよ。俺と、暮らそう」 「んー…それはちょっと、無理かもしれねーけど…タクがそう言うなら、考えてみよっかな。いいから、寝ようぜ」 二太は、布団に寝転びながら大きく腕を広げる卓也の胸に寄り添うように、自身の身体を横たえる。すると、すかさず身体に長い腕が回る。 「今日の夕ごはんは、二太の特別好きなもの、作ってあげるからね」 「楽しみに、…しとくな」 それから数分の後、卓也から穏やかな寝息が聞こえ出すのに、二太はそっと腕の中から抜け出す。 そうして、先ほど脱ぎ散らかした服を身に着けて、居間の隅に置いてあるリュックサックの中身をおざなりに確認した二太は、それを手に部屋を後にしようとしたが、暫くの思案の後、電話機の横に置いてあるメモに自身の家の住所を書き記し、ぽつりと一言。 「……さよなら、卓也」 その言葉を最期に、二太は自宅への帰路に着いたのだった。 家に帰るなり、母親に怒鳴られ、仕事から帰った父親にも怒られた二太だったが心は常に、卓也の元にあった。 何故、あんな書き置きをしたのか。あれでは、迎えに来てくれと言っているようなものだ。けれど、卓也には失恋してあんなに大泣きしたほどに好きだった相手から交際を認めてもらえたのだから、自身の出る幕ではないことくらい鈍感な二太だって分かっている。分かっていながら、書き置きを残した。 なんとも、未練たらしいことだと思う。思うが、どうしても黙って出てくることは出来なかった。世話になったお礼と、そして卓也への想いを篭めて、メモに住所を書いた。 しかし、それが報われることはきっと、ないだろう。 二太は、そんなことを思いつつ、久しぶりの自室にて眠りに就いたのだった。 その、あくる日のことだった。 休みの間中、母親は二太が遊んでいたと思っていたらしく、その償いのつもりで買出しに駆りだされた二太は、醤油のボトルを片手に道を歩いていた。 その道中、ふと思い立った二太は通っている中学校へ寄ってみる気になり、ふらりと足を運ぶとそこは見事な桜並木が続いていて、花は八部咲きくらいだろうか、薄桃色の小さな花弁のそれは二太の目を楽しませてくれていたのだが、まだ家には帰りたくなかったので学校の隣の小さな公園にて、設置してある自販機でジュースを買った二太は小さなベンチに腰掛けて独り、卓也のことを考えていた。 怒って、いるだろうか。それとも、今ごろはセージとデートの最中だろうか。 無言で、缶を傾けていた二太だったのだが、その耳に、馴染みのある声が入り込んできた。 「よお、二太!」 「や、ヤス……!」 「お前、どこ行ってたんだよ。俺、お前んちに何回も電話したんだぜ」 安男は、どこか薄気味の悪い笑みを浮かべ、どかっと二太の隣へと腰掛けてくる。 「あ…、ちょっと、…旅に、出てた」 「たびー?つか、旅って…俺にフられた失恋旅行とか?つかさ、俺やっぱ、二太いないと寂しいなって思ってさ。なあ二太、」 「うん…?」 「ヤらしてくんない?」 「え、…」 「いや、だから…二太って俺のこと好きだろ?なら、いいじゃん。俺さ、一度でいいから男とヤってみたかったんだ。いいだろ?」 「や、やだ。……絶対に、いや…」 「二太ー?ひどいことはしないし、お前だって男とヤってみたいんだろ?お前、男好きじゃん。挿れてやるよ、お前のケツにさ。俺の、太いやつ」 「い、いい…!俺、帰る…!!」 以前なら、きっと頷いていただろう。喜んでもいただろう。しかし。 「おい二太!!待てよ、!」 「お、俺…その、そういうのはいい!!間に合ってる!!」 「いいだろ、ヤらせてくれよ。ちゃんと、付き合ってやるしイかせてもやるから」 「だから…!!」 二太は、飲んでいたジュースの缶を乱暴にベンチに叩きつけ、そのまま立ち上がろうとするが、安男はその身体に乗りかかるようにして、二太をベンチに縫い付ける。 「お前なあ…あんま、処女観念とか古すぎねえ?お前が好きな相手が欲しがってんだぞ。ヤらせんのがフツーだろ!ほら、下脱げよ!!」 「あ、っ!や、やだっ!!い、や、ッ!!」 「こんなとこ誰も来ねーし、いいだろ。外ってのもさ。お前だって、勃ってんだろ?顔が赤いぞ」 「ち、が…!!や、だ…!!いや、やだ…!!た、タク…タク!!タク助けて!!」 下穿きを半分、ずり下ろされながらつい出たのはこんな言葉だった。 「タク…!!」 「タクってどいつだよ。つか、名前呼ぶなら俺の名前呼べよ。つまんねーやつ!ほら、腰上げろ!!上げろってば!!」 「いやッ!!やだ、やだ、あっあ!!タク!!」 遂に、下半身から全ての衣類が剥がされそうになったその時だった。半分、二太は諦めていた。このまま、安男にいいようにされるのだと思っていたその時。 通りのよい、低めのキーが二太を呼ぶ。 「二太!!」 「っ…た、タク!!タク、タク助けて!!」 何故この場に、卓也がいるのかは分かりかねたが、逢いたかった人物が目の前にいる感動に、二太は無理矢理に安男から離れ、下穿きを引き摺りながら卓也の胸にしがみつく。 「タク…!タク、タク…!!」 その様子を、呆然と眺めていた安男から、低い声が漏れ出す。 「おい二太、てめえ…!早速、違う男見つけたってか?ふざけんじゃねえよ!こっち来いよ二太!!」 その声に、怯えた二太はますますきつく、卓也に身を寄せる様に、安男の苛立ちは増す。 そんな安男に、卓也は静かな声で牽制を入れた。 「二太に、乱暴をするな…!!俺が許さん…!!俺は、二太の男だ。あんたじゃない。二太は、俺を好きになったんだ。それに、本当に二太が好きならあんたみたいな真似なんて、出来ないはずだ。あんたは、二太を好きじゃない」 その、図星の言葉に、安男は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。 「こんの、ホモどもが!!気持ち悪いんだよ!!おい二太!てめえがそんなに尻軽だとは思わなかったよ!勝手にしろっ!!」 安男は足音荒く、その場から立ち去り、静かな公園が戻ってくるのに二人は黙って見つめあった。 暫くの後、卓也は二太の頬へ手を滑らせながら言葉を紡ぐ。 「二太…どうして、黙って出て行ったの?俺、傷ついた。すごく、傷ついたから二太を探して、ここまで…来たよ」 「だって…、だって、お前にはセージがいるだろ?お前は、セージと幸せになるんだろ?タクは、セージが好きなんだろ…?」 「……ううん。俺、言ったよね?二太が好きって、ちゃんと、言った。俺の好きな人は、セージじゃない。俺は、セージとは付き合わない。付き合うなら、二太がいい」 思わず、二太は瞳に涙を溜めてしまう。 「俺…も、タクが、…好き……。住所、書き残したのは…追いかけてきて、欲しかった…から。俺はずっと、いつも追いかけてばっかだったから、一度でいいから追いかけられてみたかった。タクに、追いかけてきて欲しかった…!」 すっと、二太の頬に伝った涙を、卓也は優しく指先で払ってゆく。 「俺も、俺もね…そうだよ。二太も不思議に思わなかった?どうして、二太にばかりキスを要求するのか。…俺も、二太に好かれてるって、そう思いたかったから。二太に追いかけてもらってるって、思っていたかったから」 「タク……」 「二太、…俺と、付き合ってください。真剣な、付き合いをしたい。二太と」 真剣な、表情の卓也を、二太はじっと見つめ続け―― 静かな答えが、口をついて出る。 「はい…。俺で、よければ。俺も、タクと真剣に付き合いたい。…ど、同棲も、含め」 旅って、いいな。 旅って、いいよ。 だってこんな出会いも、あるんだから。こんな、夢みたいな出来事も、あるんだから。 人生の旅も、悪くない。 Fin.
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