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「水葬」谷竜一 (優秀作品賞) 先ずは、導入部から引き込まれます。 電子メールをイメージの召喚具として採用した作品は、さして珍しくないでしょうけれども、ここで着目するのは、人称代名詞の不在ですね。つまりは親近者宛のメールとは往々にして、そうしたものなのだけれども、そうしたものだと改めて認識する、させられる読み手。 また、その、ゴロンと置かれたメールの、気付きにくい異様さ。改行の単純な間違い、変換忘れ、「を」を押したつもりが「 」と表示されていた、という経験は、携帯ユーザーならあるはず(つまりは、これが所謂インターネット詩に散見される誤字・脱字・送り仮名間違い等にも繋がるのだけども、それはまた別の話)なのだが、かくして普遍的な、無意識による混濁の提示が、さりげなくあり(これは隠された主題でもある、かもしれない)、以後は、水の様々な描写を伴う「喪失」と「再生」が「母」というフィルターを濾しながら繰り返されていく。 過剰を排し、説明を放棄しつつ、ある種ストイックですらある淡々とした記述が、静けさの淵から異様な場面を次々と屹立させる仕掛けだけども、様々な読み方も出来るであろうテキストととしての懐の深さにこそ着目したい。 洪水で生還した、たった二人は既に死者である、とも読めるし、痴呆の介護の現実的な重さや、或いは、その水が今まさに溢れている、とも読める(その他にもあるが、それは各々の読み手に委ねて構わないのだろう)。 最終連はストンと落ちた断定で了となる、にもかかわらず、満ち足りた得心に殆ど導かれなかったままであろうはずの読み手は再度、最初から読もうとする意識が働く。 個人的には、ここがポイントでしたね、幾度も読んで、にもかかわらず、擦り切れて無くなるどころか、不思議な味わいにをもつ刺激的なテキストとして新たに登場する、その顕れ方にこそ本作の醍醐味があるのです。 読み手を、その読み方を問わず飽きさせない束縛しない、そうした素朴な味わいを持ちつつも、崩れる寸前のような輪郭の不確かさこそが魅力的な、不死のテキストという意味で、比類なき傑作であろうと思います。 説明の結果としてのイメージを限りなく排した、つまり、理解に依存して読み進めていくタイプの作品ではなく、タイトルと導入部のメール文と詩文との奇妙な乖離の隙間から次々と立ち上がる詩情が美しく揺らめく作品でしょう。 予め置かれたメールの持つ欠落や誤謬が、作品の内実にまでおよび、それを侵していくさまの、確たる像を結んだり言語化するには曖昧ではあるけれども凛とした諦念にも似た心象が、ぬるやかに浮かぶ。いたずらに「共感」を得ようとして書かれているのではない端正な筆致が、それをより際立たせているようにも感じます。 一つきりのポイント付与を、晴れてグランド・チャンピオンとなった「六月の雨に少女の祈る」と本作とで締め切り直前まで随分と迷いました。が、本作は携帯で読んでも、テキストとしての姿にさしたる遜色はなかった、その閲覧プラウザを選ばないユーティリティーさの差異は個人的に重要でした。 次々とイメージが炸裂する刺激的な「六月の雨に少女の祈る」、に対して、静やかな立ち振る舞いを保とうとしながらも溢れていく「水葬」、いずれも、一種の「(根源的な)どうしようもなさ」を抱えた、素晴らしい作品です。 にしても、「六月の雨に少女の祈る」、「水葬」、「無題(1)」、「水を捨てる」、「一杯」、これら別々の審査員によってポイント付与された五作品すべてが「水」絡みであったことも興味深いものがありますね。題材として使い勝手がよいだけではない、何かしらの因縁めいた引力を感じます。 ところで、いかなる形態であれ、それに付随する、または、せざるを得ない権威がどのようなものであれ、「賞」とは、ある程度、咨意的なものであり、またそうならざるを得ないでしょう。故に、その限りにおいては受賞作品もまた然りかもしれませんが、しかしながら、その対象が、こと文学であるのならば、それは掲載メディアを選んではならない、と私は考えます。 PCですら読み手の設定によってはテキストの姿が豹変する時代ですから、そうしたハードルを越える作品なくしては、詩の未来は果てしなく暗い、とも。 また、私(達)は当企画審査員として「選ばせていただいている」という謙虚な意識を忘れてはならない、と、これは自戒ですけれども。 本作に限らず、百回なりとも読ませていただく、それを以て誠実性を主張してもならないとは承知しつつ。 なお、蛇足ながら本作の作者はインターネット内外に於いては、けして無名ではないこと、付記させていただきます。もとより、詩作に如何なるキャリアも無縁かもしれませんが、様々な創作活動の過程で結実した、作者としても誇っても許されるべき傑作であることは確かですから。 往々にして「詩」とは、「何処に出しても恥ずかしい」ものでありがちですが、本作は、さにあらず。 優秀作品賞受賞、おめでとうございました。
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