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特段に感銘を受けた応募作品は上述させていただいた二作品に留まったのですけれども、巧みさや記述の妙、或いはそれ以外に関して、上記作品を部分的にではあっても凌いでいるのではないかと思われたり、個人的に感じ入ったり印象の強かった応募作品につきましても、簡単に触れていけたら、と思っております。 日数の御猶予はいただきたく存じますけれども、各受賞作品から惜しくも選外となった作品まで、取り上げて参ります。 「水を捨てる」宮下倉庫 (優秀作品賞) いかようにして「世界」を創るか、その筆の緻密な巧さには卓抜なものがあると感じますね。まずなによりも、これだけ「書ける」作者は、現役の詩人にもそうは居ないでしょうし、箱庭的な細密画のような心象を描かせたら日本で一番かもしれないです。とりわけ、インターネットで詩を読んでいる若い世代には、谷川俊太郎さんは知らなくても、宮下倉庫さん、吉田群青さん、中村かほりさんなど(それぞれ筆致は異なりますが)の名前は相当に浸透しているようです。 また、駄作を殆ど公開しない書き手としても広く知られていますね。 さて、「水を捨てる」、あらゆる有用ではない無駄を排し、隅々まで抑制の行き届いた(これもまた「美」です)詩文に仕上がっているのではないでしょうか。 谷竜一さんとはまた違った、殊更にストイックな筆で、こちらはどちらかといえば無為無用な熱量を嫌うタイプかと思われます。宮下倉庫さん独特の乾いた美学が薫る佳作ですね。 ただ、水イコール何か、たとえばそうした話者の説明が、読み手への問いとして渡される場面で、読み手が作品についていけなくなることも想定され得る。完成(適当な言葉ではないかもしれないですが)された作品が持つ宿命的なテーゼ、というと大風呂敷過ぎますけれど、破綻の欠片も無いが故の妙な白々しさが、作品から親和力を悉く奪っているように感じられてならないのです。もちろん、破綻があればそれでよい、という簡単な話ではなくて、おそらくは丹念に描かれたであろう隙の無い作品世界が読み手に対して開かれているかどうかに些細ではあるけれども疑義を挟む余地が見受けられる、これは(私見ですが)作品の構造云々や個人的嗜好とは離れたところでの、本末転倒ともいうべき作品の敗北のような気がしてならないのです(それはそれで構わない、ともいえますが)。 ダーザインさんが選評で述べておられた、読者を選ぶ詩、これは所謂「現代詩」と呼称されている詩作品の大半が陥っている自家中毒のようなものではないかと門外漢としての私はひそかに危惧しておりますけれども、本作もまた、その罠から完全には逃れおおせていないように感じられてならないのですね。 いや、これを読まれた作者や、その作品群の心酔者諸氏は相当に気を悪くなされるかもしれませんが、(たとえば)エクリチュールが内と外の何れに傾いているかどうかや、意味/反意味についてとか、表出と潜在の詩文や言語の差異や異化とか、まぁ、何でもいいですが、そうしたアカデミックな要件を以て本作を絶賛するのは容易いでしょうけれども、それよりも、読み手との距離感の方が気になりました。それを指して「クールな距離」と支持するには些か離れ過ぎているような印象がありますので。尤も、これはあくまで私見ですから偏向もあるでしょうし、実際、他の審査員の方々は、かなり好意的なコメントを付けておられるようです。 なお、この書き手は、どんな口煩い大詩人もそれを読めば黙る名作「スカンジナビア」の作者でもあることは周知の通りです。 そうした、才ある書き手が、評論家の称賛を浴びるよりも私ごときただのオッサンに「また読みたい」と思わせる方がはるかに難しいと知らないはずはないとも勝手ながら思っておりますけれども、作者自身、即興詩に振れてみたり異なったベクトルに寄り添ってみたり等々、様々な試行錯誤による実験や格闘を地道になされているさまを拝見しておりますので、今後どのようなものを発表されるのか注目してます。 最後に、宮下倉庫作品に通底する独特の薫り(これは本作にも顕著ですが)、それが実は、情緒的な湿度を排したところから漸く立ち上がるもののような印象が強くあり、であるからこそ「乾いている」ともいえるでしょう。水を題材として選び取りながら些かも濡れていない乾いた強度、そこにもまた(見過ごされがちな)美が磔にされたように直立している、百万回の鑑賞にも耐え得るであろう見事な作品ですので、審査員特別賞として挙げさせていただいた次第です。しかし、その長所が「距離」を生み、作品が読み手に称賛され敬われることはあっても愛されないのではないか、私にはそんな懸念が残りましたね。 なお、この作者の、もう一つの応募作品につきましては、それなりに書けてはいますが少しばかり足りない印象がありました(機会があれば触れたく存じます)。 過剰な期待の裏返し、かもしれませんが、まだまだお若いので様々な筆を試していただきたい、小器用に完成してほしくはない、そうした身勝手な読者の期待を良い意味で裏切ってくれそうな、そんな数少ない詩人の一人として、宮下倉庫、ぜひ皆さまにもその名前を記憶されたいと願います。 優秀作品賞受賞、おめでとうございました。
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