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「でたらめ」泉ムジ (審査員特別賞/推挙・ダーザイン) 軽妙な流れとチャーミングな空気の小品ですね。 吉田群青さんとは逆に、この書き手は、それと悟られぬように技巧を凝らして読み手を楽しませてくださるエンターテイナーでもあり、その才には注目すべきでしょう(予めそれに恵まれておられたとは思えません。それは他ならぬ「努力」によってこそ彼に備わったものであると推測しておりますが)。 さて、泉ムジさんが一連の作品に忍ばせている「犯罪」シリーズともいうべき仮テーマ、家庭内暴力や強姦などに続く本作は、多少、射程を短くした「のぞき」、ディテクティヴ、です。 執拗に覗く側の話者を「猫」として召喚することにより、下世話なあざとさが立ち現れるかもしれない作品強度の傷を犠牲にしてまで、親和力のある空気を漂わせることには成功しているといえるでしょう(これは、生理的欲求を犠牲にして見張りを続ける猫が抱いている強迫観念、という図式にもリンクしますね)。 過去への不満と受容、それと対比させた現在であるが故の過去とは色の異なった不満の記述と、それに向けられるパラノイア的な拘りの表明が、「ポエム」へのひとかたならぬ憎悪として(単に、書き手の自虐であるかもしれないが)語られる、その話者が猫であることにより、また、その口調が推測と断定の狭間で揺れ動きながらも、浅はかで飄々とした口調が用意されていることにより、さほどの質量も湿度も感じさせない、この辺りは実に巧いですね。テキストを俯瞰した場合にも実際に触れた場合にも、読み手に圧迫感のような抑圧を与えない、濃いものを淡く読ませる、そこに泉ムジ作品の人気の秘密があるのです。 ただ、本作につきまして、主客の視点が入れ替わる際に、わざわざ「ラベンダー」を持って来たところに興醒めするのは否めませんでした。 実際には丁寧に施されたであろう仮構の場に、柔らかく連れて行かれた筈の読み手が醒めるに充分なほどにイメージ喚起力が強過ぎる不用意な言葉ではないかな、と。おそらく狙った効果には筒井康隆の名作があるように思いますが、伏線としては効き過ぎて却って作品を傷付けている印象が強い上に、更にまた、SS的な雰囲気が好感されるであろう作品なので筒井康隆を連想させた時点で、ある意味では敗北しているともいえないでしょうか。もちろん、これは私の印象でしかありませんが、その点が気になったので、一次選考の際に残せなかった次第です、御容赦ください。 まだまだ触れたい箇所はありますが、「簡単に」と前置きした筈の選評が長くなるのもいかがなものかと思いますので、最後に。 所謂、詩的な緊張よりも、(適当な表現かどうかわかりませんが)「ノリ」に重心の置かれた本作は、重い主題を軽く読ませることに関しては、ある程度、成功している重要な作品として記憶されて然るべきでしょう。 知的な快楽を伴わない、必要以上に脳ミソの皺が減ったが如くの疲労を読後に感じさせるテキストは大概の読者に再読されることはあり得ないのですから。 みずみずしい実存の開示を敢えて愉しく読ませる、それは誰にでも叶う業ではありません。その筆の次なる行方は不明ですが、楽しみに待ち続ける甲斐はあると思わせるには充分に足りる詩文であり作者でしょう。 審査員特別賞受賞、おめでとうございました。
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