メッセージの編集
お名前
タイトル
メールアドレス
※変更する場合のみ入力
ホームページ
本文
【序幕:東ヘ向カウ】 呼ばれた気がしたから 振り返る、 ソラミミ。 カイヅカイブキのうねるような影に怯えて、 足が竦んでしまったのです。 バスの接近知らせるランプが、 少女を酷く不安にする橙色の点滅で急かすから、 彼女は、 揺られる眠りを諦めてしまった。 東向き、 ふらりのお散歩。 背中の空が紅い、なら、 振り返ったかも知れない。 助けて、 と、 呟けたかも、知れない。 けれど刻限は、手遅れ。 いくら睨んだところで、 烏は隠れてしまった。 【第一幕:星ヲ呼ブ】 青い、青い、 星座の夜です。 水瓶の少年。 あふれる水に魚は泳ぎ、 魚尾の山羊が葦笛を吹く。 天馬の羽ばたきに不思議の星は揺れて、 金の羊は、雨季に溺れる。 (あ、あ、おぼれて、しまう、よ) 囁きは海風に散って、 少女は、さみし、かなし、と俯く。 南の夜空に手を伸ばして、 掴む仕草。 (あれ。あのほしが、ほしいの) 彼女には空が高すぎて、 両脚揃えて少し跳ねてみたり、する。 (でねぶ・かいとす。くじらのしっぽ、) 光、包んだつもりの両手、 大切に、胸許。 尻尾掴んで引き寄せたら、くじら、降りてくるのじゃないかしら、と、 幼い空想に少し楽しくなって、 少女は、ふ、ふ、と笑ってしまう。 進路、変更。 くじらを追って、 南へ。南、へ。 【第二幕:星ノ弔イ】 金木犀の垣根、延々。 むせ返る馨に酔って少女はしゃがみ込んで。 あ、あ、の声。 足許、一面、 花、花 花。 (きんもくせいって、あきのそらのみずにおぼれた、ほしの、しがい。たくさんたくさん、ふる、のね) 指先、馨染めながら、 一つ、また一つ、 拾い集めて、ハンカチに包む。 (ねぇ、あたし、ないて、あげても、いいんだよ、) 仮装の子らがゆきます。 ゆらゆらとランタンを下げてゆきます。 楽しげな声、声。 (おかしなんか、いらないわ、いたずらが、したい。あぁ、ちがう、ちがう。そう、あれはきっと、そうれつ、なのです。) 光まとう電波塔へ向けて、子供らはゆきます。 ゆらゆらと、ぼわぼわとゆきます。 後をゆきながら、少女は、 集めた花をぱらぱらと散らす。 踏みつぶして、歩く。 散華。 星の、埋葬。 【第三幕:夢ノ月ノ水】 月。 半分より少し大きい。 (あれはきっと、きみにあげたぶん、ね、) 泳ぎ疲れた少女は、 車窓から、ぼぉやりと見上げている。 きっと、あの水気を含んだ象牙色は、 口にすれば蜂蜜の味なのだと信じている。 いつしか、微睡み。 (みちたこれは、やさしいやさしい、つきのみず、かしら、つつむみたいな、こえ、が、) 柔らかな声を、夢に聞いて眠る、とろり、とろり。 あんまり夢が幸せだから、 終点告げる声まで、 彼女はいったりきたり、 ゆらり、由良、由良。 窓の外、 海も、眠っています。 粘性のとぷりの底に、 哀しい魚を閉じ込めた海。 濁った水の底にも、 と、いつだったか、彼女に呟かせた、海、です。 水面のぎらぎらを見たくないから、 少女は、醒めても目を開けません。 睫毛を微かに震わせながら、 額を窓につけている。 振動が優しく頭を揺さぶるので、 そのまま、また、 とろとろと眠りに落ちてしまうのです。 【終幕:夜満タス燿】 雲の白。 いつの間にかふるふると。 雨は降らせない雲です。 流れながら淡く光る、 夜空の水母。 月と、遊んでいます。 少女は細く、細く、歌を唄いながら、 眠たい顔。 さみしくなって わ、と走ってみたり、 不意に立ち止まって、 月に手を振ったりしている。 ブランコに乗りに行こうか、と考えたり、 こんぺい糖を、しゃりり、とかじったりする。 握り締めた手の内に、 やがて、鼓動。 夢に聞いた柔い声を思い出して、 嬉しくなって。 ふわ・り 少女、は、微笑む。 (おかえり、なさい。おかえり、) 淡い発光に夜道を透かして、 ゆっくりと家路を辿り始めます。 お散歩はおしまい。 この上なく優しい、夜の、始まりです。
設定パスワード
画像ファイル
編集する
削除する
[
掲示板ナビ
]
☆無料で作成☆
[
HP
|
ブログ
|
掲示板
]
[
簡単着せ替えHP
]