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放課後――。 剛「おいのび太、帰ったら空き地に集合な!約束だぞ?もし来なかったらわかってんだろうなぁ?」 剛の言い草は、周囲の級友達から見ればいつもと何ら変わりない調子であった。 のび太とスネ夫だけが、剛の声に含まれる緊張を感じ取っていた。 のび太「わ、わかったよ…必ず行くよ」 のび太はしょんぼりとした様子を演じながら、内心ではほくそ笑んでいた。 ――ジャイアンの奴、昨日のことで相当ダメージを受けてるな。 いつも自信満々でいばりちらしている剛の、気弱な姿は単純に見ていて面白かった。 スネ夫「ジャイアン、のび太なんか放っておいて早く帰ろうよ」 スネ夫のほうは見るからに罪悪感に打ちのめされ、今にも倒れそうなくらい顔を青くさせている。 のび太は意味ありげに目を細めると、2人から視線を反らして帰り支度を始めた。 校舎を出ると、背後からしずかが追いかけてきた。 しずか「のび太さん、一緒に帰りましょう」 のび太「うんいいよいいよ。しずかちゃん帰ろう」 のび太の胸が高鳴る。しずかのほうから誘って来るのは珍しいことだった。 のび太「しずかちゃん、僕ね今度新しい漫画を買うんだ。買ったら一番にしずかちゃんに貸してあげるぅ」 しずか「ありがとうのび太さん」 しずかと並んで歩く帰り道、のび太は嬉しさのあまり一方的に喋り続けた。 のび太は気づいていなかった。 相槌を打つしずかの声が、徐々に暗くなっていってることに…。 のび太「でね、ドラえもんたら僕に、」 しずか「……うぅぅ…うっく…」 とうとう耐えきれなくなったしずかがしゃくり声を上げた。 のび太「しずかちゃんどうしたんだい?」 狼狽えるのび太をよそに、しずかの声はやがて泣き声に変わり、その場にうずくまってしまった。 しずか「わたし達だけこんなにのんびりした会話していていいのかしら…今こうしている間も出来杉さんは1人で…おなかもすかせて困っているはずだわ…」 のび太「そんなぁ〜そのうちひょっこり帰って来るよ!あ、そうだ!もしかして家出したのかもしれないよ」 しずか「…家出?」 しずかの肩がぴくりと震える。 のび太「そうだよきっと家出だよー」 しずか「そんなわけないわ!出来杉さんに限ってそんな馬鹿な真似…」 のび太は勇気を出して、しずかの手を握ってみた。しずかは抵抗を見せず、ただ泣きじゃくっていた。 ――どうしてしずかちゃんは出来杉がいなくなったくらいで、こんなに泣くのだろう。 のび太は決心して言った。 のび太「泣かないでしずかちゃん。出来杉がいなくても大丈夫だよ。僕が…僕が出来杉の代わりになるから!」 のび太の言葉に、しずかの泣き声が止んだ。 すると辺りには気の早い蝉の声だけが鳴り響いていた。 しずかの手を握るのび太の手が、じっとりと汗ばんでいる。 しずか「のび太さんが?出来杉さんの代わりに?」 しずかのか細い声。 のび太は心の底から、彼女を守りたいと思っていた。 のび太「うん。これからたくさん勉強してもっと頼れる男になって、僕がしずかちゃんを守ってあげる。出来杉なんかいなくても大丈夫なようにしてあげるよ」 のび太の力強い物言いに、しずかはこれまでの彼とは違う空気を感じ取った。 しずか「そう…ありがとう、のび太さん…」 のび太「だからさ、ほら涙を吹きなよ」 のび太はズボンのポケットからアイロンのきいたハンカチを取り出すと、しずかに手渡した。 ハンカチは日頃母親がきちんと手入れして、毎朝彼に持たせていたものだ。 だらしのない彼はハンカチなど持っていてもこれまでなかなか使う機会がなかった。 むしろ毎朝ハンカチとティッシュを彼に持たせようとする母をうっとうしいとさえ思っていた。 しかし今日だけはそんな母に感謝した。 憧れの女性にハンカチを差し出すというシチュエーションがついに叶ったのだ。 彼は自分が大人の男になったような気分を味わった。 しずか「ハンカチか…わたしもいつだったか出来杉さんにハンカチをプレゼントしたことがあったな。出来杉さん、使ってくれてたのかしら…」 しずかの言葉に、高揚していたのび太の気持ちは急激に萎えていく。 ――なんでだよ。出来杉の奴、しずかちゃんからプレゼントを貰ったことがあったなんて…。 のび太の中で、再び出来杉への憎悪が激しく燃え上がり始めた。
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