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鉄の背のように 陽を照り返す さざなみの群生するこちら側で 砂に潜っている 貝の喘ぎは 打ちよせる海水に くりかえし濡れる しろく寡黙な素足にふまれ 飢えた白日夢 青やかな空へ、飛び散っちまった。 ヒグラシが鳴いている 鬱蒼とした静けさで 爪先がじんわりとしびれる いまは、帰れない かつての密生した遠い空。 空耳かしら 対岸に立っていた 去ってしまったひとの名を呼びましたか わたしの知らない 虹の頸筋はほそく傾いて 水晶するあぶくを連れた魚へ あいさつ をしている あぁあわあわと 透き通っていく対岸。 雷雨のまえのにおいは 素肌に重く ふと 視線を上げると 足跡が宙で かなかなかな と繁っている 河は音も無く流れつづけ……。 上流の 晩夏のキチンの流しでは 老人の後ろ姿が 思い出色に熟して ふくらみ切った赤茄子を食している 人知れず 青鱗の雲が、ひしめきあい 水平線上で ほんの少しの雨になっても あのひとと同じ海に住めるとは 限らないのだった ※(ふりがな)鉄(くろがね)、頸筋(くびすじ)、青鱗(せいりん)
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