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晩夏の草むらに足を踏み入れると かわいた空気がひび割れて よれた、真っ白いシーツが敷かれ 見たことのない男が横たわっている あばらの上には、何本もの径(みち)があり そのどれもが、わたしを受け入れない 光りの射す方角に背いた姿勢で たたまれた胸をひらくと 男の血管が青白く、透けている そのいくすじもの流れを追いながら傾くと 深い深い海へ入りこんでは 底に沈められた悲哀に 足をからめとられ、凍ってしまう 生と死の往復に体温は上昇し 季節の境で、はだかのわたしはひどく咳きこむ 見たことのないはずの男の のどぼとけの位置をおぼえていて そこに、くちびるを寄せると 塞がれていた径(みち)が皮下で氾濫し 流れたきり還らないので この世のどこにも存在しないその男に わたしは、永遠に入りこめない
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