メッセージの編集
お名前
タイトル
メールアドレス
※変更する場合のみ入力
ホームページ
本文
富士大震災。 西暦二四五七年に東日本一帯を襲った厄災は歴史年表にも載っている。 崩落後の新宿に聳える八重塔は金と銀の蛇腹に連続した壁の成す円柱あるいは角錐型建築物が縦横に連なった総合娯楽施設だ。外部から内を窺うことはできず、色違いの自分が無数に分裂する様が日光や街灯から明瞭にされて映る。フロアは酒・薬・賭博・女郎・男娼・温泉・宿泊・運動・拷問に分割もしくはそれらの複合コンテンツによって混成されており沙汰は金次第といったところ。エントランスも無数にあって、私はC-24から入った。この地区は比較的安全(追剥で済めばバンザイのところもある)のようで、女性にはペン型スタンガンを貸与してくれるのも魅力だった。場所は駅西口から新都庁通りを代々木方面へ進み四つ目の十字路を右折して直進、その一帯だけ煤が積もっているから分かりやすい。 ゲートを通過しても薄暗くて、通路の埃や手すりの錆は廃ビルと変わらない。すぐに狭い階段があるからぐるぐる上っていくと扉に突き当たる。帽子を被り中指を立てた髑髏の落書きがスプレーされているのだけれども、ノブだけは真鍮製で傷一つなかった。少し開いた瞬間に、電子合成和音と、薔薇とバニラを混ぜたようなにおいが漏れてきて目頭へ鈍痛を与えた。ゼロコンマ数秒ごとに色の変化する空間の中では様々な服装の、ときには半裸の人々が濁った目で歌ったり踊ったりグラスを煽ったりしていて、どうやら酒フロアだった。新たな闖入者に気を留める者は一見してなく、スキンヘッドに隙間なく義眼を埋め込んだ女と視線を交わした気もしたが本当に交わしたのかは定かではない。カウンターバーに空席があったのでラムコークを注文すると、額から正中線に髭を生やしたバーテンが顔を近づけてきて 「ここ初めてかい」 と言う。 「ええ、はい」 「一杯目はうちのオリジナル頼んどかないと、周りにカモられるよ」 「じゃ、それで」 ウオッカにライムとカルピス、少々の滑り気は痰に違いなく、喜色を帯びた目で彼はこちらを見ている、なるほど私はカモられたのだ。一気に飲み干す。 「上客だねえ、おごりだ」 ラムコークはうまかった。音楽はピアノと笙と口琴とドラムのカルテットに切り替わり、旋律ともノイズともつかない猛り狂った塊が人々の奇怪な動作を生み出していた。モヒカンを一筋ずつ三つ編みにした男は繋いだ両手を跳び越え続け、OL風の地味な女は横から彼を見つめて拍手しながら頭部が痙攣している。野太い叫び声の方に目を向けると人だかりの隙間から白髪の老人がうずくまっているのが見えた。歓声「射精だ!」「射精だ!」が沸き起こり、しかし青臭さはいっかな鼻に届かず、薔薇とバニラが馥郁とする以外なにもにおわなかった。私は煙草に火を付けた。射精おじいさんが注目を集めたせいで隣席に空きができていて、丸椅子の皮が破れ覗いたスポンジをふにふにしていると壮年の男から声をかけられた。
設定パスワード
画像ファイル
編集する
削除する
[
掲示板ナビ
]
☆無料で作成☆
[
HP
|
ブログ
|
掲示板
]
[
簡単着せ替えHP
]