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山岸さんは、 もう いない。 おさるさんに似た顔で さようなら もいえず むねにちいさく根づいたきずが うずくのである おさるさんに似た顔で いま さようならをいおう 山岸さんをこえる かけ声で しげみに風のやつがはいりこんだ ひっそりとした足どりで 初夏の山肌をなぜて来たのか 青青とした せせらぎのような清清しさだ 澄んで澄んだみずみずしい夜空を夢みながら眠りにつき あふれるひかり鮮烈な朝に欠けた三日月が 山脈を刻むことごとく 脈は律動し 今日はいつだ 果して とこしえに覚めぬ 欠け続ける 潮風にあらわれたしじみに いつまでも暗いしげみからのぞかれている かけ声のうしろすがたが ほんのりとかすれていく ある日果せなかった 羽化をかかえた懐から こだましていくおもいでが ゆう焼けに染まり しせりしせり と夜の重さへ しみこんでゆくのである 夜は遠く暗い記憶にみちて 限りなくふくらむ ことば無い声を 山岸さん、と発している
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