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千の書物に埋もれたみずたまりが閃光している。 赤ぶどう酒のかおりが溢れるほど、注がれている、 豊穣なページの眼差しは、街路樹の空虚な、 灰色の輪郭を、気泡の空に浮き上がらせてゆく。 その空の内壁を沿って、暗闇の底に広がる階段を、 登りつめる外界に導く切り口には、液状の安らぎが、 音をたてて回転している。 パタパタ、パタパタ、 洗濯物がそよぐ窓辺に、 やわらかい女性の白い腕が凭れて、 見え隠れしているスカートの、赤い曲線を、 あたたかく流れる白い朝のためいきが飲み干してゆく。 固く溶けてゆく風景。 瞳孔の乳房に広がる光線の透明な輝き。 ひかりが寡黙な杖を抱いて、ざわめいている。 わたしは、ひかりの瞼の裏から、 ゆっくりと起き上がり、 五月の青い寝台を乾いた胸のなかに畳み込み、 直角に軋んでいる地平線に、 わたしの痙攣している意識の塩みずを、 ゆっくりと溶かし込む。 長い間、暗い地下室の書物に埋もれてきた経験は、 積み重ねられた残り火として、 千の錆びた尖塔の荒野に、晒されていくだろうか。 西の黄昏ゆく時代の夕暮れを見るがいい。 風が吹き込む出口には、 芳醇な金色の旗がたなびいている。 わたしは、街頭の赤い息吹を、 くちびるに押し当てて、ひとり茫漠とした、 肉体から醸し出す、 煌々とした喜悦をすすってみる。 そこには、たくましいいのちが脈々と息づいている。 わたしは、こころに青々と隆起した空を、 囲い込み、初夏の色を帯びる朝の瞬きを、 しっかり掴み取ってみる。 勇み沸騰する街頭へ出よう―― 。 そして、滴り落ちる艶やかな英知の裾野を、 しっかりと抱きしめるのだ。
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