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釣ってきたヨーヨーが 浴衣の袂をはなれ、 夏休み中ずっと 引き出しの中にあった。 折れたクレヨンやら 針のないコンパスと共に 無造作に しまいこまれていた。 次第に風船のゴムが古くなり 塗装にひびが入った。 クレヨンたちは 見てみぬふりを決め込んでいる。 そうして ヨーヨーはしぼんでいく。 祖母がソファの上でしぼんでいく。 祖母が「サイダーがほしい」と泣きながら だだをこねているのを ただただ傍観していた。 引き出しの中に押しこんでいた。 見てみないふり。 祖母の声を無視して二階にかけあがり、宿題のプリント を探すため引き出しを開けた私を、しわくちゃで待って いた緑のヨーヨー。学校祭の縁日が彼女の内側にある水 のなかにまだ残っているから、私は黄色いはさみを動員 して、祖母のおなかに刃をいれた。 水があらぬ方向に吹き出てきた。 くくりつけられていた輪ゴムも びしょびしょになり、 二度とはずむことのない ヨーヨー。 祖母の声が 家中に響いている。 私はよろよろと立ち上がり 冷蔵庫をあけた。 サイダーのペットボトルに それとわからぬよう ミネラルウォーターが入っている。 飲んでも飲んでもすぐ忘れてしまう。 呼んでも呼んでもすぐ忘れてしまう。 介護されているのは、誰なんだろう。 祖母をはずませていたはずの、私と家族。 何かをグラスに注ぎいれ 祖母に泣きながら手渡していた。 はっとして身を起こすと、 手にしたはさみからしとしとと 雫が落ちていた。 二〇〇七年八月二十一日
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