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森のいりぐちに おばあちゃんが立っている ちゃんと さようならを言うと チョコレートをいっこ わたしの手の平に落として 蜻蛉になって 飛んでいった はじめの一歩は右足からって 5歳の夏に決めて それは 左足をなくしたからで ほんとうは 決意なんてなかった けれど 一本足になっても 右足は右足で ひまわりのように すっくと立っている 草むらに仰向けになって 呼吸したら 顔も手も 汗だくになって 肌は乾いて しわくちゃになってしまった 土にしみこんだ汗で 子供たちはぐんぐん育った 影になった木々に切り取られた ゆうやけが揺れている とてもやさしく揺れたから 「お母さん」と 呼んでみたけれど 声が掠れて うまく呼べなくて はーい、と返事をしたのは よる の 空 ひまわりはすっかり 花びらを落として 森の中を歩く たくさんの種が 浮かんでいる泉に たどり着いて 崩れる もう生まれるから だいじょうぶ. わたしは 森のいりぐちに立つ いつかこの場所に 孫がくる ちゃんと さようならが言えたら チョコレートをいっこ あげる そうしてわたしは 右に傾きながら 飛んでいく
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