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架空の請求書をもとに損益の分岐点を探り当てるために、私はまず自身を限界まで二分する ことからはじめる。二分されつづけても、数字は永遠にゼロにはならないが、聞いた話によ ると、数字はやがて自らの軽さに耐えかねて、緩やかな自殺がはじまるそうだ。ただし、架 空ではない限りにおいて。つまりこの営みによってはじまるものも、また終わるものもない。 室内には、時折前髪を持ち上げる微風がどこからか流れ、テーブルの上には鶏肉になにかま ぶしたらしい一皿が置かれ、その傍らには架空の請求書がある。本来ならフォークやナイフ が置かれてあるべきだろうが、私の右手には鉛筆が握られていて、ついさきほどから、架空 の請求書に、自らを永遠に二分していく自走型の計算式を書きつけはじめたところだ。とこ ろで、この料理の名はなんといっただろう。たとえば、あなたの双子の生活を、もうずっと 眺めている木製の窓枠に刻まれた、目を凝らしても見落としてしまいそうなほど小さい、し かし確実に家屋を蝕んでいく“小さな疾病”。確か、そんな名だった覚えがある。前髪が微 かに持ち上がり、私の左手は、わずかに翻った前髪を撫でつけるためにテーブルから離れる。 そのような些細な動作が、忙しなく自走している私の右手を狂わせ、はずみでまだ手のつけ られていないテーブルの一皿が、白いタイル敷きの床へと落下する。そして、このときはじ めて、私は鶏肉が生であることに気づき、急に強い吐き気を催し、テーブルの上に、倒れこ むように顔を伏せる。そのように右手は自走し、私は二分されつづけていく。分かたれた私 たちはそれぞれ完璧に相似し、出窓の内と外から、頬杖を突いて、眼差しの中に、確実に進 行していく疾病の分岐点を緩やかに背比べしている。
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