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・ あんぱん と囁くときの 女の子のくちびるが あんなにも淫靡なのは何故だろう ふっくりと焼き上がったあんぱんを眼にすると ぼくはつい乳房を連想して 歯を立てて食らいついてしまうのだ 特に真夜中 さびしいときには 幾つでも貪り食ってしまうのをやめられない 一人暮らしの四畳半で 天井の隅を見つめつつ あんぱんの空き袋に囲まれて横たわると 透明な女たちに守られている気がして ひどく幸福な気持ちになる それは刹那的でひどく甘美だ 現実逃避にはうってつけだ ・ 最近 ますます鋭角になってきた君は クロワッサンばかり食べている 尖った先端を白い歯で噛んでいるところは まるで共食いそのものだ この頃の君はますます痩せて 部屋のどんな隙間にでもぴったりと収まってしまうようになって 見つけることも困難になってしまった さくさくさくという 君の歯が立てる音がそこらじゅうに満ちているから どこかに存在していることだけは解るのだが 台所の床にクロワッサンの食べかすが無数に落ちている その光景は 荒涼とした月面に似ている いつの間にか外は真っ暗で まるで宇宙みたいである おおいと君をよんでみるが 宇宙には空気がないのだから どんなに近くにいようとも どんなに喚きちらそうとも 何の音も 君には届かないのである それを忘れて何時までも呼ぶ わたし 呼ぶ程に孤独になってゆく ぽつん ・ 早朝 薄暗い店の中で たったひとり ぱんを焼いているぱん職人 痩せた肩を震わせて 泣いているようにも見える 腕がゆっくりと放物線を描き 生地を叩きつけ 小麦粉が霧のように舞う 早朝の森の中のようだ 絶滅した美しい蝶のりんぷんのようだ 彼の背後には 無数の切断された女の指 みたいなしょくぱんの耳が堆く積まれていて ああ あのひとはひとをころしてきたのかもしれない たったいま ひとをころしてからここへきたのかもしれない そんな気持ちすら起こさせる やがて開店したぱん屋で にこやかにレジを打つ ぱん職人の爪の先には わずかに血が付着している その手からぱんを買うとき 何故だかひどく官能的な気分になって 体がぶるっと震えてしまうのを 止められないでいる
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