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日曜になると時々 どこで覚えたとも知らない古い歌を 洗い物をしながら口ずさむ 1969年3月30日の日曜日パリの朝 フランシーヌっていう女子学生が 抗議の焼身自殺を遂げたことなんて 40年たった今ではもうメルヘンの世界で だからわたしは「フランシーヌの場合」を ひどくポップに歌うのだ 上の階に引っ越してきた人の足音は多少乱暴で、にぎやかだ。わたしよりもいつもすこしだけ早く目覚めて行動を始める。家具は金属でできているらしく、歩くたびに揺れて音を立てる。今朝はたくさんやることがあるのか、部屋中を動き回っている。金属音が鳴り響き続けるわたしの部屋。天井をひととびに、振動が伝ってくる。迷惑な伝導。少し苛立ちながら、隣で寝ている彼を気にする。上ではひときわ大きな音が響き、びくりと硬直したが、隣の人は負けじと大きな音を立て、ばさりと寝返りを打った。大丈夫なようだ。 こっそり起き出して髪の毛を梳かす。目覚めを望まない日曜日も、さすがにもう起きていい時間だ。雨戸を開ければ外は快晴。二階のベランダに干された大きなシーツが垂れ下がり、わが家の窓をすこしだけ覆う。困った人だ。いつまでも続く音。天井をじっと見つめていたら、起き出した彼が目をこすりながら、天井にぶらさがる蛍光灯のカバーをおさえてみせてくれた。ああ、鳴り止んだ。金属音はわたしの部屋の備品だったんだ。得意げな彼にありがたく納得しながらも、なんだか侘しげな気分になる。気持ちの置き場を少し失って、けれど外が晴れているから、笑っておけばいい。 ドンクで買った量り売りのミニクロワッサンをお皿に無造作に盛り、カフェオレを入れる。日の当たる日曜日にはクロワッサンが似合う。おいしいパン・ド・ミもバゲットもぶどうパンも素敵だけれど、バターをふんだんに使ったカロリーの高そうなクロワッサンがひときわ似合う休日の正午前。だって今日は3月30日じゃないし、ここはパリじゃないから、フランシーヌは燃えたりしない。わたしたちは戦う必要がなく、不幸じゃなく、たぶん幸せに生きている。 クロワッサンは おばかさんじゃない いくつかはプレーンなクロワッサンで、いくつかにはチョコが入っている。説明しなかったら彼はプレーンな方ばかりを選ぶように食べた。チョコ好きなのにね。 カフェオレにお砂糖がすこし足りないといわれる それならチョコをたべておけばいいじゃない 彼の背中からは まだ寝息のにおいがする 横顔からは 音が飛び出している さっきの金属音に似た音が わたしの頭の後ろの方で 止まなくなる 丸まって 脳から飛び出し また戻ってきて ぶたれる 衝撃 衝突音 これは なんの おと? シルヴィ=バルタンを歌ってみたら渋い顔をされた クレモンティーヌのほうがよかったかな どっちだっていい 古いも新しいも くちばしをとがらせて スタッカートを重ねれば フレンチポップはできあがり 部屋は簡単におうちカフェ 青い正午を握り続けていると 低音やけどをするようだ ひたひたと冷たいような痛みが面白いように わたしは握り続ける 青い正午を そうしているうちに また何かが鳴りはじめている 目の上 耳の奥 これは なんの おと? ねぇ これは なんの おと? 口をつけていないわたしのカフェオレに 薄い膜が張る からだに クロワッサンのバターが注入され 彼の血に わたしの血に 日曜のクロワッサンが混じり 層を成した皮膚の剥落が はじまる わたしたちには戦う必要がない。わたしたちはおばかさんじゃない。だけどわたしたちは、 すこし、さびしいかもしれない。 低音やけどをしている。 燃えつきることのないままに 低温やけどの手でクロワッサンを食べ、カフェオレを飲む わたしたち の 場合
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