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停滞したままの減産工程でも、鰯頭の男たちはせっせと粗骨を抜き取って、端正な飾り菊とともに流れて行く、その本の1頁を舐めるように見た。 それは朝の曖昧な表紙から始まり、昼の彩色広告をはさんで、なだらかな活字が空を切る、虚ろな物語が終結を目指し始めた辺りで、何人かの男が何人かの女と何人かの子供をこしらえるくだりでもあった。けれども彼らはその文面にそそられていたわけでなく、やはりそこに添えられた、印刷機の故障によるインクの染みがくり抜いたクラフト紙の、マッコウクジラに酷似した姿が挿絵になるのかどうかであった。 業務的に、彼らの細筆の先は修正ペンキで濡らされてはいたが、一人、また一人と、その染みの欠けらに及ぶ吟味に流されて、遠ざかる工程の一端を次々と投げ出してしまった。それはまるでベルトコンベアのアルミニウムが規則正しく稼動音を鳴らしているだけの日常に、彼らがばかりがそこにいないようでもあった。 結局のところあれはあのまま染みとなり、たちどころに製本され、売却され、読了されて、順繰りに燃やされた。 火曜日。廃品回収のアナウンスが、彼らの最後尾に別れを告げた。前後に真新しい料理本を当て付け、得体の知れない梱包紐で括られたそれは軽々とトラックの荷台まで飛ばされた。運転手の男はその荷物を運んできた女に礼と、シングルのトイレットペーパーを差し出して去った。後に残ったのは排ガスと男の、剃刀負けに滲んだ血痕の印象で、住宅街の日中はどこにいても凄惨なワイドショーでけたたましく汚れていた。 それから何日か、もしかしたら何年かが経ち、どこかの少女が初潮を迎え、ある種の喜びと、強大な恐れや苛立ちの中で便器に腰を掛けた。そしてこの世界に潜む不幸や、人類の憂鬱に誰しもが切りつけられていることを鑑みながら、世話しなくトイレットペーパーをまわすとあの時の染みが、何やらはっきりとした意思を持って彼女の前に立ちはだかり、まずはその涙を、それからたっぷりと温かな経血を吸いとって、水洗便所の渦に散り散りと、記憶のない海まで揺らぎ、消失されてしまった。
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