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わたしは自分の部屋の 樫の木のデスクの前の 座り心地のよい椅子に深く腰を下ろして 窓の外の様子を気にしている 今日は朝から細かな雨がたえず降り続いていて それがもうやんでいるのかどうか この窓からではよく解らない とても景色のよく見える窓なのだけれど 今日の雨はこの窓からでもよく見えないほどにひどく細かい 「もし」 わたしはいくつかの郵便物を届けにきた 郵便配達のまだ若い男のひとに話しかける この窓からは私の家の玄関がよく見えるのだ 郵便配達のひとはなにか新しい仕事でもあるのかとすぐに立ち止まる わたしは椅子から立ち上がって窓を少し開く 「雨はもうやんでいるでしょうか?」 と、わたしは尋ねる 「そうですね、降っていますね」 と、彼は答える 「朝と同じような具合ですか」 「ええ、そのようですね」 今日の間にやむことがあるでしょうかとわたしは尋ねる、小うるさい感じに聞こえぬようにと 声の早さと高さに注意をしながら 郵便配達のひとは少しにっこりとし、それからすぐなにごとか考えるような表情になり 「こういった雨はあまりその日のうちにやむことがありません、でもそういうことがまったくないとも言い切れませんーわたしが働き始めてからも、こんな雨が午後早くに突然上がったことが何度かありました」 わたしは壁の時計を見る 「午後早く」までにはまだずいぶんと時間がある 郵便配達のひとはまた少しにっこりとする 「なにかお出かけの予定などおありなのですか」 と彼はわたしに尋ねる そうですね、とわたしは曖昧に答える、そして手を彼の脇まで差し出して雨の感触を確かめ、引っ込めて微笑む 「早くやんでくれるといいのだけど」 彼はにっこりと笑って、そうですねと言い、ではこれでと小さなお辞儀をして去ってゆく わたしは窓を閉めて彼の背中を少しだけ見送る、背中は確かにしっとりと濡れている わたしはもと居た席に腰を下ろす やはりここからは雨の姿はよく見えない 午後の早い時刻に身なりのいよい二人の初老の婦人が 「なにものにも愛をもって接することを諦めはしません」といった感じの笑みをたたえて玄関のチャイムを鳴らした わたしは椅子を窓のそばまで寄せて窓を開け 「こちらにどうぞ」と言って椅子に腰を下ろした 二人の婦人は同じ表情のまま窓のそばにやってきた 「こんにちは」と彼女たちは言った わたしも同じ言葉を返した 「こんなところですみません」とわたしは詫びた 「脚を痛めているものですから」 二人の婦人はどこか舞台役者のような調子でわたしのことを気遣ってくれた わたしはいくつかの言葉にありがとうとだけ答えた もちろんわたしは足を痛めてなどいなかった 二人の婦人は近くの教会のひとで なんの役にも立たない紙切れを定期的に配り歩いているのだ わたしはこのひとたちのことをあまり好いてはいなかったので 窓のそばで雨に濡れるような格好にさせておけば長居をしないだろうと考えて嘘をついたのだ 彼女たちはいつもするような話をひと通り話したあと そそくさと別れの挨拶をしてそこを立ち去った、それでわたしはまだ雨が降っているのだなと思った それでもいちおう窓の外に手を伸ばして、細かな雨粒を確かめた そして窓を閉めて椅子を元に戻し、腰を下ろして窓の外を見た 最後にひとが訪ねてきたのはもう夜に近い夕方のことだった それは10歳くらいの男の子で、右手に淡いピンクのリードを巻き付けていた 彼はわたしの家のあたりをうろうろしていて、窓のそばにいるわたしの姿を見つけて近寄ってきたのだ 「どうしたの?」わたしは窓を開けて尋ねた 「犬が逃げて行っちゃったんだ、ちゃんとひもは掛けておいたんだけどーおかしいなぁ」 そう言いながら彼は右手のリードを軽く振って見せた 「どんな犬?」わたしはまた尋ねた 彼は自分の腕で大きさを示しながらー 「子供のコリー、ちっこいんだけどさ、鳴くとすげえうるさいの、ね、このへん通らなかったかなぁ?」 今日はずっとここにいたけどそういう犬は一度も見かけなかったとわたしは答えた、彼は少しがっかりして窓から離れていこうとした 「あ、ねえ、今雨は降っているかしらー?」 男の子は一瞬、なんの話なのか解らないといった表情を見せ、それからふと気づいたという感じで降ってない、と言った 「いつのまにやんだんだろう?不思議だね」 そうして彼はどこかへ走っていった わたしは窓に鍵をかけてカーテンでおおい、薄く切って焼いたパンを、木イチゴのジャムとマーガリンで二枚たいらげた それからコーヒーを飲んでほんの少しリラックスした それから寝支度を整えてベッドに入り、少しだけ本を読んですぐに眠った 雨は 降り続いている 夢の中まで
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