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こっそり追加。 † 今日も、来やがった。 「アンタも、物好きだよなー」 何が目的か分からない。だが、ここんところ毎晩訪れる少女。夜中は物騒だってのに、気にした感じもなく……寝に来る。 「たまには宿で寝ろ、宿で」 こっちは眠れなくなってからしんどいってのに、呑気にくーすかぴーすか寝やがって嫌がらせか。しかも、俺の話何ぞ聞く耳持たない奴で、今日は奴の妹のリルビーにかたどったぬいぐるみを持参して登場だ。 いつもは能天気にニコニコニコニコとうざったいぐらい愛想いい癖に俺の前だけはニコリともしやがらねぇ。 「おい、そこの不審人物」 俺も無視すりゃいいんだが、無言で俺を地面に座らせ膝のうえに頭を乗っけてる相手を無視するのは存外難しい。……てか、定位置そこかよ。 右膝に左耳をあてるような感じで頭を乗せてるから表情すら見えない。 「おい、アイラ」 ここに来てからヒトコトも発してない可愛くねぇ女にもう一声掛ける。 ………こちらを一瞥し、またあからさまにそっぽむく。 「可愛くねぇな、」 「つぇらに可愛くなくていい」 ようやく聞けた今夜の第一声はとてつもなく可愛い言葉だった。これで女じゃなかったら殴ってやりたいぐらい。 「んなこと言いながら、可愛いのを意識して、んな人形なんか持ってきたんじゃねぇのか?」 つか、妹の人形ってどれだけシスコンなんだコイツは。俺の情報じゃ、あの戦の最中に仲違いしてそれっきりだって聞いている。 「ヴァイに貰ったの」 「………あー、ヴァイライラは器用だからな」 可愛い俺の妹の名前が出てきた。つか、俺を見張るための賄賂じゃねぇだろうな、それ。 「ヴィアはルルアンタのこといっぱい教えてくれる」 俺の予測、肯定かよ。ヴィアリアリはお喋りが好きだから丁度いいのだろう。内容に正確さは掛けて、尚且つ無駄な情報が紛れ込みあまり役にたたないが。宝石としてどうかとはつくづく思う。 「アイラは何も話せないのに。来てくれるだけで、気に掛けてくれるだけで嬉しいって……」 「二人とも、元気にしてるんだな」 アイラは一度だけ頷き、ごろりと頭の向きを変える。表情が見えるようになった。無表情だけど。つか睨まれてるのか、俺。 約束は守ってるらしい。そして、コイツの口振りだと二人とも相変わらずのようだ。 「ありがと、な」 俺がそう言うと、物凄く嫌そうな顔をした。そんな顔も出来るんだな、ってぐらいの新鮮さ。またもやゴロンと頭をそっぽ向ける。 「つぇらのためじゃないもん。ヴィアとヴァイのためだもん」 何なんだろうな、この生きもの。もともと、コイツの親は妹たちの上司みたいなもので、もともと院で教えられ基礎は出来ていた妹たちにあの女豹の下で働けるぐらいの技術を仕込んだ。妹たちは、それなりに恩義を感じていたらしくコイツと仲良くしてたみたいだった。 「俺の妹たちのために俺を見張ってるってわけかい?」 「見張る?」 俺の予測は外れたらしい。すっとぼけてる可能性もあるが、コイツはそんなに器用じゃねえ。嘘を吐くときは黙るタイプだ。 「つぇらはズルい」 「……んなこと言いに来たのかよ」 「おにだ、あくまだ、はくじょうものだ」 「…………どこのお子様の悪口を真似てきたんだ?」 たまに口を開けばそんな口しか利きやしねぇ。しかも、怒る以前に脱力感を誘うような喧嘩の売り方。 「もーいいから、アンタは寝てろ」 「うん」 なぜかこういう時だけ素直に頷く。 これでも、懐いているとでも言うのだろうか。なんか、旦那との扱いのさがムカつく。旦那が。 旦那がロストールの復興に手を貸してるって話も、そしてコイツの仲間たちもその手伝いをしてると言う話は聞いた。エンシャントが崩壊してから難民も傾れ込んでいる。魔物たちも凶悪化して被害が溢れている。だからこそ、その混乱に紛れて俺がこんな灯台もと暗しのごとくロストールにいることも出来るのだが……。 「アンタは手伝わなくていいのかよ」 「アイラは王宮に行けない。出来るのは、限られてる。だからこうしてる」 「あ?」 「街に魔物が紛れ込まないか、仲間たちと見回り」 意外だった。 不審人物だと思っていたら、一応意味があったみたいだ。 「何げに考えてたんだな、アンタ」 「つぇら、やくたたず」 「…………………何げに言うよな、アンタ」 言われなくとも自覚はあるが、コイツに言われたら胸に刺さるものを感じる。生きているだけで害だと言われてる気がする。 「アンタ、俺が嫌いか?」 「うん」 「……即答かよ。まったく嫌われたもんだよなぁ!」 しかし、膝の上で返答されてる状況では説得力がない。つかどんな状況なんだ、コレ。 そこで会話が止まる。アイラは寝てるかもしれないし、寝てないかもしれない。………いや、訂正。寝てやがる。寝息が聞こえてくる。 寝ても人形を手放さず、また身動ぎ、向きを変えて無防備な寝顔を俺に晒す。 「寝顔は可愛いんだがな」 口を開けば、憎まれ口。しかも、何げに可愛い。子犬が唸ってるぐらいにしか見えない。 「旦那に甘えろよ」 何で俺なんかに構うかな。こんなくたばりぞこないに構ってる場合じゃねぇだろう。アンタにはアンタの使命がある。こんな俺なんぞに近づいてその身体を危険に晒してどうするんだ。俺がどうこうするとは考えないわけ? ……何かするつもりはねぇけどな。 無防備に、寝顔を晒すコイツに何かしたら、きっと俺は俺を許せない。 そして、コイツは約束を守り続けてる。こうやって夜な夜な訪れても、俺に何かを尋ねようとはしない。だから、突き放すタイミングを損ねてしまってる。 「嫌い…か、」 コイツには旦那がいる。くそったれの偽善者野郎だが、それでもコイツには悪くない相手だ。だからこそ、コイツは俺を好きになったりしない。俺も、だ。妹たちのこともある。こうやって逢瀬を重ねるのも綱渡りな部分もあるが、………それでも拒否しない己は、妹たちを。 いや、考えねぇ。 「これが、……アンタの苦肉の策か?」 なわけねぇ。そんな繊細な神経を持ってそうにねぇからな、この寝顔には。 コイツに妹たちを投影してるにすぎないと、冷静な俺が判断してる。だから、強く出れねぇ。甘くしちまう。……妹じゃない分、俺を好きじゃないから、何も出来ない。何もしなくていい、安心感がある。 ……きっと、俺を見捨ててくれる。 「………変な女だよ、アンタってな」 俺を嫌いだという。 妹たちを好きだという。 俺が嫌いなゼネテスを好きだという。 ……最後のがなけりゃ、まるで俺みたいな奴だったんだがな。 「妹たちを頼む、」 神頼みでも、悪魔に魂を売ってでも構わない。だが、アンタに頼んだほうが確実そうだ。 「……頼む」 そのためにだったら、何をしてやってもいい。あいつらが泣いたりしないように、泣いても励ましてやってほしい。 なぁ。こんな俺が死ぬってのに、誰かが泣くなんて間違っていると思わねぇか? 嫌なんだ。 他でもない、あの可愛い妹たちが最期まで俺なんかの面倒を看るなんて。だから、見捨ててほしかった……なのに、見捨てられたくなかった。だから、先に捨てた。最初からこうすりゃよかったんだ。 後悔なんて、しないさ。もう、厭きる程してるからな。最期ぐらい好きに生きる。 しっかしまぁ、しばらくこういう生活をするのもいいだろう。まだ、何かしたいこともないから、コイツが待ちぼうけしないぐらいは、な。 END. 長いけど、大丈夫かな?
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