【さげすみの後で】
逢瀬琴葉
18歳
若くして、かなりの勤勉家で、本屋を経営している。オレはいわゆる個人下請け業者であり、店の清掃を請け負っていた。つまり琴葉はお得意先であり、オレは琴葉から貰う月々の賃金で生活をしていた。
いつものように、トラックで本屋の清掃に向かった。雪が強く降っており、道路が通行どめになっているせいで、店に着く時間が遅れてしまった。店につくとレジのところに琴葉は立っていた。外見は、可愛い系と綺麗系両方をもちあわせている美少女で、時には、本屋を訪れる客にナンパされるほどのもて具合だ。
おはようございます。レオンが挨拶をすると、
いま、何時だと思ってるの!!!
琴葉は綺麗な衣装を纏い、作業服の男におおきな声で言った。
オレは35歳で琴葉より17も歳が上だったが、下請けとしての立場、遅れたことを詫びた。
いや、雪で道路が動かなくてさ、すいません。
ちょっとそこに立って。
琴葉は店の入り口を指さすと、レオンをそこに立たせた。
レオン君、そういうときは、連絡するものなのよ?
店のお客さんもいる中で年下の琴葉はレオンを叱った。
あなたは私に雇われてるの、こういうことじゃ困るわね、さっきね、あなたが遅いから、私、玄関ほうきで掃きにいったの、なんの為の清掃員なの?
すいません‥
はい、すいません‥
17歳も年下の女の子に指摘され、認めてなんどもなんども謝っている中年は、傍目からみて、なんと情けないのだろう。まわりの客の嘲笑するような視線がレオンを突き刺す。
それを気にしているレオンに気づいた琴葉は、意地悪な微笑みを携え、レオンにバケツと雑巾を渡した。
これは?なんですか?
戸惑うレオンに琴葉は言い捨てた。
なにボケッとしてんの?早く掃除しなさい。遅れた罰として今日は手で拭きなさい。店の中ぜんぶ隅々まで、その雑巾で拭くのよ。解った?
年下の女の子に、怒られたあとに、床を雑巾で磨くなんて、何という惨めさだろう、しかも琴葉の声は静かな店内に響き渡っていた。
本をよむふりをした客が、こちらをチラチラみて、レオンの挙動を気にしている。レオンは雑巾を手にとると、床に這いつくばって雑巾をかけ始めた。
すると時折、ここをふきなさい。と琴葉は靴先で床を叩いた。レオンは年下の言われるまま、雑巾でそこを拭き取った。すると、また琴葉は仕事をしながら、レオンの方へ来ると、片手間にこちらを見ずに靴で床を叩く。
年下の靴跡までついた床を、素手で雑巾がけさせられている中年男を、店中の客が哀れんだ目で見ている。レオンは強烈な屈辱感に苛まれながら、店の清掃を終え、残すはレジの床だけになった。レジのブースにはいると、レオンは雑巾を手に床に這いつくばった。
綺麗にするのよ?
琴葉は目の前にたつと、完全に身分の下の者を見るように、見下した。
店は忙しくなってきて、レジブースの中を優雅に右へ左へと歩き回る琴葉。その足元を踏みつぶされないように、逃げぬうようにして掃除しているレオン。なんとみっともない姿だろう。琴葉の足元を拭いていると、琴葉がレオンにつまずいて、レジに置いてあったインクがレオンの頭にバシャーっとかかった。
なにやってんのよ!!インクがこぼれたじゃないの!!
ほら、靴にもかかったよ、どうしてくれるのよ。
琴葉のブーツにほんの少し、インクがかかっていた。
それをレオンが見ていると、琴葉はレオンの頭を本で叩いた。バシッ!!!
舐めて綺麗にしなさいよ!!雑巾も汚いし、おまえなんて今日でクビにするつもりだったけど、もっといい仕事を与えてあげるわ。
レオンは頭からインクをかぶっているのに、かけた年下の女の子に頭を本で叩かれ、おまえ呼ばわりされ、靴についたインクを舐めさせられはじめた。
ぺろっぺろっ
まるで犬のように、舌を琴葉のブーツにのばし、綺麗になるまで舐め続けた。上のほうでは琴葉は素知らぬ顔でレジに立ち、仕事をしている。琴葉はブーツの裏側をレオンに向け、見下した。
ぺろっぺろっ
レオンは琴葉の靴裏をなめさせられた。
経営者と清掃業者の関係は経営者と靴舐め清掃業者に変わった。
その日は、3時間も琴葉の靴を舐めさせられた。
はい、お疲れさま。
琴葉は徐に3000円をひらひら捨てた。
ありがとうございますは?
レオンは床のお札を拾うと、琴葉に土下座をしてお礼を言った。
ありがとうございます‥
その日から、屈辱の日々が始まった。
次の日、お店にいくと、当たり前のように琴葉はブーツをレオンに突きだした。レオンの仕事はもう掃除ではなく、人間以下の身分を人に見せられ、笑われる見せ物として、お店に存在した。
琴葉の靴を舐め終わったら、次はアルバイトの女の子全員の靴、全員に見下され、時には唾を顔に吐きかけられ、負け犬とかいてある名札を付けられた。
そうして一月が経過し、レオンの舌清掃にも飽きた琴葉は、店の端に靴みがきコーナーを作った。20分100円という、馬鹿にしたような安値でレオンに舌を使わせ、それを見て喜んだのだ。
女の子だけならまだしも、時には年下の男、知り合いの女性、はたまた馬鹿そうな、茶髪カップルが訪れることもあった。
なにこの人、靴舐めるらしいよ?馬鹿みたーい!!きっと相当お金に困ってんだね、めぐんであげようよ、乞食にさ、きゃははは〜!!
カップルはレオンに靴を舐めさせながら、まったく無視したように濃厚なキスをして、優越感に浸っていた。
琴葉が遠くのレジからそれを見ている。
琴葉をじっと見つめかえしてみた、まるで愛するものを見つめるように‥
頭上から100円玉が二枚落ちてきた。
琴葉は見るのにも飽きて、むこうを向いてしまった。
もう、琴葉のブーツを舐められることはないだろう。
もしかしたら、
私は琴葉を愛していたのかもしれない…
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