吉田群青 短編集


どうぶつとの4日間




*日目

つめたい手でコピー用紙にペンを走らせていると
不意に雨が降ってきて
傘をさす
それは部屋の中でしか降らない雨で
まあ涙 と形容できる

椅子の背にもたれかかった途端
生温い雨がコピー用紙を濡らしてしまって
何を書いていたのか
何をコピーしたかったのか
さっぱり不明になってしまった

靴下に小さな波が押し寄せる

濡れたコピー用紙で鶴を折った
鶴は折られた端から空中に飛び上がって
やがて消えていった


**日目

雨もすっかり上がった翌朝
びしょびしょのベッドで眼を覚ますと気分爽快だった
鶴の残骸がそこいらにかさかさしている
それらを踏み潰してカーテンを開けた

曇り空

ふと思い立ってバリカンだけ持って階段を降りたら思ったとおり
空の容量からはみ出した羊がひしめいていた

毛を刈ってセーターを編んだ

羊の周りにはわたしと同じく
防寒着を買えなかった貧乏学生が群がっている

手を離すと羊は空へ帰っていった

まるはだかの雲を見つけたらそれはわたしと貧乏学生が刈った羊である

セーターはとても暖かい


***日目

錆びたバリカンを捨てにゴミ捨て場まで出かけると
ビニール袋に詰められた色とりどりの鳥が捨てられていた
口を破って開けてやるとそのまま色とりどりの風に変わって
びゅうう と彼方まで吹いていってしまった


****日目

メールを送受信しつつドーナツを食べていたら
こぼれたカスが床に集まってライオンになった
おとなしく座っているので
ジェロニモ という名前をつけて
ドアノブにつないだ

ジェロニモは生肉は食べずにレタスばかり食べる
毛皮を舐めると甘いので一晩中舐めていた
夜が明けて昼になったら
溶けたらしい 縮んでいた

レタスが無くなったのでスーパーに買いに行く
帰ったらもうジェロニモはいなかった

ライオンの噂は聞かないので
そのまま気化してしまったのだと思う

アパートの庭に勝手にレタスを埋めて
ジェロニモの墓を作っていたら
管理人に水をぶっかけられた

涙が出た




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