吉田群青 短編集


雨の日に変質する



ひがな一日犬の名前を考えて
飽きたので外へ出た
熱帯雨林みたいな
雨が降っている

コンビニで少し雑誌を読んだ
横に熊が立って居る
熊はアフタヌーンなんか読んで
ちょっと笑っている
そのうち熊はわたしを横目で見ながら
りんごを買って
去っていった

追いかけると
駅前で姿を見失った
この辺りに山はないから
きっとどこかの賃貸住宅に住んでいるんだろう

戻りかけると
コンドルに肩を掴まれた
コンドルは今にも死にそうで
ぜいぜいしている
休む場所を探していたんだろう
わたしはコンドルを肩に乗っけたまま
自動販売機でコーヒーを買って
半分飲ませてやった

そのうちコンドルは
排気ガスでけむった空へ飛んでいった
かわいそうに
深呼吸も出来ないだろうな

傘をたたんで
雨に濡れてみた
「可哀想な子供ごっこ」だ
でもすぐに
自分には膨らんだ胸と
むっちりした腰があったことを思い出して
やめた
不思議そうな眼でこっちを見ている子供
傘を差していない
あげるよ
と黒い傘を差し出すと
声も立てずに走っていった
柄をしっかり握り締めて

しかし子供は
五十メートルほど先で
鰐にのまれてしまった

鰐はコインロッカーに住んでいて
鼻先だけ出している
近寄ってみると
くわあ と口を開けた
子供がきちんとおさまっていた
にこにこして
猫のようにうずくまっている
どうやら鰐が母親らしい
幸せに暮らせよ

持っていたレモンキャンディを二つ放り込んでやった

行くところもないので電車を見た
電車にはスーツを着込んだ動物や
つり革に乗った魚なんかがぎゅうぎゅうに押し込まれて
高速で通過していく
雨はそろそろ止みかけていた
今気づいたのだが びしょ濡れだった
犬のように身体を振って
水気を飛ばすと
そのままわたしは茶色い大きな犬になった
毛皮がふさふさしている
愉快だ

べろべろと赤い舌を出しながら
ちゃっちゃっと歩いて家に帰った
鍵をきちんとくわえて

雨のせいだろうか
そこらじゅうに
熱帯の木が生えてきている

自分の名前は
まだ考え付いていない




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