吉田群青 短編集


総天然色


朝起きると、いやに空の青が鮮やかだった。
あまりに鮮やかなので、直視できない程だ。
町に出ると、道行く人たちが、ヴィヴィッドな蛍光色の洋服を着ているように見える。
眼がちかちかして耐えがたい。
公衆便所に入って息を整えた。少し汗をかいている。
髪を整えようと古い鏡に眼をやったときに、あ。と思った。
わたしは、色を失っていた。
いや正確には、わたしの肌から爪から服まで、すべてが白黒になっていた。
あ。あ。あ。と、あ。を何回も繰り返して鏡の前から走り去る。
昨日まで色付きだったはずなのに。
道路によろよろとまろびでると、色が無いからであろうか。非常に所在ない。
誰とも分かり合えないみたいな気持である。
しょぼしょぼと歩いて帰った。
帰宅して押入れの中を探したら、水彩絵の具を見つけた。
色を混ぜ合わせて、元の通りになるように、自分の表面に塗ってみる。
うまくいったかのように思えたが、すぐに汗でどろどろに流れた。
洗面所の前に立ってみる。
鏡の中には化け物のような生き物が、泣きそうな顔をして立ち尽くしている。


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